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第25話 年齢
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「傷になってしまいましたね……」
ユリウスがベッドを立つとき、彼の背中が見えた。
私の爪の跡が残っていた。
「痛くはないさ。かわいいものだ」
「それならいいのですが……」
「この傷すら、俺は愛おしい」
「…………」
真っ直ぐな言葉に顔が真っ赤になるのがわかった。
言葉を失う私を、ユリウスは静かに笑って見ていた。
ユリウスは朝食を私の部屋で取るとニンフたちに言いつけた。
見覚えのないニンフとシルフが私の部屋に慌ただしく出入りした。恐らくユリウス付のニンフとシルフなのだろう。
ユリウスの周りを世話するものがいる。それは当然だ。だけどそれが女性の魔族であることに私は少しモヤモヤした。
そんな自分に苦笑してしまう。
そしてさらには泥人形が私の部屋にソファをもう一つ持ち運んできた。
「ゴーレムだ」
一旦自分の部屋に戻ってラフな格好に着替えてきたユリウスが、風呂上がりの私に、ゴーレムを紹介してくれた。
ゴーレムはこちらを一瞥もせずに、仕事に集中していた。
「ゴーレムは力自慢だ。何か力仕事を頼みたいときは呼ぶといい」
「は、はい」
豪勢ながらも自分の座っているソファとはデザインの噛み合わないソファを運び込まれて、私の部屋は人を呼ぶようにはできていなかったのだと気付く。
「……おい、ニンフ、少なくないか?」
私側に並んだ朝食を見て、ユリウスが顔をしかめた。
「あ、いえ、ええと、ニンフは悪くないのです。私が、少なめでいいと……」
「……今までの生活が生活だ。多いのはわかるが、少なすぎるのも問題だ。健康を保つためにも少しずつ量を増やしていけ」
「はい……」
少しうつむいた私に、ユリウスが困ったように頬をかいた。
「……王妃、俺は何も怒っているわけじゃないんだ。……心配なんだ」
「は、はい!」
私はコクコクとうなずいた。
「が、がんばります!」
「がんばりすぎなくてもいいんだからな?」
そう言ってから、ユリウスは何かを思い出した、という顔をした。
「がんばるといえば、賢者が今日さっそく予定が空いているそうだ。昼食の後にでも、賢者の部屋を訪ねるといい」
「賢者……、ええと、文字を持ち込んだ人……ですか?」
「まあ、そうなる。君の文字の教師になる」
「ええと……」
魔界に文字を持ち込んだのは人間の賢者だと昨日ユリウスは言っていた。
つまり魔界に文字が持ち込まれたのはここ数十年のことなのだろうか?
それにしては書庫にある書物はずいぶんと多く、古びた物も多かった。
私の混乱を見越したように、ユリウスが注釈を添えた。
「賢者はもう800歳になる」
「えっ……ええと、人間、ですよね?」
「…………人間でも魔界にいると魔力を体に貯め込むんだ。そうすると肉体が変化をし、魔族に近付く。長寿になったり……魔法が使えるようにもなる」
「……え」
初耳だった。
「……それって、あの、わ、私もですか?」
「……長引けば、いずれ」
さすがに事前に聞いておきたかった。
いや、聞いていたところで拒否することもできなかっただろうが。
「……ええと、じゃあ、私も何百歳とか生きていくことになるんですか?」
「……そうだな」
「……じゃあ、ユリっ……陛下とも、長く一緒にいれますか?」
「…………ああ」
ユリウスはうなずき、笑ってくれた。
魔界で長く生きていくのは不安が大きかった。
それでもユリウスが一緒なら、大丈夫な気がした。
「……ええと、そうなると陛下は今おいくつなのですか?」
自分とそう変わらない気がしていたが、100歳とか言われてもおかしくはない。
「……ええと、23歳、だったかな、たしか」
ユリウスは指折り数えだした。
「あ、あんまり私と変わりませんね……」
「魔族は若い内は大体人間と同じくらいの成長速度だ。幼児期が長いと危険だからな。なんなら生まれた瞬間に成人してるようなのもいる」
「なるほど……つまり陛下の成長が止まるのはこれからなのですね……?」
「たぶんな」
なかなか曖昧な返事だった。魔族自身にもそこら辺は曖昧なのかも知れない。
ユリウスがベッドを立つとき、彼の背中が見えた。
私の爪の跡が残っていた。
「痛くはないさ。かわいいものだ」
「それならいいのですが……」
「この傷すら、俺は愛おしい」
「…………」
真っ直ぐな言葉に顔が真っ赤になるのがわかった。
言葉を失う私を、ユリウスは静かに笑って見ていた。
ユリウスは朝食を私の部屋で取るとニンフたちに言いつけた。
見覚えのないニンフとシルフが私の部屋に慌ただしく出入りした。恐らくユリウス付のニンフとシルフなのだろう。
ユリウスの周りを世話するものがいる。それは当然だ。だけどそれが女性の魔族であることに私は少しモヤモヤした。
そんな自分に苦笑してしまう。
そしてさらには泥人形が私の部屋にソファをもう一つ持ち運んできた。
「ゴーレムだ」
一旦自分の部屋に戻ってラフな格好に着替えてきたユリウスが、風呂上がりの私に、ゴーレムを紹介してくれた。
ゴーレムはこちらを一瞥もせずに、仕事に集中していた。
「ゴーレムは力自慢だ。何か力仕事を頼みたいときは呼ぶといい」
「は、はい」
豪勢ながらも自分の座っているソファとはデザインの噛み合わないソファを運び込まれて、私の部屋は人を呼ぶようにはできていなかったのだと気付く。
「……おい、ニンフ、少なくないか?」
私側に並んだ朝食を見て、ユリウスが顔をしかめた。
「あ、いえ、ええと、ニンフは悪くないのです。私が、少なめでいいと……」
「……今までの生活が生活だ。多いのはわかるが、少なすぎるのも問題だ。健康を保つためにも少しずつ量を増やしていけ」
「はい……」
少しうつむいた私に、ユリウスが困ったように頬をかいた。
「……王妃、俺は何も怒っているわけじゃないんだ。……心配なんだ」
「は、はい!」
私はコクコクとうなずいた。
「が、がんばります!」
「がんばりすぎなくてもいいんだからな?」
そう言ってから、ユリウスは何かを思い出した、という顔をした。
「がんばるといえば、賢者が今日さっそく予定が空いているそうだ。昼食の後にでも、賢者の部屋を訪ねるといい」
「賢者……、ええと、文字を持ち込んだ人……ですか?」
「まあ、そうなる。君の文字の教師になる」
「ええと……」
魔界に文字を持ち込んだのは人間の賢者だと昨日ユリウスは言っていた。
つまり魔界に文字が持ち込まれたのはここ数十年のことなのだろうか?
それにしては書庫にある書物はずいぶんと多く、古びた物も多かった。
私の混乱を見越したように、ユリウスが注釈を添えた。
「賢者はもう800歳になる」
「えっ……ええと、人間、ですよね?」
「…………人間でも魔界にいると魔力を体に貯め込むんだ。そうすると肉体が変化をし、魔族に近付く。長寿になったり……魔法が使えるようにもなる」
「……え」
初耳だった。
「……それって、あの、わ、私もですか?」
「……長引けば、いずれ」
さすがに事前に聞いておきたかった。
いや、聞いていたところで拒否することもできなかっただろうが。
「……ええと、じゃあ、私も何百歳とか生きていくことになるんですか?」
「……そうだな」
「……じゃあ、ユリっ……陛下とも、長く一緒にいれますか?」
「…………ああ」
ユリウスはうなずき、笑ってくれた。
魔界で長く生きていくのは不安が大きかった。
それでもユリウスが一緒なら、大丈夫な気がした。
「……ええと、そうなると陛下は今おいくつなのですか?」
自分とそう変わらない気がしていたが、100歳とか言われてもおかしくはない。
「……ええと、23歳、だったかな、たしか」
ユリウスは指折り数えだした。
「あ、あんまり私と変わりませんね……」
「魔族は若い内は大体人間と同じくらいの成長速度だ。幼児期が長いと危険だからな。なんなら生まれた瞬間に成人してるようなのもいる」
「なるほど……つまり陛下の成長が止まるのはこれからなのですね……?」
「たぶんな」
なかなか曖昧な返事だった。魔族自身にもそこら辺は曖昧なのかも知れない。
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