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第20話 再就職
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身支度を整え、1階に2人で降りる。
すでに三角社長が起きていて、テレビを見ながらスポーツ紙をめくっていた。
絵里子さんはオープンキッチンでせわしなく朝食の準備をしている。
私はまず三角社長に近付いた。
「社長、高山さんからお話しがあるそうです」
「おお」
三角社長はテレビを消音にし、スポーツ紙を畳み、目の前のソファを私に身振りで勧めた。
瀬川さんが横に立っていてくれる。
「……三角社長、私をスカウトしてくださったのは、私が失業したばかりの女だからですか?」
「それもある。それもあるが……そうだね、ぶしつけだが、飲み屋での会話を聞いていたんだ」
飲み屋で常連のお姉さんと話をしていたことが、なんだかずいぶんと昔のことのような気がする。
何しろその間に瀬川さんと二回もセックスしているのだ。
感覚がおかしくなるのも無理はない。
「それで君が考えはしっかりしていて……不器用だけど一生懸命がんばって……そして癒やしを必要としている人間だと思った」
「癒やし……ですか?」
他の条件と比べて、あまり仕事には関係なさそうな条件だった。
「うん。トライアングルアルファは……そういう女性、癒やしを必要としている女性をターゲットにしたグループにしていきたいと思っている。今は18才。高校生。若い。若さとルックスで十分人を呼べる。しかしそれを十年二十年やっていくとき、彼らに何か武器を用意していきたいと思う。それを私は癒やしと仮置きした……瀬川くんの考えはまた違うんだがね」
「そう、なんですか」
私は瀬川さんを見上げた。
「僕は……彼らは素で良いと思っています。素のままで元気を分け与えられる。そう考えています」
「元気ってね、押し売りにもなるからねえ」
「癒やしには爆発力が足りません。若い内からそこを目指すのは早すぎます」
三角社長と瀬川さんが持論をぶつけ合う。
私の上で言葉が飛び交う。
しかしそれは険悪という感じではない。
お互いお互いの言っていることを受け入れつつ、自分の意見を通している。
これが健全な議論というやつなのだろう。そういう感じだ。前の職場ではこんなもの見られなかった。
素直に私はそれをいい、と思った。
自分が必要とされた理由は偶然が大きくて、たぶん私じゃなきゃ絶対ダメってことはないのだろう。
それでも、私は、トライアングルアルファが好きになったし、それを支える二人のことも、尊敬できる。
いっしょに働けたらそれはきっと大変だけど楽しいのだろう。
そう思えた。
「という感じで僕と瀬川くんは平行線。まあそこは当の3人の意見も聞きつつ……と思っていたところに私の理想のトライアングルアルファの『客』である君を見つけたというわけだ」
「なるほど……」
「もちろんマネージャーとしての仕事もしてもらうがね、君には……モニターになってもらいたい彼らのモニターに。女性の意見を間近で聞くことは、我々にとって有意義だ、そう思っている」
私は、迷わなかった。
「分かりました。そのお話し、お受けします。……貴社で働かせてください」
「おお!」
三角社長の目が輝いた。
「いやあ、嬉しい! やったな、瀬川くん! どう口説き落とした!?」
『口説き落とす』そのワードに私の体はちょっと反応する。
しかし私達の関係性についてはバレてはいないはずだ。大丈夫。たぶん。
「ヒミツです」
瀬川さんは意味深に笑った。
「絵里子! お祝いだ! 飲もう!」
「駄目です。もう、朝から……だいたいこのあと、リクくんエイジくんシュンくんを寮に送るんでしょう!」
「ぐう……」
キッチンから絵里子さんのお叱りの声が飛び、社長は小さくなった。
「じゃあ、正式な契約は週明けの月曜日にしよう。疲れただろうし、今日はこのあと、朝ご飯を食べたら瀬川くん、高山くんをお家まで送ってあげなさい」
「はい、社長」
瀬川さんは当然のようにうなずいた。
「じゃあ、改めて高山くん、今後ともよろしくね!」
「よろしくお願いします……!」
私は頭を下げた。
そして私はキッチンに向かう。
「絵里子さん、朝ご飯の準備手伝います」
「あら、いいのよ」
「いえ、私、もうお客さんじゃないですから」
「……そうね。みんなのことよろしくね、由香ちゃん」
絵里子さんは微笑んで、私に指示を出した。
三角社長はテレビの音声を元に戻し、スポーツ紙を瀬川さんに手渡しながら、何やら話し込み始めた。
すでに三角社長が起きていて、テレビを見ながらスポーツ紙をめくっていた。
絵里子さんはオープンキッチンでせわしなく朝食の準備をしている。
私はまず三角社長に近付いた。
「社長、高山さんからお話しがあるそうです」
「おお」
三角社長はテレビを消音にし、スポーツ紙を畳み、目の前のソファを私に身振りで勧めた。
瀬川さんが横に立っていてくれる。
「……三角社長、私をスカウトしてくださったのは、私が失業したばかりの女だからですか?」
「それもある。それもあるが……そうだね、ぶしつけだが、飲み屋での会話を聞いていたんだ」
飲み屋で常連のお姉さんと話をしていたことが、なんだかずいぶんと昔のことのような気がする。
何しろその間に瀬川さんと二回もセックスしているのだ。
感覚がおかしくなるのも無理はない。
「それで君が考えはしっかりしていて……不器用だけど一生懸命がんばって……そして癒やしを必要としている人間だと思った」
「癒やし……ですか?」
他の条件と比べて、あまり仕事には関係なさそうな条件だった。
「うん。トライアングルアルファは……そういう女性、癒やしを必要としている女性をターゲットにしたグループにしていきたいと思っている。今は18才。高校生。若い。若さとルックスで十分人を呼べる。しかしそれを十年二十年やっていくとき、彼らに何か武器を用意していきたいと思う。それを私は癒やしと仮置きした……瀬川くんの考えはまた違うんだがね」
「そう、なんですか」
私は瀬川さんを見上げた。
「僕は……彼らは素で良いと思っています。素のままで元気を分け与えられる。そう考えています」
「元気ってね、押し売りにもなるからねえ」
「癒やしには爆発力が足りません。若い内からそこを目指すのは早すぎます」
三角社長と瀬川さんが持論をぶつけ合う。
私の上で言葉が飛び交う。
しかしそれは険悪という感じではない。
お互いお互いの言っていることを受け入れつつ、自分の意見を通している。
これが健全な議論というやつなのだろう。そういう感じだ。前の職場ではこんなもの見られなかった。
素直に私はそれをいい、と思った。
自分が必要とされた理由は偶然が大きくて、たぶん私じゃなきゃ絶対ダメってことはないのだろう。
それでも、私は、トライアングルアルファが好きになったし、それを支える二人のことも、尊敬できる。
いっしょに働けたらそれはきっと大変だけど楽しいのだろう。
そう思えた。
「という感じで僕と瀬川くんは平行線。まあそこは当の3人の意見も聞きつつ……と思っていたところに私の理想のトライアングルアルファの『客』である君を見つけたというわけだ」
「なるほど……」
「もちろんマネージャーとしての仕事もしてもらうがね、君には……モニターになってもらいたい彼らのモニターに。女性の意見を間近で聞くことは、我々にとって有意義だ、そう思っている」
私は、迷わなかった。
「分かりました。そのお話し、お受けします。……貴社で働かせてください」
「おお!」
三角社長の目が輝いた。
「いやあ、嬉しい! やったな、瀬川くん! どう口説き落とした!?」
『口説き落とす』そのワードに私の体はちょっと反応する。
しかし私達の関係性についてはバレてはいないはずだ。大丈夫。たぶん。
「ヒミツです」
瀬川さんは意味深に笑った。
「絵里子! お祝いだ! 飲もう!」
「駄目です。もう、朝から……だいたいこのあと、リクくんエイジくんシュンくんを寮に送るんでしょう!」
「ぐう……」
キッチンから絵里子さんのお叱りの声が飛び、社長は小さくなった。
「じゃあ、正式な契約は週明けの月曜日にしよう。疲れただろうし、今日はこのあと、朝ご飯を食べたら瀬川くん、高山くんをお家まで送ってあげなさい」
「はい、社長」
瀬川さんは当然のようにうなずいた。
「じゃあ、改めて高山くん、今後ともよろしくね!」
「よろしくお願いします……!」
私は頭を下げた。
そして私はキッチンに向かう。
「絵里子さん、朝ご飯の準備手伝います」
「あら、いいのよ」
「いえ、私、もうお客さんじゃないですから」
「……そうね。みんなのことよろしくね、由香ちゃん」
絵里子さんは微笑んで、私に指示を出した。
三角社長はテレビの音声を元に戻し、スポーツ紙を瀬川さんに手渡しながら、何やら話し込み始めた。
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