13 / 43
第2章 石の花
第13話 距離
しおりを挟む
昼過ぎに目を覚ました凜凜を待っていたのは、荷物をまとめるようにとの古堂からの言いつけだった。
自分は玄冬殿を追い出されるのだろうかと戦々恐々としながら、おとなしく数少ない荷物をまとめた。
そんな凜凜が連れて行かれたのは玄冬殿の中の空き部屋だった。
使われていなかったせいで、いささか埃っぽいものの、大きな寝台と卓、椅子が二脚置かれている。
ただの宮女に与えられるにはあまりに大きすぎる部屋だった。
「あ、あの……」
戸惑う凜凜を古堂は部屋の中に押し込めた。
「仮に一回きりだろうと陛下の寵愛を受けたんだ、相部屋にはもう置いておけないよ」
「はあ……」
すでにそれをもう夢の中の出来事のように思っていた凜凜の胸に、昨夜のことが湧き出てきた。
顔は赤くなり、体中の痛みがぶり返した。
そんな一夜の思い出を切り裂くように、凜凜の脳裏には雪英の歪んだ表情が浮かんだ。凜凜の胸は体の痛み忘れるほどに痛んだ。
「……あの、古堂様、雪英様は」
「…………あの後寝込まれた。お前が会いに行くことは許されない」
「せ、雪英様がそうおっしゃったのですか……?」
「……あの方は、何もおっしゃっていない」
古堂の表情は複雑だった。
「おっしゃっていないけれど……察しておくれ」
凜凜の胸は痛んだ。
「はい……」
うつむいて、凜凜は一人の部屋に入った。
古堂はさっさと去っていってしまった。
「…………」
荷物を取り出し、部屋に置く。凜凜の荷物では戸棚は隙間だらけになった。
雪英にもらった人形を、ぎゅっと握り締めてから、戸棚にしまい込んだ。
その日から、凜凜の待遇は変わった。
お前は何も仕事をしなくていいと言われた。
雪英の側に侍ることもできなくなった。
朝昼晩の食事は部屋に運ばれてきた。
体を清めるための水もそれまでは冷水そのままだったのが、わざわざお湯にして持ってきてもらえるようになった。
まるで一気に公主様にでもなったかのような扱いだった。
けれども凜凜はちっとも嬉しくなかった。
部屋からはできるだけ出るなと言われた。
雪英に合わせる顔がないからだと、凜凜は承知していた。
一度だけ、窓の桟の間から、雪英を見かけた。
顔は青く、体は引きずるようで、周りの宮女に支えられるようにして歩いていた。
その姿に凜凜は心を痛めたが、無力な彼女に何も出来ることなどなかった。
自分は玄冬殿を追い出されるのだろうかと戦々恐々としながら、おとなしく数少ない荷物をまとめた。
そんな凜凜が連れて行かれたのは玄冬殿の中の空き部屋だった。
使われていなかったせいで、いささか埃っぽいものの、大きな寝台と卓、椅子が二脚置かれている。
ただの宮女に与えられるにはあまりに大きすぎる部屋だった。
「あ、あの……」
戸惑う凜凜を古堂は部屋の中に押し込めた。
「仮に一回きりだろうと陛下の寵愛を受けたんだ、相部屋にはもう置いておけないよ」
「はあ……」
すでにそれをもう夢の中の出来事のように思っていた凜凜の胸に、昨夜のことが湧き出てきた。
顔は赤くなり、体中の痛みがぶり返した。
そんな一夜の思い出を切り裂くように、凜凜の脳裏には雪英の歪んだ表情が浮かんだ。凜凜の胸は体の痛み忘れるほどに痛んだ。
「……あの、古堂様、雪英様は」
「…………あの後寝込まれた。お前が会いに行くことは許されない」
「せ、雪英様がそうおっしゃったのですか……?」
「……あの方は、何もおっしゃっていない」
古堂の表情は複雑だった。
「おっしゃっていないけれど……察しておくれ」
凜凜の胸は痛んだ。
「はい……」
うつむいて、凜凜は一人の部屋に入った。
古堂はさっさと去っていってしまった。
「…………」
荷物を取り出し、部屋に置く。凜凜の荷物では戸棚は隙間だらけになった。
雪英にもらった人形を、ぎゅっと握り締めてから、戸棚にしまい込んだ。
その日から、凜凜の待遇は変わった。
お前は何も仕事をしなくていいと言われた。
雪英の側に侍ることもできなくなった。
朝昼晩の食事は部屋に運ばれてきた。
体を清めるための水もそれまでは冷水そのままだったのが、わざわざお湯にして持ってきてもらえるようになった。
まるで一気に公主様にでもなったかのような扱いだった。
けれども凜凜はちっとも嬉しくなかった。
部屋からはできるだけ出るなと言われた。
雪英に合わせる顔がないからだと、凜凜は承知していた。
一度だけ、窓の桟の間から、雪英を見かけた。
顔は青く、体は引きずるようで、周りの宮女に支えられるようにして歩いていた。
その姿に凜凜は心を痛めたが、無力な彼女に何も出来ることなどなかった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
ある公爵令嬢の生涯
ユウ
恋愛
伯爵令嬢のエステルには妹がいた。
妖精姫と呼ばれ両親からも愛され周りからも無条件に愛される。
婚約者までも妹に奪われ婚約者を譲るように言われてしまう。
そして最後には妹を陥れようとした罪で断罪されてしまうが…
気づくとエステルに転生していた。
再び前世繰り返すことになると思いきや。
エステルは家族を見限り自立を決意するのだが…
***
タイトルを変更しました!
英雄になった夫が妻子と帰還するそうです
白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。
愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。
好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。
今、目の前にいる人は誰なのだろう?
ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。
珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥)
ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。
誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら
Rohdea
恋愛
───酔っ払って人を踏みつけたら……いつしか恋になりました!?
政略結婚で王子を婚約者に持つ侯爵令嬢のガーネット。
十八歳の誕生日、開かれていたパーティーで親友に裏切られて冤罪を着せられてしまう。
さらにその場で王子から婚約破棄をされた挙句、その親友に王子の婚約者の座も奪われることに。
(───よくも、やってくれたわね?)
親友と婚約者に復讐を誓いながらも、嵌められた苛立ちが止まらず、
パーティーで浴びるようにヤケ酒をし続けたガーネット。
そんな中、熱を冷まそうと出た庭先で、
(邪魔よっ!)
目の前に転がっていた“邪魔な何か”を思いっきり踏みつけた。
しかし、その“邪魔な何か”は、物ではなく────……
★リクエストの多かった、~踏まれて始まる恋~
『結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが』
こちらの話のヒーローの父と母の馴れ初め話です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
戻る場所がなくなったようなので別人として生きます
しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。
子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。
しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。
そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。
見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。
でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。
リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。
後宮の系譜
つくも茄子
キャラ文芸
故内大臣の姫君。
御年十八歳の姫は何故か五節の舞姫に選ばれ、その舞を気に入った帝から内裏への出仕を命じられた。
妃ではなく、尚侍として。
最高位とはいえ、女官。
ただし、帝の寵愛を得る可能性の高い地位。
さまざまな思惑が渦巻く後宮を舞台に女たちの争いが今、始まろうとしていた。
彼女を妃にした理由
つくも茄子
恋愛
ファブラ王国の若き王が結婚する。
相手はカルーニャ王国のエルビラ王女。
そのエルビラ王女(王妃)付きの侍女「ニラ」は、実は王女の異母姉。本当の名前は「ペトロニラ」。庶子の王女でありながら母親の出自が低いこと、またペトロニラの容貌が他の姉妹に比べて劣っていたことで自国では蔑ろにされてきた。今回も何らかの意図があって異母妹に侍女として付き従ってきていた。
王妃付きの侍女長が彼女に告げる。
「幼い王女様に代わって、王の夜伽をせよ」と。
拒むことは許されない。
かくして「ニラ」は、ファブラ王国で王の夜伽をすることとなった。
お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる