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第52話 連絡
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シャワーですべてを洗い流しても、私の中に放たれたものまでは洗い流されることはない。
手放したくも、ない。
深海さんの酔いはその一回で醒めたようだった。
生き生きとした表情でぐったりした私をお姫様だっこして、リビングのソファに運んでくれた。
「ああ、ちょうどよく音楽番組の時間ですね」
メガネをかけながら深海さんがテレビをつける。
お仕事モードという感じ、オンオフのしっかりした人だ……。
「……あれこれした後によく見れますね……」
私は体の疲労感で少し恨みがましい声を出した。
「あはは、それはそれ、これはこれです」
深海さんの酔いは本当に醒めたようだった。爽やかである。
そして仕事用のスマホをいじりだした。おそらくSNSの更新だろう。
「酔いすぎると記憶無くしちゃうんですよね、僕。それは……もったいないじゃないですか。テレビなら録画できますけど、セックスは……ね?」
「もう……」
パジャマ姿で深海さんをにらみつける。深海さんはその視線すら嬉しそうに受け止めてくれる。
……敵わない。
「あ、ほらほら、始まりましたよ」
テレビの音に耳を澄ませる。
『続いては新進気鋭のアイドル3人組! ドラマの挿入歌に大抜擢! トライアングルアルファ!』
月曜日にコメント撮りしたやつが流れてくる。
スタジオで直接見るのとテレビの画面で見るのとではどことなく雰囲気が変わる。
生の彼らとテレビを通した彼ら、こうも変わるか。
こういうのもちゃんと見て、マネジメントしていかなければならないのだろう、私達は。
「…………」
私達は無言で歌が終わるまでテレビを見つめていた。
トライアングルアルファの出番が終わり、CMに入った。
「……ふう」
思わずため息が出た。
安堵のため息だった。
「おっと」
トライアングルアルファとのグループメッセージに着信があった。
グループ通話のお誘いだ。
「あわわわわ」
「由香さん落ち着いて。僕、着信受けるときはいつもリビングなので、あいつら寝室の内観は知らないので寝室で受けてください。あ、でもパジャマか。じゃあ、音声だけでお願いします。でも同室だと音声混じるからやっぱり寝室に行っていてください」
深海さんが冷静に、でもちょっと困りつつ、指示を飛ばす。
「は、はい」
私は素直に寝室に向かう。
椅子すらない深海さんの寝室。
妙に良い香りがする。リラックスできそうな……ヒノキかな?
ちょっと迷ってからベッドに腰掛けた。
グループ通話に音声だけで参加する。
「も、もしもーし」
『あ、由香ちゃんだ! 見た? 生放送!』
『夜分遅くにすみません』
リクくんの楽しそうな声、シュンくんの眠そうな声。
みんなテレビ通話にしていて、手を振ってきてる。
『本当だぞ、さっさと寝ろって言っただろうー』
深海さんのしれっとした声。
マネージャーのくせに大した役者だ……。
『すいません、興奮して眠れなくて!』
エイジくんの嬉しそうな声。
『思えばあれの収録が由香ちゃんの初仕事だっけ?』
「あ、そうですね……」
『ちょうど一週間ですね』
シュンくんがそう言った。
一週間、あまりにもたくさんのことがあった。
たった一週間で、私はたくさんの人に会って、いろんな仕事を知った。
「……皆さんに、会えて良かったです」
ポツリと私はそう言っていた。
『俺も!』
『うん』
『俺もです!』
トライアングルアルファの3人が答えてくれる。
『……僕もです』
しみじみと、深海さんがそう言った。
『ほら、お前ら、もう寝ろ!』
『はーい!』
『おやすみなさい』
『おやすみなさい!』
「おやすみー」
私達はグループ通話を終えた。
ただ興奮したトライアングルアルファの3人との会話。
それだけが、なんだかとても愛おしかった。
手放したくも、ない。
深海さんの酔いはその一回で醒めたようだった。
生き生きとした表情でぐったりした私をお姫様だっこして、リビングのソファに運んでくれた。
「ああ、ちょうどよく音楽番組の時間ですね」
メガネをかけながら深海さんがテレビをつける。
お仕事モードという感じ、オンオフのしっかりした人だ……。
「……あれこれした後によく見れますね……」
私は体の疲労感で少し恨みがましい声を出した。
「あはは、それはそれ、これはこれです」
深海さんの酔いは本当に醒めたようだった。爽やかである。
そして仕事用のスマホをいじりだした。おそらくSNSの更新だろう。
「酔いすぎると記憶無くしちゃうんですよね、僕。それは……もったいないじゃないですか。テレビなら録画できますけど、セックスは……ね?」
「もう……」
パジャマ姿で深海さんをにらみつける。深海さんはその視線すら嬉しそうに受け止めてくれる。
……敵わない。
「あ、ほらほら、始まりましたよ」
テレビの音に耳を澄ませる。
『続いては新進気鋭のアイドル3人組! ドラマの挿入歌に大抜擢! トライアングルアルファ!』
月曜日にコメント撮りしたやつが流れてくる。
スタジオで直接見るのとテレビの画面で見るのとではどことなく雰囲気が変わる。
生の彼らとテレビを通した彼ら、こうも変わるか。
こういうのもちゃんと見て、マネジメントしていかなければならないのだろう、私達は。
「…………」
私達は無言で歌が終わるまでテレビを見つめていた。
トライアングルアルファの出番が終わり、CMに入った。
「……ふう」
思わずため息が出た。
安堵のため息だった。
「おっと」
トライアングルアルファとのグループメッセージに着信があった。
グループ通話のお誘いだ。
「あわわわわ」
「由香さん落ち着いて。僕、着信受けるときはいつもリビングなので、あいつら寝室の内観は知らないので寝室で受けてください。あ、でもパジャマか。じゃあ、音声だけでお願いします。でも同室だと音声混じるからやっぱり寝室に行っていてください」
深海さんが冷静に、でもちょっと困りつつ、指示を飛ばす。
「は、はい」
私は素直に寝室に向かう。
椅子すらない深海さんの寝室。
妙に良い香りがする。リラックスできそうな……ヒノキかな?
ちょっと迷ってからベッドに腰掛けた。
グループ通話に音声だけで参加する。
「も、もしもーし」
『あ、由香ちゃんだ! 見た? 生放送!』
『夜分遅くにすみません』
リクくんの楽しそうな声、シュンくんの眠そうな声。
みんなテレビ通話にしていて、手を振ってきてる。
『本当だぞ、さっさと寝ろって言っただろうー』
深海さんのしれっとした声。
マネージャーのくせに大した役者だ……。
『すいません、興奮して眠れなくて!』
エイジくんの嬉しそうな声。
『思えばあれの収録が由香ちゃんの初仕事だっけ?』
「あ、そうですね……」
『ちょうど一週間ですね』
シュンくんがそう言った。
一週間、あまりにもたくさんのことがあった。
たった一週間で、私はたくさんの人に会って、いろんな仕事を知った。
「……皆さんに、会えて良かったです」
ポツリと私はそう言っていた。
『俺も!』
『うん』
『俺もです!』
トライアングルアルファの3人が答えてくれる。
『……僕もです』
しみじみと、深海さんがそう言った。
『ほら、お前ら、もう寝ろ!』
『はーい!』
『おやすみなさい』
『おやすみなさい!』
「おやすみー」
私達はグループ通話を終えた。
ただ興奮したトライアングルアルファの3人との会話。
それだけが、なんだかとても愛おしかった。
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