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第4章 赤く咲く花

第38話 弔い

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 数日間にわたる苛烈な拷問の末、始水殿の医官は首謀者と共犯者を吐いた。
 首謀者は凜凜が顔も知らぬ妃嬪のひとりであった。
 彼女は地方の豪族の娘だった。
 皇帝は妃嬪と医官、その共犯者たちを一人残らず凌遅刑りょうちけいに処した。
 彼らがいかにむごたらしく悲鳴を上げて死んでいったのか、凜凜は聞きたくはなかったが、自然と耳に入ってきてしまった。
 時間を掛けて罪人の四肢を端から少しずつ斬り落とさせ、その骸は豚に食わせたのだという。
 皇帝の処断はそれに留まらず、薬を工面したと断じられた地方の豪族も、皇帝の弟が率いる軍に攻め込まれ滅ぼされた。

「……私の采配のせいだ」
 皇帝は深く沈み込んでそう言った。
 首謀者達を討ち滅ぼしても、彼の気は少しも晴れなかった。
「どうか、面を上げてくださいませ」
 凜凜は寝台の上からそんな皇帝の頬に手を当てた。
 彼女の方から皇帝に触れるのはとても珍しいことだった。
「あの子を丁重に弔ってあげてください。それが供養となりましょう。私はこの通り、まだ動けませぬので、陛下、どうか、お願いしますね……」
「ああ、むろんだ」
 皇帝はうっすらと目に浮かんだ涙を拭いながらうなずいた。
「それはそうと凜凜、体がある程度落ち着いたら始水殿から動いてもらう。もう目の届かぬところにお前を置いてはおけぬ。央麒殿に移れ」
「……ですが、御子を生めず、次に子がなせるかもわからぬと言われた私に、そのような大きな扱いは……」
 凜凜はまだたまに痛む腹を押さえた。そこに再び子が宿るかはわからないと医官は泣きながら告げた。
 医官はよく見れば、凜凜が最初に皇帝に出会ったときに皇帝に対応していた医官だった。雪英や古堂の様子を見てくれていたのも彼であった。
 長らく凜凜の心労を近くで見ていた医官は、凜凜の子が流れたのを、我が事のように悼んでくれた。まだ自分にそのように優しく接してくれる人がいることが、凜凜の心を僅かばかり慰めた。
「もう決めた。お前には貴妃きひの位を贈る」
「そ、それは……」
 貴妃、夫人に与えられる位。賢妃であった雪英と並んでしまう。
「もう決めたことだ。誰にも口出しはさせぬ。もちろん子の弔いは大々的に行う。……それから、やはり央角星の娘を悪鬼として祓う」
「……それは」
 胸が痛んだ。後宮に凜凜の子が流れたのは雪英の祟りだと根も葉もない噂が流れていた。しかし凜凜はそれを信じはしなかった。雪英のせいなどであってたまるものか。
「……これは後宮の人心が乱れているためだ。私はお前の言葉を信じているよ、凜凜。お前の愛した主人はお前の子に祟ったりはしない。お前の言葉を信じている。ただ、後宮の乱れた気配を正すためなのだ。受け入れてくれ」
「……承知、しました」
 凜凜は苦しい胸を隠してうなずいた」
「すまないな、私の力が足りぬばかりに」
 少しやつれた顔で皇帝はそう言った。

 ――たとえば、雪英様の死を、陛下がこれほどまでに悼んでくれたなら、私は雪英様の死について、あなたを恨みに思ったりはせずに済んだのでしょうか。
 凜凜は密かにそう思った。

 枯れ葉が舞う中で、凜凜の子は丁重に弔われ、そして雪英の悪鬼祓いが行われた。
 寒々しい秋を、凜凜はひとりで過ごした。
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