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第32話 旅路の始まり
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「ありがとう、アルフレッド」
ローレンスは従弟の顔をしみじみと見つめた。
「君の決断力に感服するよ」
「いえ、恐れ多い事です」
「というわけで、まあ、そうは言っても正式な婚姻は18になってからだ。まだ7年もある。その間にサーヴィス公爵も心変わりするかもしれない。端的なことを言えば、クレア嬢が死ぬかもしれないし、私に子供ができないかもしれない」
「……縁起でもない」
「うん、でも、考えておかねばならぬ事だからね」
「……はい」
ベアトリクスは複雑な顔で黙り込んだ。
「で、7年もの間……ベアトリクス、君も独身ってわけにはいくまい。25才は完全に行き遅れだ」
この国の王族としては、そうなってしまう。
「で、ですが、陛下、わたくしには……」
「うん、分かってる」
ローレンスはランドルフに視線をやった。
「でも、一応形ばかりの婚活はしてもらうよ。俺の婚約が発表されたら、もう、君も気兼ねなく王宮のパーティーに出席できるだろう?」
「……お気づきでしたか」
ベアトリクスがローレンスを狙う令嬢達に遠慮して王宮のパーティーに出なくなったことは、バレていたらしい。
「そりゃね……で、諸々を発表する前に、君に頼みたいことがあるんだ、ベアトリクス」
「……なんでしょう?」
「サーヴィス公爵領を訪ねてほしい。視察だね。君の目で弟の婿入り先を値踏みしておいで、ベアトリクス」
「……陛下のご命令とあれば」
「うん、今日、告げたかったことは以上だ。私は妃を娶る。聖女を廃止する。アルフレッドの婿入り先候補が出てきた。以上だ。さて、君たちから何かあるかな?」
ベアトリクスはアルフレッドの答えを待った。
「わたくしからは何も……ああ、いや、お姉様、クレア嬢が私との縁談を望んでいらっしゃらないようなら、それは破談にしていいとそれはきちんと伝えて差し上げてください。望まぬ結婚は……悲しい」
アルフレッドはそう言った。
「……分かりました、アルフレッドがそう言うのなら」
まだ話は走り出したばかりだ。
縁談が破談になってもお互いに大きな傷にはなるまい。
「ベアトリクス、君は何か言いたいことは?」
「ございません、すべてはローレンス陛下とアルフレッド殿下の思いのままに」
「そうか。で、だ」
ローレンスは楽しそうに笑った。
なんだかいたずらっ子のような笑顔だった。
「サーヴィス公爵家に行くのに、ついでだから、ヘッドリー領にも足を伸ばして顔を出してきなさい」
「えっ」
「これは命令。いいね。辺境伯の仕事ぶりを視察しておいで。で、当然ながら護衛として道案内としてランドルフはついていくこと」
「は、はい……」
ベアトリクスは戸惑いながらうなずいた。
ランドルフの故郷に赴く。
それが実現する日が来るなんて、思いもしなかった。
まさかベアトリクスにそれをさせるために、アルフレッドの婿入り先をサーヴィス公爵家に決めたのか? ベアトリクスは思わず疑ってしまった。
「なんなら帰ってこなくてもいいよ?」
ニヤニヤと完全にことを楽しむ笑顔でローレンスはそう言った。
ランドルフの家に嫁入りしてしまえとでも言わんばかりであった。
「いいえ、私は帰って参ります。アルフレッドが王族である限り……アルフレッドのいるところが、私のいるべきところですから」
ベアトリクスはそう宣言した。
王宮から離宮に戻り、ベアトリクスは自室に戻った。
アルフレッドは使命を帯びた凜々しい顔をしていた。
そこに戸惑いはあっても不安の色はなかった。
そんな弟をベアトリクスはたくましく思う。
「……サーヴィス公爵家のクレア嬢……アルフレッドにとって良いお相手だと良いけれど……」
しかし、良くも悪くもまだ11歳だ。
今の年齢ですべてを決めてしまうには若すぎた。
「……サラ、私がいない間、ローレンスは何か仕掛けてくるかしら?」
「……いいえ、そういうことは……おそらくは無いと思いますが……」
サラは複雑な表情で答える。
サラはローレンスの気持ちを知っている。
そのローレンスがベアトリクスとランドルフの旅を許可したのだ。
それは意地の悪い思いではなく、本当に心の底からの援助のつもりだろうとサラは考えていた。
「……とりあえず、ドレスを脱ぎましょう、姫様」
「そうね」
サラたちがベアトリクスからドレスを剥ぎ取っている間、ランドルフは直立不動でベアトリクスの私室内側のドアの前で待機していた。
「それでは失礼します」
寝間着にベアトリクスを着替えさせて、サラ達が退室していく。
待ちきれないと言わんばかりにランドルフがベアトリクスに抱きついた。
「姫様……」
「あらあら、今日はなんだか積極的ね、ランドルフ」
「すみません、緊張が解けたら……」
ベアトリクスは抱き合った体に押しつけられた硬さに微笑んだ。
ランドルフの服越しに股間をなで上げる。
「昨日はおあずけでしたものね、素敵な夜にしましょうか、ランドルフ」
ローレンスは従弟の顔をしみじみと見つめた。
「君の決断力に感服するよ」
「いえ、恐れ多い事です」
「というわけで、まあ、そうは言っても正式な婚姻は18になってからだ。まだ7年もある。その間にサーヴィス公爵も心変わりするかもしれない。端的なことを言えば、クレア嬢が死ぬかもしれないし、私に子供ができないかもしれない」
「……縁起でもない」
「うん、でも、考えておかねばならぬ事だからね」
「……はい」
ベアトリクスは複雑な顔で黙り込んだ。
「で、7年もの間……ベアトリクス、君も独身ってわけにはいくまい。25才は完全に行き遅れだ」
この国の王族としては、そうなってしまう。
「で、ですが、陛下、わたくしには……」
「うん、分かってる」
ローレンスはランドルフに視線をやった。
「でも、一応形ばかりの婚活はしてもらうよ。俺の婚約が発表されたら、もう、君も気兼ねなく王宮のパーティーに出席できるだろう?」
「……お気づきでしたか」
ベアトリクスがローレンスを狙う令嬢達に遠慮して王宮のパーティーに出なくなったことは、バレていたらしい。
「そりゃね……で、諸々を発表する前に、君に頼みたいことがあるんだ、ベアトリクス」
「……なんでしょう?」
「サーヴィス公爵領を訪ねてほしい。視察だね。君の目で弟の婿入り先を値踏みしておいで、ベアトリクス」
「……陛下のご命令とあれば」
「うん、今日、告げたかったことは以上だ。私は妃を娶る。聖女を廃止する。アルフレッドの婿入り先候補が出てきた。以上だ。さて、君たちから何かあるかな?」
ベアトリクスはアルフレッドの答えを待った。
「わたくしからは何も……ああ、いや、お姉様、クレア嬢が私との縁談を望んでいらっしゃらないようなら、それは破談にしていいとそれはきちんと伝えて差し上げてください。望まぬ結婚は……悲しい」
アルフレッドはそう言った。
「……分かりました、アルフレッドがそう言うのなら」
まだ話は走り出したばかりだ。
縁談が破談になってもお互いに大きな傷にはなるまい。
「ベアトリクス、君は何か言いたいことは?」
「ございません、すべてはローレンス陛下とアルフレッド殿下の思いのままに」
「そうか。で、だ」
ローレンスは楽しそうに笑った。
なんだかいたずらっ子のような笑顔だった。
「サーヴィス公爵家に行くのに、ついでだから、ヘッドリー領にも足を伸ばして顔を出してきなさい」
「えっ」
「これは命令。いいね。辺境伯の仕事ぶりを視察しておいで。で、当然ながら護衛として道案内としてランドルフはついていくこと」
「は、はい……」
ベアトリクスは戸惑いながらうなずいた。
ランドルフの故郷に赴く。
それが実現する日が来るなんて、思いもしなかった。
まさかベアトリクスにそれをさせるために、アルフレッドの婿入り先をサーヴィス公爵家に決めたのか? ベアトリクスは思わず疑ってしまった。
「なんなら帰ってこなくてもいいよ?」
ニヤニヤと完全にことを楽しむ笑顔でローレンスはそう言った。
ランドルフの家に嫁入りしてしまえとでも言わんばかりであった。
「いいえ、私は帰って参ります。アルフレッドが王族である限り……アルフレッドのいるところが、私のいるべきところですから」
ベアトリクスはそう宣言した。
王宮から離宮に戻り、ベアトリクスは自室に戻った。
アルフレッドは使命を帯びた凜々しい顔をしていた。
そこに戸惑いはあっても不安の色はなかった。
そんな弟をベアトリクスはたくましく思う。
「……サーヴィス公爵家のクレア嬢……アルフレッドにとって良いお相手だと良いけれど……」
しかし、良くも悪くもまだ11歳だ。
今の年齢ですべてを決めてしまうには若すぎた。
「……サラ、私がいない間、ローレンスは何か仕掛けてくるかしら?」
「……いいえ、そういうことは……おそらくは無いと思いますが……」
サラは複雑な表情で答える。
サラはローレンスの気持ちを知っている。
そのローレンスがベアトリクスとランドルフの旅を許可したのだ。
それは意地の悪い思いではなく、本当に心の底からの援助のつもりだろうとサラは考えていた。
「……とりあえず、ドレスを脱ぎましょう、姫様」
「そうね」
サラたちがベアトリクスからドレスを剥ぎ取っている間、ランドルフは直立不動でベアトリクスの私室内側のドアの前で待機していた。
「それでは失礼します」
寝間着にベアトリクスを着替えさせて、サラ達が退室していく。
待ちきれないと言わんばかりにランドルフがベアトリクスに抱きついた。
「姫様……」
「あらあら、今日はなんだか積極的ね、ランドルフ」
「すみません、緊張が解けたら……」
ベアトリクスは抱き合った体に押しつけられた硬さに微笑んだ。
ランドルフの服越しに股間をなで上げる。
「昨日はおあずけでしたものね、素敵な夜にしましょうか、ランドルフ」
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