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第2章 石の花

第14話 再訪

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 そして、七日と経たずに二度目の皇帝からの呼び出しがあった。
 古堂は凜凜に前のものとは違うが、それでもやっぱり豪華な衣を着せた。
 これは本当は雪英のために用意されたものだったのではないだろうかと凜凜は遅まきながら気付いた。
 ふたりの背丈はそう変わらなかった。
 しかし気付いたところで脱ぎ捨てることなどできなかった。
 輿が迎えに来て、凜凜は否応なくそれに乗せられた。
 助けを求めるように古堂に視線をやったけれど、古堂は首を横に振るばかりだった。

 凜凜を房に迎え入れた皇帝は安らいだ様子で、寝台に横たわりながら凜凜の髪を優しく撫でた。
「…………」
 凜凜は前回自分を襲った痛みを思い出し、少し体をすくめた。
「凜凜、何かほしいものはあるか」
 その声はとても優しかった。
「ほ、ほしいもの、ですか?」
 思いがけない言葉に凜凜は戸惑う。
「ああ」
「……で、でしたら、央賢妃様の元へ……」
「お前自身へ贈るものだ」
 皇帝はにべもなかった。
「…………」
 凜凜が皇帝の元から何を持ち帰ろうと、雪英は喜びはしないだろう。
 きっとその事実は雪英を苦しめるばかりだ。
 だから凜凜はしばらく考え込んだ。考えれば考えるほど時間を先延ばしできると思った。
 その思考を見透かされたのだろう。焦れたように皇帝が凜凜の肩を寝台に押し倒した。
「……きゃ……」
 それは、悲鳴ではなかった。
「伽羅の香りを……人形に焚きしめたいのですが……」
「人形」
 皇帝はうっすらと笑った。
 閨に呼ばれるような年頃の女が人形を大事にしているなど、確かに笑われても仕方ない。
「伽羅か、いいだろう。用意させる」
「ありがとう……ございます……」
 お礼を言う唇を、皇帝は自分の唇で塞いだ。
 後はもう、なすがままであった。
 拒絶も抵抗も許されない夜がまた始まった。
 痛みと陶酔に凜凜は溺れていった。

 二度目の朝はいくらかマシであった。
 だけどこれに慣れるのは嫌だった。
 いっそ何か無礼でも働けば、皇帝は自分を手放してくれるだろうかと凜凜は思案した。
 しかし、自分の無礼は主の、つまり雪英の無礼になってしまう。そう思うとどうしても踏み切れなかった。
 そもそも医局でのあの無礼すら許した皇帝が許さぬ無礼が思い付かなかった。
 重たい心と体を引きずって、凜凜はまた玄冬殿へと輿で戻った。
 相変わらず外は雪景色であった。

 翌日には、玄冬殿に伽羅とお茶が届いた。
 喉に効く茶だと添え書きにあった。
 凜凜の喉がかすれているのを、皇帝は気付いていたらしい。
 捨てるわけにもいかなかった。元同僚の宮女が煎れてくれたお茶は、凜凜の喉に染み入った。

 そして凜凜は古びた人形に伽羅の匂いを焚きしめた。
 凜凜はそれを握らずには眠れないようになっていた。
 しかしこの人形を雪英からいただいたときのようなふたりにはもう戻れないのだろうと、凜凜は悟りつつあった。
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