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第8話 騎士の拒絶
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自分の精を拭き取ったシャツを片手にどうしたものかとランドルフが困っていると、ベアトリクスが乱れた上半身をそのままに口を開いた。
「……わたくしまだ清めてもらっていないところがあるのだけれど」
「えっ、どこですか?」
ランドルフが慌ててベアトリクスの肢体を見つめる。
柔肌にかかった精はランドルフが一生懸命拭き取った。
ベアトリクスはこうすればランドルフがきちんと自分を見てくれるのだなと違うところで感心していた。
「こちらを」
ベアトリクスはネグリジェ越しに己れの股の間を示した。
そこは確かにじっとりと湿っていた。
「う、そ、そこは……ええと……ううん……」
ランドルフは顔を赤らめそっぽを向いた。
ベアトリクスはたたみかける。
「それに私ばかりがあなたを舐めて……不公平ではなくって?」
「……と、申されますと」
「……舐めて?」
「なめっ……」
ランドルフが全裸で顔を真っ赤にする。
さすがに強制には出来なかった。
ランドルフが戸惑いに身を固めている間、ベアトリクスはネグリジェの裾に手を伸ばした。
膝下のそれをゆっくりとまくり上げる。
太ももが露出し、足の付け根まで裾がめくり上がる。
「お待ちください!」
ランドルフは叫び、ベアトリクスの手をとどめた。
「……駄目ですか?」
「駄目というか……ええとええっと……もう少し己れを大事にしていただきたいというか……その……ベアトリクス様は俺のことどうとも思ってないのですよね?」
「ええ」
情は、要らない。
行為には要らない。
ただ結果さえ伴えば良い。
他の男にもそうしてきた。
ランドルフだけにそうしない理由などない。
「……だったら、だったら駄目です。こんなこと」
「……ランドルフ様。私は姫です。この国の姫。どうせいつかは心を寄せない誰かのところに嫁ぐのです」
そうだ。聖女にならなくともどうせベアトリクスの将来にはそれが待つ。
王族の貴重な子女。
純潔を散らし聖女を拒んだところで、どこかに政治的な理由で嫁に出されることまでは防げない。
ベアトリクスにはその覚悟が昔からあった。
「だから……どうしようもない疼きを鎮めるのにあなたを選んだって構わないのです」
「……俺が困ります」
「……どうして?」
故郷に好きな女でも残してきたのだろうか?
「……俺はあなたを、好きになってしまったから」
「……え?」
予想外の言葉にネグリジェをまくり上げていた手から力が抜ける。
ぽかんとベアトリクスは口を開いて、ランドルフの顔をまじまじと見つめた。
ランドルフは顔を赤くして目をそらす。
その顔はそれまでの赤さとは一線を画す赤さであった。
ベアトリクスはなんだか急に己れのかっこうが恥ずかしくなってきてしまった。
「サラ! サラ!」
「ええ!?」
「はい、こちらに」
ランドルフが慌てふためくのを無視してサラが隣室の戸を開け、入ってきた。
ランドルフはシャツを股間に当てたが、サラはランドルフには見向きもせずにベアトリクスへとまっすぐ向かう。
ベアトリクスは必死でネグリジェの胸元を元あった場所に戻そうとしていたが、成果はかんばしくなかった。
リボンを結ぼうにもその手はおぼつかなかった。
サラは淡々とベアトリクスのネグリジェを引き上げ、胸元を整え、リボンを結んだ。
その隙にランドルフはベアトリクスに脱がされた下着を拾い上げ、履き直した。
サラはベアトリクスの服装を整えるとランドルフに向かった。
「え、えっと、も、申し訳ありませんでした……!?」
慌てて謝罪するランドルフからサラはシャツを取り上げた。
「シャツはこちらで洗濯係に回しておきます」
「あ、ありがとうございます……」
「ベアトリクス様はたいへんお疲れです。本日のところはおいとま願えますか?」
「は、はい。お邪魔しました……」
ランドルフは急いで制服の上下を身につけると、ベアトリクスの部屋から退室した。
「…………」
サラは無言でベアトリクスを見た。
その顔は無表情の極みで、ベアトリクスからも何を考えているのか分からなかった。
「さ、サラ……?」
「姫様は意気地なしでいらっしゃいますね」
「遠慮とかないわね、あなた……」
「私が言わなければ誰も言わないでしょう」
「はい……」
しょんぼりとベアトリクスは俯いた。
「告白されたのならそれを受け入れてしまえばよろしかったのです。まあ、そうなの? 私、振られるのが怖くて言えなかったけどあなたのこと好きよランドルフ! とかなんとか適当なことを言えばよろしい」
サラは無理矢理甲高い声を出した。
「……それ私の声真似なのかしら……私、そんな声をしているのかしら……」
ベアトリクスは苦笑した。
「よかったではありませんか」
「よ、よかったのかしら?」
「恋愛とは惚れた方の負けです。あとは野となれ山となれ。ランドルフ様の振るまいはあなたの御心ひとつです。おめでとうございます」
「……そうかしら、本当にそうなのかしら、ほら、苦し紛れの言い訳ってことはない? 私を拒絶するのに私を一番傷付けない方法で断っただけじゃない? だいたい好きな女の裸体が目の前にあってあれだけ我慢できるなんておかしくない?」
「ふむ」
サラは意外そうな顔をした。
「ランドルフ様に拒絶されたら傷付くのですか? ベアトリクス様」
「え、そりゃ……ええ……」
「……はあ」
サラは困ったようにため息をついた。
「ど、どうかしたの? サラ」
「先ほど申し上げましたが……恋愛とは惚れた方の負けです」
「え、ええ……よく分からないけどサラが言うならそうなのでしょうね……」
「あなたの負けです。ベアトリクス様」
「え?」
「あなた……ランドルフ様に恋をしていらっしゃる」
「ええ!?」
ベアトリクスは大いに驚いた。
「……わたくしまだ清めてもらっていないところがあるのだけれど」
「えっ、どこですか?」
ランドルフが慌ててベアトリクスの肢体を見つめる。
柔肌にかかった精はランドルフが一生懸命拭き取った。
ベアトリクスはこうすればランドルフがきちんと自分を見てくれるのだなと違うところで感心していた。
「こちらを」
ベアトリクスはネグリジェ越しに己れの股の間を示した。
そこは確かにじっとりと湿っていた。
「う、そ、そこは……ええと……ううん……」
ランドルフは顔を赤らめそっぽを向いた。
ベアトリクスはたたみかける。
「それに私ばかりがあなたを舐めて……不公平ではなくって?」
「……と、申されますと」
「……舐めて?」
「なめっ……」
ランドルフが全裸で顔を真っ赤にする。
さすがに強制には出来なかった。
ランドルフが戸惑いに身を固めている間、ベアトリクスはネグリジェの裾に手を伸ばした。
膝下のそれをゆっくりとまくり上げる。
太ももが露出し、足の付け根まで裾がめくり上がる。
「お待ちください!」
ランドルフは叫び、ベアトリクスの手をとどめた。
「……駄目ですか?」
「駄目というか……ええとええっと……もう少し己れを大事にしていただきたいというか……その……ベアトリクス様は俺のことどうとも思ってないのですよね?」
「ええ」
情は、要らない。
行為には要らない。
ただ結果さえ伴えば良い。
他の男にもそうしてきた。
ランドルフだけにそうしない理由などない。
「……だったら、だったら駄目です。こんなこと」
「……ランドルフ様。私は姫です。この国の姫。どうせいつかは心を寄せない誰かのところに嫁ぐのです」
そうだ。聖女にならなくともどうせベアトリクスの将来にはそれが待つ。
王族の貴重な子女。
純潔を散らし聖女を拒んだところで、どこかに政治的な理由で嫁に出されることまでは防げない。
ベアトリクスにはその覚悟が昔からあった。
「だから……どうしようもない疼きを鎮めるのにあなたを選んだって構わないのです」
「……俺が困ります」
「……どうして?」
故郷に好きな女でも残してきたのだろうか?
「……俺はあなたを、好きになってしまったから」
「……え?」
予想外の言葉にネグリジェをまくり上げていた手から力が抜ける。
ぽかんとベアトリクスは口を開いて、ランドルフの顔をまじまじと見つめた。
ランドルフは顔を赤くして目をそらす。
その顔はそれまでの赤さとは一線を画す赤さであった。
ベアトリクスはなんだか急に己れのかっこうが恥ずかしくなってきてしまった。
「サラ! サラ!」
「ええ!?」
「はい、こちらに」
ランドルフが慌てふためくのを無視してサラが隣室の戸を開け、入ってきた。
ランドルフはシャツを股間に当てたが、サラはランドルフには見向きもせずにベアトリクスへとまっすぐ向かう。
ベアトリクスは必死でネグリジェの胸元を元あった場所に戻そうとしていたが、成果はかんばしくなかった。
リボンを結ぼうにもその手はおぼつかなかった。
サラは淡々とベアトリクスのネグリジェを引き上げ、胸元を整え、リボンを結んだ。
その隙にランドルフはベアトリクスに脱がされた下着を拾い上げ、履き直した。
サラはベアトリクスの服装を整えるとランドルフに向かった。
「え、えっと、も、申し訳ありませんでした……!?」
慌てて謝罪するランドルフからサラはシャツを取り上げた。
「シャツはこちらで洗濯係に回しておきます」
「あ、ありがとうございます……」
「ベアトリクス様はたいへんお疲れです。本日のところはおいとま願えますか?」
「は、はい。お邪魔しました……」
ランドルフは急いで制服の上下を身につけると、ベアトリクスの部屋から退室した。
「…………」
サラは無言でベアトリクスを見た。
その顔は無表情の極みで、ベアトリクスからも何を考えているのか分からなかった。
「さ、サラ……?」
「姫様は意気地なしでいらっしゃいますね」
「遠慮とかないわね、あなた……」
「私が言わなければ誰も言わないでしょう」
「はい……」
しょんぼりとベアトリクスは俯いた。
「告白されたのならそれを受け入れてしまえばよろしかったのです。まあ、そうなの? 私、振られるのが怖くて言えなかったけどあなたのこと好きよランドルフ! とかなんとか適当なことを言えばよろしい」
サラは無理矢理甲高い声を出した。
「……それ私の声真似なのかしら……私、そんな声をしているのかしら……」
ベアトリクスは苦笑した。
「よかったではありませんか」
「よ、よかったのかしら?」
「恋愛とは惚れた方の負けです。あとは野となれ山となれ。ランドルフ様の振るまいはあなたの御心ひとつです。おめでとうございます」
「……そうかしら、本当にそうなのかしら、ほら、苦し紛れの言い訳ってことはない? 私を拒絶するのに私を一番傷付けない方法で断っただけじゃない? だいたい好きな女の裸体が目の前にあってあれだけ我慢できるなんておかしくない?」
「ふむ」
サラは意外そうな顔をした。
「ランドルフ様に拒絶されたら傷付くのですか? ベアトリクス様」
「え、そりゃ……ええ……」
「……はあ」
サラは困ったようにため息をついた。
「ど、どうかしたの? サラ」
「先ほど申し上げましたが……恋愛とは惚れた方の負けです」
「え、ええ……よく分からないけどサラが言うならそうなのでしょうね……」
「あなたの負けです。ベアトリクス様」
「え?」
「あなた……ランドルフ様に恋をしていらっしゃる」
「ええ!?」
ベアトリクスは大いに驚いた。
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