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第8話 遺されたただ一つ
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セシリアは赤ん坊を産んだ。
レイナルドと同じ銀の髪の男の子だった。
「セシリア、セシリア、迎えに来たよ」
その夜、眠りに落ちていたセシリアは確かにレイナルドの声を聞いた。
「……レイナルド」
「ああ、すっかり綺麗な声に戻ったね」
「あなたどうしてここにいるの……?」
「だって子供が生まれたんだ。会わないわけにはいかないよ。君のことだって心配だったんだ。私の姉は産後の肥立ちが悪くて死んでしまったしね」
「そう……」
セシリアはようやく目を開いた。
レイナルドは心底まぶしそうに自分の息子を抱いていた。
「さあ、セシリア、一緒に行こう……」
「ええ、一緒に行ってあげる。あげるから……その子は置いていきましょう」
「どうして? 私たちの子供だよ?」
「……この子の分の責め苦も、私が負うから。だから許してあげましょう、この子を」
「……セシリア……」
「私もあなたを許すから……一緒に行きましょう。一緒にいてあげるから」
「…………わかった」
名残惜しそうに息子を手放すとレイナルドはセシリアを抱き締めた。
「ありがとう、セシリア」
「……レイナルド」
抱き返すことはせずに、セシリアはレイナルドの名前を静かに呼んだ。
「なんだい」
「あなた、私の何が好きだったの?」
「君、あのパーティーで爵位が上の男に食ってかかってただろう」
「あれは、その、友達がひどいからかいを受けたから……淑女とは思えない振る舞いだったと自分でも思ってるわ……」
「その姿が、綺麗だった」
「……それだけ?」
「うん、それだけ」
「そう……レイナルド、あなたは本当に……誰かに助けてほしかっただけだったのね……」
「そう、かもしれない」
「いいわ。大丈夫。一緒にいるからね……」
「愛してるよ、セシリア」
「……ごめんなさい、レイナルド」
その翌朝、セシリアが寝室で縄で首を吊っている姿が発見された。
その日の前の晩、レイナルドは幽閉されていた高い塔の上から身を投げた。
それからさらに数年後――。
その少年は縄を宝物にしていた。
どれほど祖父母が不吉だと嫌がっても、縄を取り上げると泣き叫んだ。
縄は千切れていて短く、手首にすら巻けない長さだった。
それでも少年はその縄をいつでもポケットに忍ばせて握り締めていた。
少年は言った。その縄を握っていると困ったときには金の髪の女性と銀の髪の男性が自分を助けてくれるのだと。
周囲はそれを聞いて、少年から縄を取り上げることをやめた。
少年は健やかに成長し、両親を亡くしているという逆境にも負けず、幸せに過ごしたという。
レイナルドと同じ銀の髪の男の子だった。
「セシリア、セシリア、迎えに来たよ」
その夜、眠りに落ちていたセシリアは確かにレイナルドの声を聞いた。
「……レイナルド」
「ああ、すっかり綺麗な声に戻ったね」
「あなたどうしてここにいるの……?」
「だって子供が生まれたんだ。会わないわけにはいかないよ。君のことだって心配だったんだ。私の姉は産後の肥立ちが悪くて死んでしまったしね」
「そう……」
セシリアはようやく目を開いた。
レイナルドは心底まぶしそうに自分の息子を抱いていた。
「さあ、セシリア、一緒に行こう……」
「ええ、一緒に行ってあげる。あげるから……その子は置いていきましょう」
「どうして? 私たちの子供だよ?」
「……この子の分の責め苦も、私が負うから。だから許してあげましょう、この子を」
「……セシリア……」
「私もあなたを許すから……一緒に行きましょう。一緒にいてあげるから」
「…………わかった」
名残惜しそうに息子を手放すとレイナルドはセシリアを抱き締めた。
「ありがとう、セシリア」
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抱き返すことはせずに、セシリアはレイナルドの名前を静かに呼んだ。
「なんだい」
「あなた、私の何が好きだったの?」
「君、あのパーティーで爵位が上の男に食ってかかってただろう」
「あれは、その、友達がひどいからかいを受けたから……淑女とは思えない振る舞いだったと自分でも思ってるわ……」
「その姿が、綺麗だった」
「……それだけ?」
「うん、それだけ」
「そう……レイナルド、あなたは本当に……誰かに助けてほしかっただけだったのね……」
「そう、かもしれない」
「いいわ。大丈夫。一緒にいるからね……」
「愛してるよ、セシリア」
「……ごめんなさい、レイナルド」
その翌朝、セシリアが寝室で縄で首を吊っている姿が発見された。
その日の前の晩、レイナルドは幽閉されていた高い塔の上から身を投げた。
それからさらに数年後――。
その少年は縄を宝物にしていた。
どれほど祖父母が不吉だと嫌がっても、縄を取り上げると泣き叫んだ。
縄は千切れていて短く、手首にすら巻けない長さだった。
それでも少年はその縄をいつでもポケットに忍ばせて握り締めていた。
少年は言った。その縄を握っていると困ったときには金の髪の女性と銀の髪の男性が自分を助けてくれるのだと。
周囲はそれを聞いて、少年から縄を取り上げることをやめた。
少年は健やかに成長し、両親を亡くしているという逆境にも負けず、幸せに過ごしたという。
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