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第31話 ドラマ撮影
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ドラマの現場では道城プロデューサー、それにウェブの担当さんへ瀬川さんと揃って頭を下げた。
道城プロデューサーは全然気にするな、と笑って言ってくれた。
「でも、瀬川くんにしちゃ凡ミスだな? 疲れてないか? ちゃんと休めよ?」
「ご心配痛み入ります。ありがとうございます」
そう言って瀬川さんは深々とまた頭を下げた。
私も慌てていっしょに下げる。
本日のロケ地は早朝の河川敷。
死体が見つかるにはおなじみのスポットだ。
「おお……」
組まれているセットに思わず感嘆の声が漏れる。
青いビニールシート。複数の車。鑑識の制服を着たエキストラの皆さん。
「母屋さん、刈谷くん、シュンくん入りまーす!」
母屋岸見とカリヤンこと刈谷くん!
生で見る芸能人に私のテンションはひたすら上がっていく。
母屋さんは地味めながら整った顔立ち、刈谷くんはいかにも特撮のレッド! って感じの明るい感じをしている。
母屋さんは刈谷くんとシュンくんに何か冗談を振って、2人を笑わせていた。シュンくんの笑顔、珍しい。
30才、俳優としてはまだまだ若手~中堅どころだろうが、その振る舞いは座長として頼もしいものがあった。
「それじゃ、リハーサル行きます!」
シュンくんが死体(役の人)にかがみ込む。
母屋さんと刈谷さんは先輩後輩の刑事だ。
母屋さん演じる刑事藤野がテキパキとシュンくん演じる鑑識に質問をしていく。
シュンくんが淡々と答える様は、いつものシュンくんで、なるほど演技が初心者でも大丈夫、と道城プロデューサーが言っていた理由がよく分かる。
道城プロデューサーは現場には口出ししていない。
こういうときに現場を仕切るのは監督の仕事だそうだ。瀬川さんが小声で解説してくれた。
「うん、いい感じ、母屋、カリヤン、台本終わった後ちょっと遊び入れてみようか」
「はい」
「げ……」
母屋さんは即座に頷いたけど、刈谷さんはちょっと顔をしかめた。
「俺が振るよ」
「お願いします、岸見さん。俺、アドリブ苦手……」
「振られたのに返せるなら十分十分。監督、シュンに振るのは?」
「シュンには、はけて欲しいからなしで」
「了解です」
シュンくんが母屋さんたちのやり取りを聞いて、こくりと頷いた。
「……そこは『はい』ってちゃんと言えシュン……」
小声で瀬川さんが苦言を漏らす。
なんとももどかしそうであった。
「何の話しよっかな、昼飯とか? 何食べたい?」
「焼き肉食べたいっす」
「昼から焼き肉かよ……うん、この路線で行こうか、カリヤン」
なんと言うべきだろう。母屋岸見は場の空気を完全に支配していた。
指示を即座に呑み込み、自分のものにする。
そして周りをうまく動かす。
すごい役者さんなんだ。そう強く思わせるものがあった。
母屋さんと刈谷さんのアドリブも入れたカットが撮影される。
一発オーケーが出た。
「はい、オーケーです。次、河川敷で岸見とカリヤンがおにぎり食べるシーンね! シュンお疲れ! 鑑識の皆さん撤収です! セット入れ替え急いでー!」
シュンくん、そして母屋さんと刈谷さんが連れ立ってロケバスに戻る。
シュンくんは帰る準備をするとして、母屋さんと刈谷さんはメイクのし直しをするようだ。
「お疲れ、シュン」
母屋さんがポンとシュンくんの肩を叩く。
「はい、ありがとうございました」
「そういや、このシーンにも入るの? テレパシーリズム~」
刈谷さんが歌。音感がなかなかよかった。
「道城プロデューサーは鑑識部屋のシーンだけとおっしゃっていました」
「そっか。あ、俺、あれ買ったんだよCD。ロケバスにあるからサインくれ」
「は、はい、あ、ありがとうございます」
シュンくんがものスゴク噛む。どうも感極まったようだ。顔に感情の出てるシュンくんは珍しい。
「カリヤン若いのにCD買うんだ」
「岸見さんに若いって言われるの違和感あるなあ。コレクションアイテムですね、俺的にCDは。出てた特撮のCDもいっぱいあるっすよ、俺んち。でも、パソコンないから取り込めないんで、スマホでデータ買ってます」
「最近のってブルーレイプレイヤーでCD聞けなかったっけ?」
「マジすか」
そんな雑談をしながら彼らはロケバスに消えていった。
それをボンヤリと眺めていると瀬川さんが声をかけてきた。
「じゃあ僕らも帰る準備しましょうか。シュンは事務所に戻って2人と合流してダンスレッスン。僕らはデスク仕事です」
「はい!」
「どうでした? 刑事ドラマの現場。刑事ドラマお好きって言ってましたよね」
「まさに死体発見現場だ~! って感じでした」
「ですね。僕はモラル藤原さんのあと、中堅俳優さんに何人かついてたんです。だからドラマの現場はそれなりに慣れているつもりだったんですけど……シュンを見ていると毎回ハラハラしてしまって……」
瀬川さんは苦笑。
「さっきも口に出されてましたね」
「はい……」
瀬川さんが照れ笑いをする。
「シュンには、がんばってほしいです。せっかくのチャンスですから」
「……私もできることでサポートしていきます」
「ありがとう」
瀬川さんが笑った。
とても素敵な笑顔だった。
それにしてもよく笑う人だ。
「お待たせしました。サインしてきました……大丈夫、でしたか?」
「うちの事務所は刈谷さんへ、とか名前を入れておけば大丈夫だよ。よかったな、シュン」
「はい。じゃあ、事務所戻りましょう! はやくダンスレッスンしたいです」
「そうだな。でも、その前に昼飯だ。どこか寄ろう。何喰いたい?」
「……肉!」
「よし、昼間もやってる焼き肉屋に……あ、高山さんは大丈夫ですか? お肉で」
「あ、はい。大丈夫です!」
「じゃあお肉で、いやあ、若いの3人といるとどうしてもお肉ばっかりになるんですよね……」
私達はドラマスタッフさんに「お先に失礼します」と声をかけ、瀬川さんの車に戻った。
道城プロデューサーは全然気にするな、と笑って言ってくれた。
「でも、瀬川くんにしちゃ凡ミスだな? 疲れてないか? ちゃんと休めよ?」
「ご心配痛み入ります。ありがとうございます」
そう言って瀬川さんは深々とまた頭を下げた。
私も慌てていっしょに下げる。
本日のロケ地は早朝の河川敷。
死体が見つかるにはおなじみのスポットだ。
「おお……」
組まれているセットに思わず感嘆の声が漏れる。
青いビニールシート。複数の車。鑑識の制服を着たエキストラの皆さん。
「母屋さん、刈谷くん、シュンくん入りまーす!」
母屋岸見とカリヤンこと刈谷くん!
生で見る芸能人に私のテンションはひたすら上がっていく。
母屋さんは地味めながら整った顔立ち、刈谷くんはいかにも特撮のレッド! って感じの明るい感じをしている。
母屋さんは刈谷くんとシュンくんに何か冗談を振って、2人を笑わせていた。シュンくんの笑顔、珍しい。
30才、俳優としてはまだまだ若手~中堅どころだろうが、その振る舞いは座長として頼もしいものがあった。
「それじゃ、リハーサル行きます!」
シュンくんが死体(役の人)にかがみ込む。
母屋さんと刈谷さんは先輩後輩の刑事だ。
母屋さん演じる刑事藤野がテキパキとシュンくん演じる鑑識に質問をしていく。
シュンくんが淡々と答える様は、いつものシュンくんで、なるほど演技が初心者でも大丈夫、と道城プロデューサーが言っていた理由がよく分かる。
道城プロデューサーは現場には口出ししていない。
こういうときに現場を仕切るのは監督の仕事だそうだ。瀬川さんが小声で解説してくれた。
「うん、いい感じ、母屋、カリヤン、台本終わった後ちょっと遊び入れてみようか」
「はい」
「げ……」
母屋さんは即座に頷いたけど、刈谷さんはちょっと顔をしかめた。
「俺が振るよ」
「お願いします、岸見さん。俺、アドリブ苦手……」
「振られたのに返せるなら十分十分。監督、シュンに振るのは?」
「シュンには、はけて欲しいからなしで」
「了解です」
シュンくんが母屋さんたちのやり取りを聞いて、こくりと頷いた。
「……そこは『はい』ってちゃんと言えシュン……」
小声で瀬川さんが苦言を漏らす。
なんとももどかしそうであった。
「何の話しよっかな、昼飯とか? 何食べたい?」
「焼き肉食べたいっす」
「昼から焼き肉かよ……うん、この路線で行こうか、カリヤン」
なんと言うべきだろう。母屋岸見は場の空気を完全に支配していた。
指示を即座に呑み込み、自分のものにする。
そして周りをうまく動かす。
すごい役者さんなんだ。そう強く思わせるものがあった。
母屋さんと刈谷さんのアドリブも入れたカットが撮影される。
一発オーケーが出た。
「はい、オーケーです。次、河川敷で岸見とカリヤンがおにぎり食べるシーンね! シュンお疲れ! 鑑識の皆さん撤収です! セット入れ替え急いでー!」
シュンくん、そして母屋さんと刈谷さんが連れ立ってロケバスに戻る。
シュンくんは帰る準備をするとして、母屋さんと刈谷さんはメイクのし直しをするようだ。
「お疲れ、シュン」
母屋さんがポンとシュンくんの肩を叩く。
「はい、ありがとうございました」
「そういや、このシーンにも入るの? テレパシーリズム~」
刈谷さんが歌。音感がなかなかよかった。
「道城プロデューサーは鑑識部屋のシーンだけとおっしゃっていました」
「そっか。あ、俺、あれ買ったんだよCD。ロケバスにあるからサインくれ」
「は、はい、あ、ありがとうございます」
シュンくんがものスゴク噛む。どうも感極まったようだ。顔に感情の出てるシュンくんは珍しい。
「カリヤン若いのにCD買うんだ」
「岸見さんに若いって言われるの違和感あるなあ。コレクションアイテムですね、俺的にCDは。出てた特撮のCDもいっぱいあるっすよ、俺んち。でも、パソコンないから取り込めないんで、スマホでデータ買ってます」
「最近のってブルーレイプレイヤーでCD聞けなかったっけ?」
「マジすか」
そんな雑談をしながら彼らはロケバスに消えていった。
それをボンヤリと眺めていると瀬川さんが声をかけてきた。
「じゃあ僕らも帰る準備しましょうか。シュンは事務所に戻って2人と合流してダンスレッスン。僕らはデスク仕事です」
「はい!」
「どうでした? 刑事ドラマの現場。刑事ドラマお好きって言ってましたよね」
「まさに死体発見現場だ~! って感じでした」
「ですね。僕はモラル藤原さんのあと、中堅俳優さんに何人かついてたんです。だからドラマの現場はそれなりに慣れているつもりだったんですけど……シュンを見ていると毎回ハラハラしてしまって……」
瀬川さんは苦笑。
「さっきも口に出されてましたね」
「はい……」
瀬川さんが照れ笑いをする。
「シュンには、がんばってほしいです。せっかくのチャンスですから」
「……私もできることでサポートしていきます」
「ありがとう」
瀬川さんが笑った。
とても素敵な笑顔だった。
それにしてもよく笑う人だ。
「お待たせしました。サインしてきました……大丈夫、でしたか?」
「うちの事務所は刈谷さんへ、とか名前を入れておけば大丈夫だよ。よかったな、シュン」
「はい。じゃあ、事務所戻りましょう! はやくダンスレッスンしたいです」
「そうだな。でも、その前に昼飯だ。どこか寄ろう。何喰いたい?」
「……肉!」
「よし、昼間もやってる焼き肉屋に……あ、高山さんは大丈夫ですか? お肉で」
「あ、はい。大丈夫です!」
「じゃあお肉で、いやあ、若いの3人といるとどうしてもお肉ばっかりになるんですよね……」
私達はドラマスタッフさんに「お先に失礼します」と声をかけ、瀬川さんの車に戻った。
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