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第26話 職場
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デスクの人たちに一通り紹介してもらってから、部屋を出た。
エレベーターで4階に降りるとそこはドアが連なっていた。
「4階はこのように会議室と資料室、3階は各種スタジオ、2階が食堂、1階がエントランス兼取材受け入れ用のスペース、地下はダンススタジオになっています」
「食堂まであるんですね」
「営業はお昼間だけですけど、他の時間も開いてはいるので休憩とかにも使われますね。会議室が一杯なときの打ち合わせとかにも」
「なんか予備校の食堂みたい……」
「ああ、食事時間以外は自習とかできましたね。分かります」
予備校時代……私にとっては7年前、瀬川さんなら10年ほど前か、懐かしいなあ。
「どこかご覧になりたいところはありますか?」
「えーっと……各施設の利用って制限とかありますか?」
「ああ、そうですね……会議室やスタジオは社内アプリで予約が出来るようになっています。さっき支給された社用スマホに入ってます。それで時間なども確認してください」
「あ、これですね……」
諸々の書類とともに渡された武骨なスマホを取り出す。ちょっと私の手にはサイズが大きいので両手持ち必須だ。
「トライアングルアルファのSNSアカウントのログイン情報も入っています。紛失流出には細心の注意を払ってください。トライアングルアルファとの仕事用メッセージグループも用意しておきました。3人と僕と高山さんが入っています」
「おお……」
「スマホの操作確認……そうですね食堂でやりましょう」
「あ、お願いします」
2階に向かう。何人かの人がいた。
「あ、モラル藤原さんだ。すいません。ちょっと挨拶します」
「はい」
「藤原さん!」
食堂の一席でパソコンを叩いている人のところに瀬川さんは向かう。
モラル藤原、聞いたことも見たこともある。中堅どころのピンのお笑い芸人さんだ。
「おお、瀬川くん、おはようございます」
「おはようございます、ネタ出しですか?」
「うん、やっぱ朝の食堂がはかどるよ、あ、昨日のシュンのクイズ見たぞ」
「ありがとうございます」
「そつなくって感じだったな。芸人の後輩ならボケろよ! って言ってしまうけど、シュンならあれでいいんだろうな」
「そうですね……まだボケはあいつには酷です」
「うん。そちらの女性は?」
「トライアングルアルファの新マネージャー高山由香さんです」
「た、高山です。よろしくお願いします」
私は頭を下げた。
「どうぞ、よろしく。お笑いやってます。モラル藤原です」
モラル藤原さんはスッと頭を下げた。
新人の私にも礼儀正しい人だ……。
「それじゃあ、お邪魔しました」
「うん、がんばってな」
モラル藤原さんから離れ、食堂の一角に座る。
「モラル藤原さんは僕が最初にマネージャーとしてつかせてもらった方なんです。芸能界のイロハを教えてくれた恩人です」
「ああ、トライアングルアルファ、去年の夏にデビューしたばっかりですものね……」
当然、その前には瀬川さんにも色んな仕事があったはずだ。
どんな人とどんな仕事をしてきたんだろう。
「それじゃ、スマホの使い方お教えしますね。スケジュール管理アプリも入ってます。僕は念のため手帖の方にも書き写していますが、そこは高山さんのやりやすいように、で」
「はい」
瀬川さんにスマホの各アプリの使い方をレクチャーしてもらう。
「分からないとこあります?」
「えっと……このアプリの取り消しはどこですか?」
「ああ、それはですね……」
瀬川さんが私のスマホに手を伸ばす。
そして私の手の上に自分の手を載っけた。
「!?」
体温が伝わる。瀬川さんの手はあったかく、私の手は冷えている。
瀬川さんは、自分の指で私の指を操作する。
「こうですね……高山さん?」
顔を覗き込まれる。
ヤバい。顔が熱い。赤くなってるこれ。
「あ、はい。こうですね! はい!」
私の声は裏返ってた。
クスリと瀬川さんが笑う。
「可愛い」
小さな声でそれでも確かにそう囁かれた。
思わず私は食堂を見渡す。
人はちらほらいたけど、こちらを気にしている人はいなかった。
ホッと胸をなで下ろす。
気付けば時間がかなり経っていた。
「それじゃあトライアングルアルファを迎えに行きましょう。助手席から道案内するので運転しながら道を覚えてもらえますか?」
「はい」
二人で再びエレベーターに乗る。
「……運転中になんかしたら私、事故る自信があるのでやめてくださいね?」
「なんかって?」
「……キスとか、手触るとか、なんか、そこら辺」
「残念」
「本当にやめてくださいね!?」
思わず必死になってしまう。
「運転中じゃなきゃいいんですね?」
藪蛇の予感!?
ジッと瀬川さんが私を見つめてくる。
熱っぽくて真っ直ぐな視線。吸い込まれそうな幾度も見たあの視線。
「……あ、あの……!」
「冗談です。エレベーターは防犯カメラありますし、警備員さんに見られますから」
「くっ……! もてあそばれた!」
エレベーターが1階に到着した。
エレベーターで4階に降りるとそこはドアが連なっていた。
「4階はこのように会議室と資料室、3階は各種スタジオ、2階が食堂、1階がエントランス兼取材受け入れ用のスペース、地下はダンススタジオになっています」
「食堂まであるんですね」
「営業はお昼間だけですけど、他の時間も開いてはいるので休憩とかにも使われますね。会議室が一杯なときの打ち合わせとかにも」
「なんか予備校の食堂みたい……」
「ああ、食事時間以外は自習とかできましたね。分かります」
予備校時代……私にとっては7年前、瀬川さんなら10年ほど前か、懐かしいなあ。
「どこかご覧になりたいところはありますか?」
「えーっと……各施設の利用って制限とかありますか?」
「ああ、そうですね……会議室やスタジオは社内アプリで予約が出来るようになっています。さっき支給された社用スマホに入ってます。それで時間なども確認してください」
「あ、これですね……」
諸々の書類とともに渡された武骨なスマホを取り出す。ちょっと私の手にはサイズが大きいので両手持ち必須だ。
「トライアングルアルファのSNSアカウントのログイン情報も入っています。紛失流出には細心の注意を払ってください。トライアングルアルファとの仕事用メッセージグループも用意しておきました。3人と僕と高山さんが入っています」
「おお……」
「スマホの操作確認……そうですね食堂でやりましょう」
「あ、お願いします」
2階に向かう。何人かの人がいた。
「あ、モラル藤原さんだ。すいません。ちょっと挨拶します」
「はい」
「藤原さん!」
食堂の一席でパソコンを叩いている人のところに瀬川さんは向かう。
モラル藤原、聞いたことも見たこともある。中堅どころのピンのお笑い芸人さんだ。
「おお、瀬川くん、おはようございます」
「おはようございます、ネタ出しですか?」
「うん、やっぱ朝の食堂がはかどるよ、あ、昨日のシュンのクイズ見たぞ」
「ありがとうございます」
「そつなくって感じだったな。芸人の後輩ならボケろよ! って言ってしまうけど、シュンならあれでいいんだろうな」
「そうですね……まだボケはあいつには酷です」
「うん。そちらの女性は?」
「トライアングルアルファの新マネージャー高山由香さんです」
「た、高山です。よろしくお願いします」
私は頭を下げた。
「どうぞ、よろしく。お笑いやってます。モラル藤原です」
モラル藤原さんはスッと頭を下げた。
新人の私にも礼儀正しい人だ……。
「それじゃあ、お邪魔しました」
「うん、がんばってな」
モラル藤原さんから離れ、食堂の一角に座る。
「モラル藤原さんは僕が最初にマネージャーとしてつかせてもらった方なんです。芸能界のイロハを教えてくれた恩人です」
「ああ、トライアングルアルファ、去年の夏にデビューしたばっかりですものね……」
当然、その前には瀬川さんにも色んな仕事があったはずだ。
どんな人とどんな仕事をしてきたんだろう。
「それじゃ、スマホの使い方お教えしますね。スケジュール管理アプリも入ってます。僕は念のため手帖の方にも書き写していますが、そこは高山さんのやりやすいように、で」
「はい」
瀬川さんにスマホの各アプリの使い方をレクチャーしてもらう。
「分からないとこあります?」
「えっと……このアプリの取り消しはどこですか?」
「ああ、それはですね……」
瀬川さんが私のスマホに手を伸ばす。
そして私の手の上に自分の手を載っけた。
「!?」
体温が伝わる。瀬川さんの手はあったかく、私の手は冷えている。
瀬川さんは、自分の指で私の指を操作する。
「こうですね……高山さん?」
顔を覗き込まれる。
ヤバい。顔が熱い。赤くなってるこれ。
「あ、はい。こうですね! はい!」
私の声は裏返ってた。
クスリと瀬川さんが笑う。
「可愛い」
小さな声でそれでも確かにそう囁かれた。
思わず私は食堂を見渡す。
人はちらほらいたけど、こちらを気にしている人はいなかった。
ホッと胸をなで下ろす。
気付けば時間がかなり経っていた。
「それじゃあトライアングルアルファを迎えに行きましょう。助手席から道案内するので運転しながら道を覚えてもらえますか?」
「はい」
二人で再びエレベーターに乗る。
「……運転中になんかしたら私、事故る自信があるのでやめてくださいね?」
「なんかって?」
「……キスとか、手触るとか、なんか、そこら辺」
「残念」
「本当にやめてくださいね!?」
思わず必死になってしまう。
「運転中じゃなきゃいいんですね?」
藪蛇の予感!?
ジッと瀬川さんが私を見つめてくる。
熱っぽくて真っ直ぐな視線。吸い込まれそうな幾度も見たあの視線。
「……あ、あの……!」
「冗談です。エレベーターは防犯カメラありますし、警備員さんに見られますから」
「くっ……! もてあそばれた!」
エレベーターが1階に到着した。
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