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第2章 石の花
第12話 黒い足跡のように
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それはすべてが初めてのことだった。
凛凛には何が起きているのかすべてを把握することはできなかった。
痛みや恐怖にポロポロ泣き、声を上げる凜凜を、皇帝は優しくなだめながらも、その手を止めはしなかった。
凜凜の全ては皇帝の手の元に暴かれ、皇帝のすべてを凜凜はされるがままに受け止めた。
小さな痛みを感じるたびに、凜凜の体の上に赤い花が咲いていった。
それは宮女の身には余る光栄だっただろうが、そこに喜びは一切なかった。
――怖い、痛い、これは何。これをお妃様達は求めていらっしゃるの? 雪英様も?
行為の最中、凜凜の脳裏にはただひたすら雪英の青ざめた顔が浮かんでいた。
――せつえいさま、たすけて。
心の奥底でそう叫んでも、もちろん返事はなく、凜凜は夜通し皇帝の腕の中でその身を明け渡した。
朝が来る頃には凜凜はぐったりと眠りについていた。
女官に揺り起こされたときには皇帝はもういなかった。
大量の朝餉が用意されていた。凜凜は粥をただひたすら飲み込んだ。
病人用の味付けというわけでもあるまいに、驚くほど味がしなかった。
歩くのにひどく苦労して、ギクシャクと歩きながら輿に再び乗せられた。
雪はもう止んでいたが、まだ分厚く積もっていた。
――早く雪英様のところに帰りたい。
外に積もる雪を見て凜凜は真っ先にそう思った。
しかし白く綺麗な雪は、輿を担ぐ者達の足でどんどんと黒く汚れていった。
途端に自分の体が踏み荒らされた雪と同じようにひどく汚れているような気がして、凜凜は全身をかきむしりたくなった。
――こんな体では雪英様の前には出られない……。
凜凜はその身を抱き締めると、シクシクと輿の中で泣き続けた。
玄冬殿に戻ると、古堂が迎え入れてくれた。
「お腹は空いていないかい? 体は冷えていない? 痛いところはあるかい?」
古堂がこれほどまでに思いやりをもって凜凜に接するのは初めてのことだった。
うっすらと白檀の香りがした。今日ほどその香りを懐かしく支えに思ったことはなかった。
「……眠りたい」
凜凜はやっとの思いで喉からその一言を絞り出した。一晩中声を上げ続けた喉は、ひどくかすれていた。
「わかった」
古堂は凜凜を宮女の部屋に連れて行き、起こさぬようにと周りの者に申し伝えた。
凜凜は枕の下に手を伸ばした。
かつて、遠い昔に雪英がくれた人形が手に触れた。
もう残ってはいないはずの伽羅の香りを嗅いだ気がして、凜凜はしばしの穏やかな眠りについた。
痛みも恐怖も眠りの中に溶けていくようだった。
凛凛には何が起きているのかすべてを把握することはできなかった。
痛みや恐怖にポロポロ泣き、声を上げる凜凜を、皇帝は優しくなだめながらも、その手を止めはしなかった。
凜凜の全ては皇帝の手の元に暴かれ、皇帝のすべてを凜凜はされるがままに受け止めた。
小さな痛みを感じるたびに、凜凜の体の上に赤い花が咲いていった。
それは宮女の身には余る光栄だっただろうが、そこに喜びは一切なかった。
――怖い、痛い、これは何。これをお妃様達は求めていらっしゃるの? 雪英様も?
行為の最中、凜凜の脳裏にはただひたすら雪英の青ざめた顔が浮かんでいた。
――せつえいさま、たすけて。
心の奥底でそう叫んでも、もちろん返事はなく、凜凜は夜通し皇帝の腕の中でその身を明け渡した。
朝が来る頃には凜凜はぐったりと眠りについていた。
女官に揺り起こされたときには皇帝はもういなかった。
大量の朝餉が用意されていた。凜凜は粥をただひたすら飲み込んだ。
病人用の味付けというわけでもあるまいに、驚くほど味がしなかった。
歩くのにひどく苦労して、ギクシャクと歩きながら輿に再び乗せられた。
雪はもう止んでいたが、まだ分厚く積もっていた。
――早く雪英様のところに帰りたい。
外に積もる雪を見て凜凜は真っ先にそう思った。
しかし白く綺麗な雪は、輿を担ぐ者達の足でどんどんと黒く汚れていった。
途端に自分の体が踏み荒らされた雪と同じようにひどく汚れているような気がして、凜凜は全身をかきむしりたくなった。
――こんな体では雪英様の前には出られない……。
凜凜はその身を抱き締めると、シクシクと輿の中で泣き続けた。
玄冬殿に戻ると、古堂が迎え入れてくれた。
「お腹は空いていないかい? 体は冷えていない? 痛いところはあるかい?」
古堂がこれほどまでに思いやりをもって凜凜に接するのは初めてのことだった。
うっすらと白檀の香りがした。今日ほどその香りを懐かしく支えに思ったことはなかった。
「……眠りたい」
凜凜はやっとの思いで喉からその一言を絞り出した。一晩中声を上げ続けた喉は、ひどくかすれていた。
「わかった」
古堂は凜凜を宮女の部屋に連れて行き、起こさぬようにと周りの者に申し伝えた。
凜凜は枕の下に手を伸ばした。
かつて、遠い昔に雪英がくれた人形が手に触れた。
もう残ってはいないはずの伽羅の香りを嗅いだ気がして、凜凜はしばしの穏やかな眠りについた。
痛みも恐怖も眠りの中に溶けていくようだった。
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