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第55話 余暇
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「……朝」
ぐったりと体を起こす。
今日は深海さんはまだ眠っていた。
私はその頬をつつく。起きる様子はない。
「……おはようございます」
そう呟いて、その頬にキスを落とした。
立ち上がるとどろりと白濁液が股の間から落ちていった。
ティッシュで一通り拭う。
下腹部を撫でる。ここに注がれた物のことを思う。
私は脱ぎ散らかした服を拾い上げながら、お風呂場に向かった。
お風呂から上がれば、深海さんも起きてきていた。
髪の毛がぴょんぴょん跳ねている。
「寝癖~」
「あはは、いつもなんです」
思えば深海さんより早起きするのは初めてだったか。
「お風呂先にいただきました。朝ご飯の準備しますね!」
「チャーハン、中華鍋ですよ? 持てます?」
「……食材切ります!」
「じゃあ、チャーシューをさいの目に、長ネギを斜め切りに、お願いします」
「はい!!」
気合を入れる。エプロンを取り出す。
食材を切る。ただそれだけのことにめちゃくちゃ気合を入れている自分は少し滑稽だった。それでも、がんばりたかった。
深海さんがお風呂に行っている間、私は細心の注意を払って冷蔵庫からチャーシュー、野菜室から長ネギを取り出した。
「……量は!?」
いきなり障壁にぶち当たる。
チャーシューは自家製のようだった。使いかけだ。
深海さん、あの激務の合間を縫ってチャーシューを作っているの……?
とりあえずこれならそのまま全部、使っても良さそうだ。
問題は長ネギである。一本丸々入っていたのだ。
そもそも長ネギをチャーハンに入れるかも定かではない。
確か昨夜はレタスを入れると言っていた。
付け合わせのスープにでも入れるのかもしれない。中華スープに長ネギ。しっくりくる組み合わせだ。
「というか白い部分? 青い部分?」
そこも困る。
「…………」
しばし黙考して私は長ネギ一本すべてを切ってしまうことに決めた。
吉と出るか凶と出るかは分からない。
しかしやるしかないのだ。
「お待たせしましたー」
「き、切りました!」
「ありがとうございます。あとは僕がやりますから、座っててください」
「は、はい」
深海さんの表情を探るが、正解か不正解か分からない。
仮に不正解でも深海さんは表情に出さないだろう。それは分かる。
「ちゃ、チャーシュー自家製ですか?」
「はい。母に作り方を教わってよく作ります」
「よく……」
やはりなんというか、住む世界が違う……。
深海さんが中華鍋を振るう姿はとてもたくましくて、見惚れてしまった。
「そんな見られてると料理しづらいですよ」
深海さんはそう言って苦笑したけど、お構いなしにガン見してみた。
深海さんは私の予想通り、長ネギを中華スープに入れた。
ついでに冷蔵庫から作り置きのきんぴらゴボウが出てきた。
……私の家の冷蔵庫からはパックのサラダくらいしか出てこないぞ……。
「いただきます」
「召し上がれ」
レタスチャーハンはとても美味しかった。
その日は、時折いちゃいちゃしながら、私の希望通り、刑事ドラマを見た。
デートでのチョイスとしては絶対におかしい。
深海さんだってそんな気持ちじゃなかったと思う。
しかし、私は止まらなかった。
「刑事ドラマは面白いんです!」
力説が止まらなかった。
「あはは……」
深海さんは苦笑しながら、私に付き合ってくれた。
結局『ヒラ刑事は今日も昼を食う』を見ることにした。
リクくんも出ているし、こないだデートに行った遊園地も出てくるし、深海さんも見たことあって面白かったと言っていたし、ちょうど良いかと思ったのだ。
「……由香さんのベスト刑事ドラマって『ヒラ刑事は今日も昼を食う』なんですか?」
「難しいことを訊きますね……それはトライアングルアルファの3人の中で誰が好き? と聞くようなものですよ……」
「そ、そんなに……」
深海さんはドン引きしたが、私にとってはそのレベルのことだ。覚悟して訊いてほしい。
「その話をすると……夜までかかりますよ……」
「遠慮しておきます……『刑事藤野の初恋』楽しみですね……」
深海さんは全力で話をそらした。
「はい! 深海さんは今までも担当の芸能人さんがドラマに出ることはありましたか?」
「ええ、それはもう。でも、デビューから世話してるのはトライアングルアルファの3人が初めてなので……あ、リクは再デビューですけどね」
そう言っている間に、『ヒラ刑事は今日も昼を食う』がちょうど第5話『ヒラ刑事の昼は給食!?』になった。
「あ、ほら、リクくん! リクくん出ますよ! 子役多いからどの子か覚えてないけど!」
「ええっと……あ、この子ですね、今ちらっと写った緑の服の子」
「え? どこ!?」
巻き戻しを駆使して、私達はリクくんの子役時代を見守った。
セリフもちゃんとあった。
『おじさん……美味しい?』
「おじさん! リクが畑さんにおじさんって言ってる!」
「落ち着いて! 深海さんドラマ! ドラマです! セリフです!」
深海さんはちょっと青ざめた。
まあ、リクくんなら言いかねないので深海さん的には懸念事項なのかもしれない。
「……ふう、ハラハラした」
「刑事ドラマを楽しんだというか、リクくんにハラハラしてましたね……」
深海さんにこの作品を純粋に楽しむのは難しかったようだ。
「ほら、次! 次ですよ!」
「はい……」
それからさらに一時間弱、第8話『ヒラ刑事の昼は遊園地!?』が始まった。
「あ、ほら、遊園地です! 深海さんが一人でメリーゴーランドに乗ったあの遊園地!」
「恥ずかしいことを思い出させないでください……!」
深海さんは顔を赤らめて私の肩を軽く叩いた。
「うわあ、本当に食べてる……」
ヒラ刑事の遊園地メシ食べまくりシーンに深海さんはちょっと引いた。
「深海さん、これ見てたんですよね?」
「見てましたけど……リクのことは知らないし……遊園地メシは実物をこないだ見たばかりですし……」
「なるほど」
私達はこうして13話1クールを見るのに時間を費やした。
ぐったりと体を起こす。
今日は深海さんはまだ眠っていた。
私はその頬をつつく。起きる様子はない。
「……おはようございます」
そう呟いて、その頬にキスを落とした。
立ち上がるとどろりと白濁液が股の間から落ちていった。
ティッシュで一通り拭う。
下腹部を撫でる。ここに注がれた物のことを思う。
私は脱ぎ散らかした服を拾い上げながら、お風呂場に向かった。
お風呂から上がれば、深海さんも起きてきていた。
髪の毛がぴょんぴょん跳ねている。
「寝癖~」
「あはは、いつもなんです」
思えば深海さんより早起きするのは初めてだったか。
「お風呂先にいただきました。朝ご飯の準備しますね!」
「チャーハン、中華鍋ですよ? 持てます?」
「……食材切ります!」
「じゃあ、チャーシューをさいの目に、長ネギを斜め切りに、お願いします」
「はい!!」
気合を入れる。エプロンを取り出す。
食材を切る。ただそれだけのことにめちゃくちゃ気合を入れている自分は少し滑稽だった。それでも、がんばりたかった。
深海さんがお風呂に行っている間、私は細心の注意を払って冷蔵庫からチャーシュー、野菜室から長ネギを取り出した。
「……量は!?」
いきなり障壁にぶち当たる。
チャーシューは自家製のようだった。使いかけだ。
深海さん、あの激務の合間を縫ってチャーシューを作っているの……?
とりあえずこれならそのまま全部、使っても良さそうだ。
問題は長ネギである。一本丸々入っていたのだ。
そもそも長ネギをチャーハンに入れるかも定かではない。
確か昨夜はレタスを入れると言っていた。
付け合わせのスープにでも入れるのかもしれない。中華スープに長ネギ。しっくりくる組み合わせだ。
「というか白い部分? 青い部分?」
そこも困る。
「…………」
しばし黙考して私は長ネギ一本すべてを切ってしまうことに決めた。
吉と出るか凶と出るかは分からない。
しかしやるしかないのだ。
「お待たせしましたー」
「き、切りました!」
「ありがとうございます。あとは僕がやりますから、座っててください」
「は、はい」
深海さんの表情を探るが、正解か不正解か分からない。
仮に不正解でも深海さんは表情に出さないだろう。それは分かる。
「ちゃ、チャーシュー自家製ですか?」
「はい。母に作り方を教わってよく作ります」
「よく……」
やはりなんというか、住む世界が違う……。
深海さんが中華鍋を振るう姿はとてもたくましくて、見惚れてしまった。
「そんな見られてると料理しづらいですよ」
深海さんはそう言って苦笑したけど、お構いなしにガン見してみた。
深海さんは私の予想通り、長ネギを中華スープに入れた。
ついでに冷蔵庫から作り置きのきんぴらゴボウが出てきた。
……私の家の冷蔵庫からはパックのサラダくらいしか出てこないぞ……。
「いただきます」
「召し上がれ」
レタスチャーハンはとても美味しかった。
その日は、時折いちゃいちゃしながら、私の希望通り、刑事ドラマを見た。
デートでのチョイスとしては絶対におかしい。
深海さんだってそんな気持ちじゃなかったと思う。
しかし、私は止まらなかった。
「刑事ドラマは面白いんです!」
力説が止まらなかった。
「あはは……」
深海さんは苦笑しながら、私に付き合ってくれた。
結局『ヒラ刑事は今日も昼を食う』を見ることにした。
リクくんも出ているし、こないだデートに行った遊園地も出てくるし、深海さんも見たことあって面白かったと言っていたし、ちょうど良いかと思ったのだ。
「……由香さんのベスト刑事ドラマって『ヒラ刑事は今日も昼を食う』なんですか?」
「難しいことを訊きますね……それはトライアングルアルファの3人の中で誰が好き? と聞くようなものですよ……」
「そ、そんなに……」
深海さんはドン引きしたが、私にとってはそのレベルのことだ。覚悟して訊いてほしい。
「その話をすると……夜までかかりますよ……」
「遠慮しておきます……『刑事藤野の初恋』楽しみですね……」
深海さんは全力で話をそらした。
「はい! 深海さんは今までも担当の芸能人さんがドラマに出ることはありましたか?」
「ええ、それはもう。でも、デビューから世話してるのはトライアングルアルファの3人が初めてなので……あ、リクは再デビューですけどね」
そう言っている間に、『ヒラ刑事は今日も昼を食う』がちょうど第5話『ヒラ刑事の昼は給食!?』になった。
「あ、ほら、リクくん! リクくん出ますよ! 子役多いからどの子か覚えてないけど!」
「ええっと……あ、この子ですね、今ちらっと写った緑の服の子」
「え? どこ!?」
巻き戻しを駆使して、私達はリクくんの子役時代を見守った。
セリフもちゃんとあった。
『おじさん……美味しい?』
「おじさん! リクが畑さんにおじさんって言ってる!」
「落ち着いて! 深海さんドラマ! ドラマです! セリフです!」
深海さんはちょっと青ざめた。
まあ、リクくんなら言いかねないので深海さん的には懸念事項なのかもしれない。
「……ふう、ハラハラした」
「刑事ドラマを楽しんだというか、リクくんにハラハラしてましたね……」
深海さんにこの作品を純粋に楽しむのは難しかったようだ。
「ほら、次! 次ですよ!」
「はい……」
それからさらに一時間弱、第8話『ヒラ刑事の昼は遊園地!?』が始まった。
「あ、ほら、遊園地です! 深海さんが一人でメリーゴーランドに乗ったあの遊園地!」
「恥ずかしいことを思い出させないでください……!」
深海さんは顔を赤らめて私の肩を軽く叩いた。
「うわあ、本当に食べてる……」
ヒラ刑事の遊園地メシ食べまくりシーンに深海さんはちょっと引いた。
「深海さん、これ見てたんですよね?」
「見てましたけど……リクのことは知らないし……遊園地メシは実物をこないだ見たばかりですし……」
「なるほど」
私達はこうして13話1クールを見るのに時間を費やした。
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