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第18話 書庫
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どこかカビ臭い室内には本がぎっしりと詰まっていた。
上から下まで本で埋め尽くされた空間に、私は口を開いて、佇む。
こんなにもたくさんの本がこの世にあることすら、私は知らなかった。
「王妃」
しばらく呆けていると、私を呼ぶ声がした。
声がした方に歩みを進めると、ユリウスが本を片手にそこにいた。
「陛下」
ユリウスの隣には雄羊の頭を持った魔族がいた。
明らかに人間離れした魔族を見るのはレヴィアタン以来だ。少し怖いと思ってしまう自分がいる。
私の視線に気付いたのか、ユリウスが羊頭の魔族を指し示す。
「ああ、こいつはアスモデウス。書庫の司書だ」
「お、おはようございます」
「おはようございます、お妃様」
アスモデウスはとても低い声でそう言うと、羊の頭を深々と下げた。
真っ白い頭頂部がこちらに向く。
「俺は資料を探しているところだ。君は城内の見回り中か。どうだ、書庫は、何か読みたい本があれば持っていくといい」
「あ、いえ……あの、私……も、文字が読めないので……」
顔が赤くなってるのがわかる。ああ、恥ずかしい。
どうしようもないこととはいえ、教養がないことを知られてしまった。
「ああ、そうだったのか」
こともなげにユリウスはうなずいた。
私の無知を嘲る様子はない。
「……そういえば、ん、では、あの本は?」
「あれは……あれは父の形見でして」
「……そうなのか」
ユリウスが複雑そうな顔をした。
その表情にどんな思いが詰まっているのが、私にはよく分からない。
「……文字、読めるようになりたいか? 王妃」
しばらくして、ユリウスはなんてことはないように、そう尋ねてきた。
「え……」
そんなことは、考えたこともなかった。
文字が読めるようになる、そんな自分を私は考えたこともなかった。
どうだろう、読みたいのだろうか、私は文字を。
……文字が読めるようになれば、あの本の中身も読めるのだろうか。
あの本を、読みたいのだろうか、私は。
私と母を捨てていった父の本。
「あ、でも、ええと、人間界と魔界の文字って同じ……なのですか?」
「魔界に文字を持ち込んだのは人間界の賢者だ」
「え……?」
「魔界にはそれまで文字がなかった。だから多少は変化もしているだろうが、大体は同じだ」
「そう、なのですか……」
私は少し考え込んで、そしてユリウスの目を見た。
真っ直ぐな、優しい目をしていた。
「文字を……読みたいです。読めるようになりたいです」
「わかった。教師を手配する」
ユリウスは深くうなずいた。
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