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第53話 甘い夜

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「ふう……」

 ため息をついていると、深海さんが寝室に入ってきた。
 私はちょっと緊張する。
 突然ではなく、わだかまりもなく、そうすると決めて来た。
 それでも緊張はするのだ。

 深海さんはサイドボードにメガネを置いた。

「通話、ちゃんと切れてます?」
「あ、はい、大丈夫」

 ちゃんと確認した。
 これからの時間は私と深海さんだけのものだ。

 深海さんが私の隣に座る。

「こっち見て?」

 私はおとなしく従う。
 見上げれば顎に手を当てられ、くいと持ち上げられた。
 私は目を閉じる。深海さんがキスを落とす。
 回数を重ねるごとにキスは深くなっていく。

「……深海さん……ん……」
「由香さん……好きです……愛してます……」
「わ、私も、あなたが、好きです」

 なし崩しじゃない本当の好きを初めて言えた気がした。

 深海さんは私をベッドに押し倒した。
 私は彼の背中に手を回す。

「夜がずっと続けばいいのに」

 真剣な顔で深海さんが言うから少し寂しくなって、でも、私は反論した。

「これからですよ、夜はこれからです。そして何度も来る」
「……はい」

 私の言葉に柔らかく微笑んだその顔は私をときめかせるのに十分すぎる甘いマスク。
 私はその顔に手を伸ばす。深海さんはくすぐったそうにしたけど拒絶はされなかった。

「深海さん、アイドルやればいいのに」

 なんとなく、そう言っていた。

「無理ですよ」

 深海さんは即座に答えた。

「ルックスとか、最高ですよ?」
「そう言ってもらえるのは嬉しいですけど……僕、一人の人しか愛せませんから、一度に」

 さらりと彼はそう言った。

「あなたのことしか見えないから、皆を愛して皆から愛されるアイドルにはなれません。あなただけを愛して、あなただけに愛されていればそれでいいんです」
「は、はい……」

 率直に言って歯が浮きそうになるけれど、それでも愛を囁かれて悪い気はしない。
 ただ少し不安になる。

「……深海さん、私のどこがそんなに好きなんですか……?」
「一目惚れです」

 さらりと言われた。

「最初は仕事のためでした。はい、白状します。でもね、酔っ払ってしまったあなたは可愛かった。前職の愚痴をこぼすあなたは守りたくなった。趣味の話を聞いてくれるあなたといるのは楽しかった。僕にとってあなたといる時間はすばらしいもので、それがずっと続けば良いと思った。どんな手を使っても」

 おっとなんか不穏な感じが混じりだしたぞ?

「強引に事を進めてでも、あなたを手放したくなかった……ずっと一緒にいたい」

 そう言って深海さんは私を抱きしめた。

「……私も、私もそうです。あなたと一緒に……この長い夜をずっと、一緒に」
「……はい」

 深海さんは私のパジャマの中に手を滑り込ませた。
 今日は事前の準備をしてきた。
 用意は万端。大丈夫。たぶんきっとおそらく。
 今までで一番ちゃんとした私だ。

「……緊張してます?」

 深海さんが意外そうな顔をする。
 それはそうだ。今まで何回シたと思っているんだ。
 それでも私は緊張していた。
 準備万端なはずの自分に欠けがないか、そればかりが気になった。

「き、緊張してます……」
「あはは、可愛い」

 嬉しそうに笑って、深海さんは私の体を触り始めた。
 ゆっくり優しく柔らかく。

「大丈夫。大丈夫です」

 根拠のない大丈夫に包まれながら、私は深海さんの手に身を任せた。



 焦らされてるみたいにボタン一個一個を外されていく。
 パジャマの下は盛れるブラ! だ。
 どうせ脱がされるんだからあんまり意味ないんだろうけど、そこは乙女心というやつだ。

 その乙女心を察したのか、深海さんの指が作られた谷間に伸びる。
 少し汗ばんだ私の胸の谷間に深海さんの指が入っていく。
 ねっとりと指の腹で撫でられると、フルリと体が震えた。
 少し笑って、深海さんは私の背に手を回し、ブラを外した。
 ワイヤーが歪むから側面は揉んでほしくないという貧乏性な心根も見抜かれている気がする……。

 もう何度見られたか分からない胸を改めて、じーっと見られる。

「ふ、深海さん?」
「大きいですよねえ」
「うう……」

 自慢じゃないが胸はある。

「柔らかくて、大きくて、感じやすくて……エッチな胸だなあ」

 そう言いながら、深海さんは私の乳房をこねくり回す。
 胸への刺激と、その言葉にじんわり下が濡れていく。

「そ、そういう深海さんの手もエッチ!」
「男は皆狼です」

 さらりと言うと、私の胸の頂を口に含んだ。
 つーっと乳首を舐められると、体がジタバタと暴れてしまう。

「いいですよ、少しくらい」

 口を離して彼が頬笑む。

「蹴ったり殴ったり、いいですよ、感じてるんだなあって嬉しいから」

 ああ、敵わない。
 私は腹いせに彼の額にキスをした。
 口は少し遠かったから。

「ふふふ」

 深海さんが嬉しそうに微笑んで、再び乳首に口づけた。
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