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第1章 雪と石と

第3話 使いの先で

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「凜凜! 凜凜はどこ!」
 外は寒くて、裸足で立たされた足は凍えそう。そんな中、主の甲高い声が遠くから聞こえてきた。
「いた! こんなところにいた!」
 主の声に凜凜は涙に濡れた顔を上げる。
「雪英お嬢様、凜凜は無作法をしたので今折檻を……」
 見張りの宮女が駆け寄ってきた雪英に困った顔をする。
「関係ないわ! 凜凜は私の侍女なのだから! 私が好きにするのよ! ほら、部屋に戻るわよ、凜凜。お茶にしましょう。そうしたらおままごとをするのよ。今日は特別に私の公主様の人形をお前に貸してあげる」
「雪英様ぁ……」
「ほら、泣くのはおよし」
 ぎゅっと引っ張られた手は、いつでも暖かくて、冬の凍てつく中、凜凜の寒さはそこから溶けていくようだった。

 それは遠い昔の記憶。凜凜の大事な子供の頃の記憶。

◇◇◇

 その日、凜凜は雪英の薬を取りに、医局へ向かっていた。
 急に寒くなったので、雪英が腹の調子を崩してしまったのだ。
 名前とは裏腹に、雪英は冬にはめっぽう弱かった。季節が変わるごとに体調を崩すが、冬は特にひどい。
 玄冬殿で持たされた薬の覚え書きを片手に凜凜は医局へ急いだ。
「ごめんください。央賢妃様の使いで参りました」
「はいはい」
 医官の宦官が慌ただしく出てくる。
「こちらの薬をいただきたいのですが……」
 覚え書きを差し出すと宦官はふむふむと素速く目を通す。
「すべて揃っております。こちらに掛けてお待ちください」
 椅子を勧められ、凜凜はちょこんと腰掛ける。
 医局の中は宦官や宮女が慌ただしく駆け回っていた。
 この急な寒さだ、雪英以外にも体を悪くした者が多くいるのかもしれない。
「…………」
 医局が物珍しくてキョロキョロとしている凜凜に、年配の宮女がお茶を持ってきてくれた。
「よかったら、どうぞ。健康によいお茶よ。あなたみたいな若い宮女は無理をさせられて体を悪くする子が多いから」
「あ、ありがとうございます」
 笑顔の宮女からお茶を受け取る。少し苦みのあるお茶は、あたたかくて五臓六腑に染み渡った。
 凜凜がお茶をちびちびと飲んでいると、医局の外からざわめきが聞こえてきた。
 凜凜が振り返るのと同時に、その頭を駆け寄ってきた宦官の手が抑えつけた。
「平伏だ! 平伏しなさい!」
「は、はい!?」
 驚きながらも従うとざわめきは医局の中に入ってきた。
「これはこれは!」
 奥の方から年老いた宦官の走りくる音がした。
「へ、陛下、この度は医局に何のご用でしょうか!」
 ――陛下?
 その言葉に凜凜の胸はどくんと高鳴った。
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