上 下
3 / 45

第3話 焦らされて、去られて

しおりを挟む
「やはりこういうのは良くないと思う!」
「い、いまさら……!?」

 散々ベアトリクスの太ももに股間を慰めてもらっておきながら、何を言い出すのだこの男は。

「俺は君の名前も知らない! なんだか流されるままに体を預けてしまったがこういうのは良くない! 良くないと思う!」
「な……」

 ベアトリクスは二の句が継げない。

「そ、そういうわけだから、今夜はもうこの辺で! 夜も更けた! 寝るべき時間だ!!」

 言いたいことを言うだけ言うと、ランドルフは立ち上がった。
 ベアトリクスの腰を抱きかかえたままだった。
 ベアトリクスがされるがままになっていると、彼は優しく彼女を地面に降ろした。
 そして濡れた浴場の床をものともせずに走り去った。

 ベアトリクスはぺたりとその場に座り込んだ。

「わ、私の疼きはどうしたらよいのです……!」

 冷たい床に秘所が触れる。
 ランドルフの熱かった肉棒を思い出してベアトリクスの秘所はまた蜜をこぼした。
 しかしそれを受け止めてくれる者はもういない。

 のろのろとベアトリクスは洗い場に向かい、体を再び清めた。



 浴場から出ると、サラがタオルを持って待っていた。

「……サラ」
「お疲れ様です。ベアトリクスさま」

 サラは手早くベアトリクスの体をふいていく。

「……あの男に事情は説明しましたか?」
「する間もなく去って行かれました。全裸で」
「……そう」

 どうせ誰も使わないときは施錠されている浴場だ。
 ベアトリクスとアルフレッドが入っているときは原則護衛がついている。
 今回のような事故は起こるまい。

「……戻って寝るわ。今日は疲れました」
「かしこまりました」



 ベアトリクスは眠りについた。
 夢の中で、ベアトリクスは全裸だった。
 多くの男がベアトリクスの近くにいた。
 男達の顔は見えない。ただ手が伸びてくる。ベアトリクスの体に触れてくる。

 頭も胸も腕も脇も腹も足も足の間も尻も背中も顔も髪も、どこもかしこも触れられていく。

「早く……早く私を……」

 ベアトリクスが乞うように手を差し出すと、男達は散っていく。
 ベアトリクスから逃げるように散っていく。

 そしてただ一人が残った。
 茶色の髪に茶色の目。体格の良い体。
 見たばかりのその顔に、ベアトリクスは名前を思い出していた。

「……ランドルフ……」

 名前を呟きながら、目を覚ます。
 こんなことは初めてだった。
 淫らな夢は聖女になることを拒絶すると決めた日から、何度も見た。

 しかし特定の個人が出てくるのは初めてだった。

「……知らないわ、あんな男」

 あえてぶっきらぼうにベアトリクスはそう言い捨てて、サラを呼んだ。
 遠くで鶏の鳴く声がした。



「おはようございます、お姉様」
「おはようございます、アルフレッド殿下」

 アルフレッド。この国の第一王子。まだ11歳の幼い弟。
 ベアトリクスの弟だと一目で分かる豊かな金髪はくせっ毛で跳ねている。
 青い目に真っ直ぐと姉を見つめている。
 毎夜毎夜男の手で汚されていく姉を。

 朝食の席に着きながら、アルフレッドとベアトリクスは笑みを交わす。

 ふたりが食事を取っていると、宰相のジェレミー・ヘッドリーが現れて深々と礼をした。

「アルフレッド殿下、ベアトリクス姫殿下、本日は予定を少し変更して紹介したい者がおります」

 王宮から宰相がわざわざ出向いてくるとはいかなる用だろうか。
 ベアトリクスはいぶかしく思いながら朝食のパンを口に運ぶ。

「自分の兄、ヘッドリー辺境伯の三男坊が田舎から出て参りました。本日から騎士としてこの離宮の守りにつかせようと思います。是非にご挨拶をと思いまして……」

 宰相の兄は辺境伯。国境を任されている勇猛果敢にして国家に忠実な男である。
 宰相は優秀な兄のいる実家では居場所がないと悟り、王宮に上がり、身一つで宰相まで上り詰めた。

 そんな男の甥。

「……本日から?」

 ベアトリクスは嫌な予感がした。

「お昼のティータイムに同席させたいと思っておりますが、よろしいでしょうか?」
「お姉様……」

 指示を仰ぐようにアルフレッドは姉を見る。
 ベアトリクスは優しく微笑んで口を開く。

「あなたが決めなさい。アルフレッド殿下。この離宮はあなたのものです。あなたはここの主。あなたにこそすべての権利があるのですから」
「は、はい……」

 迷いの表情を封じ込め、アルフレッドは宰相をしかと見つめた。

「分かった宰相。その三男坊とやらと会おうではないか」
「ありがとうございます。アルフレッド殿下」

 宰相は深々とまた礼をして、王宮へと帰っていった。

「ふう……宰相様の甥御。どのような方でしょうね、お姉様」
「そ、そうね。気になるわね。あなたのいい遊び相手になってくれれば良いけど」
「やだなあ、お姉様。僕もうそんな年じゃありませんよ」
「自分で決断もできないのに?」
「うっ……が、がんばります。僕、がんばってお姉様のこと守ります」
「ありがとう、アルフレッド……」

 アルフレッドに受け答えしながらもベアトリクスは気もそぞろであった。
 この離宮に来たばかりの男。とても嫌な予感がしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※完結済み、手直ししながら随時upしていきます ※サムネにAI生成画像を使用しています

ドS騎士団長のご奉仕メイドに任命されましたが、私××なんですけど!?

yori
恋愛
*ノーチェブックスさまより書籍化&コミカライズ連載7/5~startしました* コミカライズは最新話無料ですのでぜひ! 読み終わったらいいね♥もよろしくお願いします! ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ ふりふりのエプロンをつけたメイドになるのが夢だった男爵令嬢エミリア。 王城のメイド試験に受かったはいいけど、処女なのに、性のお世話をする、ご奉仕メイドになってしまった!?  担当する騎士団長は、ある事情があって、専任のご奉仕メイドがついていないらしい……。 だけど普通のメイドよりも、お給金が倍だったので、貧乏な実家のために、いっぱい稼ぎます!!

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

【R18】転生先のハレンチな世界で閨授業を受けて性感帯を増やしていかなければいけなくなった件

yori
恋愛
【番外編も随時公開していきます】 性感帯の開発箇所が多ければ多いほど、結婚に有利になるハレンチな世界へ転生してしまった侯爵家令嬢メリア。 メイドや執事、高級娼館の講師から閨授業を受けることになって……。 ◇予告無しにえちえちしますのでご注意ください ◇恋愛に発展するまで時間がかかります ◇初めはGL表現がありますが、基本はNL、一応女性向け ◇不特定多数の人と関係を持つことになります ◇キーワードに苦手なものがあればご注意ください ガールズラブ 残酷な描写あり 異世界転生 女主人公 西洋 逆ハーレム ギャグ スパンキング 拘束 調教 処女 無理やり 不特定多数 玩具 快楽堕ち 言葉責め ソフトSM ふたなり ◇ムーンライトノベルズへ先行公開しています

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

処理中です...