『魔王』へ嫁入り～魔王の子供を産むために王妃になりました～【完結】

第36話 前進

「これは……ううん」

「…………何か、わかりましたか？」

「大体の予想はつきました」

「も、もう？」

「はい。仮説はあり、これを見て確信に変わりました。ただ、そうですね、これを解決するには陛下に協力してもらう必要があります」

「……そう、ですか」

　ユリウスの手をわずらわせたくなくて、賢者のところに来たのに、結局ユリウスの手をわずらわせることになりそうだった。

「ふふふ」

　賢者は張り詰めた私の気持ちに優しく触れるように微笑んだ。

「大丈夫です、お妃様。陛下はあなたに頼られること、あなたの力になれること、きっと嬉しく思うはずですよ」

「そうだといいのだけれど……」

「私とあなた、どちらが先に陛下に会えるかわかりませんので、陛下に手紙を書きます。会えたら賢者からだと言って渡してください。宝石のことも手紙ですべて説明しておきますのでご心配なく」

「お、お願いします」

　私は頭を下げた。

「さて、せっかくいらしたのです。私が手紙を書いている間に、文字の勉強を進めましょうか」

「は、はい、お願いします」

「これを用意しました」

　賢者が取り出したのは紙に描かれた刺繍の図案だった。

「まあ……」

「まずはこちら、お妃様と陛下の名前の刺繍の図案です。これだけ見て、どう刺せばいいかおわかりになりますか？」

「わかるわ、大丈夫」

「よかった。それから、こちら、現在使われている一般的な文字の一覧、その刺繍の図案です」

「こんなに……」

　文字はざっと数えると30個ほどあった。

「お妃様は刺繍がお得意と聞きました。ですから刺繍をしながら文字を覚える方が書きながら覚えるより効率がいいかもしれません。ただし刺繍できれば書けるというものでもありませんので、書く練習もしてもらいます」

「はい……」

「刺繍の図案には単語の図案もありますから、絵と単語をいっしょに覚えるのはとても効率がいいのですよ」

「あ、絵本も……同じですか？」

「おめざとい」

　賢者が褒めてくれるのはどうにもくすぐったい。
　分不相応な気がしてしまう。

「絵本は絵といっしょに文字が書かれていますからね」

「なるほど……あの、でも、陛下に呼んでもらう必要はあったでしょうか。その、読めるのならニンフやシルフ……司書のアスモデウスさんだっていますし……ただでさえ忙しい陛下にあのようなことを……」

「陛下が望まれたことですから」

「え？」

「文字を覚えるのを努力している王妃の力になりたい。あの方はそうおっしゃいました」

「陛下が……そのように……」

　ユリウス……。
　心にぬくもりが溜まっていくようだった。

　賢者はそんな私を見て微笑んだ。

「さあ、お勉強を始めましょう。宝石なら大丈夫。陛下が協力してくだされば、すぐにあなたの元へ戻ってきますよ」

「は、はい」

　私はうなずいた。