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第40話 デートへ

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 途中でお店が閉まる時間が来て、私達は瀬川さんの車に乗って瀬川さんの家に戻った。
 瀬川さんの家のリビングで、私は瀬川さんが思い出を語るのを聞き続けた。

 最初はただの友達で、その内同じ会社に入るほどの仲になって、いっしょに働いている内に付き合うようになって、瀬川さんがアルファさんに急に振られて、トライアングルアルファの担当になって、そして彼女は結婚した。
 急な結婚、しかも他の芸能事務所の社長と。そのまま退職し、トライアングルアルファの担当マネージャーは瀬川さん一人になって、その尻拭いのために三角社長が臨時でトライアングルアルファのマネージャーになった。

 その話をしている内に空は明るくなっていった。
 朝が、来ていた。4時になっていた。
 夜通し、私達は話をしていた。

「……眠い」
「そう、ですよね……寝ましょう」
「はい、寝ます……」

 お互いフラフラになりながら移動する。

 瀬川さんの寝室。
 よけいな物が何もない、シンプルな寝室。寝るための部屋! って感じだ。
 私はまたスーツから瀬川さんのTシャツとジャージに着替えた。
 シングルベッドに私達は二人でもぐりこんだ。ちょっと狭い。

 瀬川さんが私の頬に手を当てる。
 私は目を閉じる。

 触れるだけの優しいキス。

 瀬川さんは名残惜しそうに私の頬を撫でていたけど、口を開いた。

「……おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」

 私達は、目を閉じた。



 そして、数時間後、10時に目を覚ました。

「……深海さん?」

 深海さんがいない。
 ベッドから降りる。
 部屋から出る。
 リビングに向かえば、そこで深海さんが朝ご飯の準備をしていた。

「おはようございます、由香さん。朝ご飯、鮭でいいですか?」
「あ、はい」
「座っててください」
「……はい」

 ソファに腰掛け、深海さんが朝食の準備をしてくれるのを見守る。
 味噌汁の良い香りがしてきた。
 穏やかな朝だった。

「準備、できました」

 食卓につく。
 鮭、豆の煮物、ほうれん草のおひたし、味噌汁にご飯。
 美味しそうな朝ご飯だ。

「食べれないものあったら言ってくださいね。味付けが苦手とかも」
「はい、いただきます」
「どうぞ、召し上がれ」

 黙々と朝食を口に運んでいると、深海さんが口を開いた。

「由香さん、朝ご飯食べ終えたらお家まで送るので……着替えて、デートでもしませんか?」
「……デート、ですか?」
「してないなって、僕ら」

 そう言われてみれば、していない。
 出会っていきなり一夜を共にして、あっという間にお仕事をすることになった。
 深海さんの服を見てみれば、ストライプのワイシャツに黒のTシャツ、チノパン。
 言われてみればデート服といった風なファッションだった。

「……アルファさんとはどういうデートを?」
「アルファさんとは……服を買いに行ったり……映画を見に行ったり、ですかね……」
「そうですか……私、行ってみたい遊園地があるんです」
「遊園地、ですか」
「はい。『ヒラ刑事は今日も昼を食う』のロケ地になってるんです!」

 私の声は思わず弾んだ。

「な、なるほど……」

 深海さんが私の熱量にちょっと戸惑う。

「分かりました。由香さんが行きたいならそこに行きましょう」
「やったあ」

 私は微笑んだ。

「……可愛い」

 深海さんが小さく呟いた。
 顔が赤くなるのを、感じた。



 朝ご飯を食べて、身支度を最低限、整えて、深海さんの部屋を出る。
 車に乗って、住み慣れた家に帰る。
 のんびりしている暇はない。素速く着替える。
 藤色のシャツワンピに白いジャケットを羽織る。
 化粧を施し、ネックレスをつける。
 靴はスニーカーにしておいた。

「……よし!」

 私は外へ踏み出した。



「この遊園地、第8話『ヒラ刑事の昼は遊園地!?』で使われたんですよ!」
「さすが詳しい、ですね……」

 深海さんが苦笑しながらカメラを構える。
 私は遊園地の看板の前でポーズを取った。

「……それもお仕事用のカメラ?」
「いいえ、私物です。仕事用のと混ざるといけませんから」
「なるほど」
「……まあ、プライベートで誰かの写真撮るとは思ってなかったので、このカメラ初出動です」
「私、初めての被写体だ?」
「はい」

 私達は遊園地のアトラクションを巡っていく。
 平日だが4月も始まったばかりだ。
 まだ春休みなのだろう。学生が多い。

「メリーゴーランドに乗ってヒラ刑事が考えをまとめるシーンが印象的で……あ、深海さん乗ってください!」
「え!? ひとりで!?」
「はい! ヒラ刑事もひとりでした!」
「……分かりました」

 深海さんは首にカメラをかけたままメリーゴーランドの白馬に乗った。
 その様子を私は私用のスマホで動画を撮る。

「…………これ恥ずかしいです!」

 私の前を通るとき、深海さんは大声で叫んだ。

「あはは!」

 私は大声で笑った。

「あ、お化け屋敷! さすがに当時とは演目が違うみたいですね……」
「お化け屋敷の中だけ別撮りだった可能性もありますね」
「ああ、なるほど……」
「入りますか? お化け屋敷」
「入りましょう!」

 和風のお化け屋敷。
 生ぬるい風が吹き付けてきて、気持ちが悪い。

「うう……」

 暗いところは平気な方だが、突然大きな音がしたりして、びっくりしてしまう。
 私は深海さんにすがりついた。

「あはは」

 深海さんは余裕。
 私の腰に手を回し、ぎゅっと抱きしめてくれた。
 自分から抱きついておいてなんだけど、まだスキンシップには慣れない私だった。
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