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第12話 つながり

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 控え室に道城プロデューサーを通して瀬川さんは手早くソファ周りを片付ける。
 ソファ周りはリクくんが散らかしたままの状態になっていた。

「お待たせしました。どうぞ、道城プロデューサー」
「うん、ありがとう。写真いいの撮れた?」
「あ、はい。見ますか?」
「いいの?」
「もちろん」

 瀬川さんがカメラを持って道城プロデューサーの隣に座った。

「せっかくだから高山くんもおいで」

 道城プロデューサーが私を呼ぶ。

「は、はい失礼します」

 私と道城プロデューサーで瀬川さんを挟む形になった。
 ソファは3人掛けだけどちょっと狭い。
 瀬川さんに少し触れてしまう。ちょっとドキドキする。

「せっかくですから、パソコンで見ましょうか」

 瀬川さんはカメラをノートパソコンのモニタに繋いだ。
 テキパキと操作をし、画面に写真が大きく映し出された。

「うわあ……」

 私がライブ会場で見た輝きが、そこには切り取られていた。
 3人セットの写真、一人一人のアップの写真。
 写り込んでいる会場の角度から瀬川さんが大きく移動していたのが分かる。

「いやあ、やっぱり上手だなあ瀬川くん。今度のドラマのスチール班やらない? なんてね」

 道城プロデューサーも感心している。
 本職のメディア関係者ですら褒めるのだ。
 ド素人の私の目には写真がキラキラ光って見えた。

「被写体が良いんですよ」

 瀬川さんはどこか誇らしげにそう言った。
 その横顔はやっぱり真剣で、お仕事中って感じの顔だった。

「うん、被写体も良い。あー、あれだあとでシュンと写真撮ろう。で、ドラマのブログに上げよう。それ瀬川くん撮って送ってよ」
「分かりました」

 瀬川さんがうなずいた。



 しばらく写真を見ていたが、時計を確認して瀬川さんが立ち上がった。

「それでは自分はチェキ会の様子を見に行ってきます……高山さん、道城プロデューサーと待っていていただけますか?」
「は、はい……」

 さすがにそれは緊張する。しかし嫌ですとも言えない。
 道城プロデューサーは構わないといった風情で軽く手を振った。

「行ってらっしゃい、瀬川くん」
「い、行ってらっしゃいませ……」

 瀬川さんが行ってしまった。
 私と道城プロデューサーはふたりきりになってしまった。
 き、気まずい……。

 そんな空気を察したのか、道城プロデューサーが口を開く。

「高山くんは刑事ドラマとか見る方?」
「あ、はい! み、見ます!」

 刑事ドラマ好きで助かった!

「そっかそっか。今期は何か見てた?」
「えっと、『ふたりはバディ』シリーズは毎年見てます」

『ふたりはバディ』シリーズはご長寿刑事ドラマだ。
 毎年冬にやっていて、タイトル通りふたりの刑事がタッグを組んで事件解決に当たる。

「あー、すごいよねー『ふたりはバディ』。メイン脚本の先生が刑事ドラマ得意だから何回か仕事したことあるんだけどさ、どうしてああもネタが切れないの? って毎回聞くもん」
「そうですね、時事ネタを取り扱わせたら右に出る者はいないとまで言われていますものね」
「そうそう。人情回も古くさくなくってさあ……うんうん、あのドラマは良いドラマだ」

 道城プロデューサーは嬉しそうにうなずいた。

「『刑事藤野の初恋』もよかったらよろしくね」
「はい、見ます! あの、私、就活で忙しくて来期のドラマのチェックまだしてないんですけど……えっと、シュンくん……あ、いやシュンの役どころってどのようなものなのでしょうか?」

 一応私は三角アイドル事務所の人間ってことになっている。
 社会人として自社の人間に敬称を付けるのはNGだ。

「シュンはね、鑑識役。理系のインテリ。無口な役だから、演技未経験のアイツでもたぶんいけると踏んだ。シュンの出番に『telepathy rhythm』を流す。それ用に作曲家もドラマのメイン作曲家と揃えた」
「なるほど……そういう場面ならあの曲はぴったり合いそうですね」

 私は想像する。鑑識の青い制服を着たシュンくんが試験薬とかを混ぜる姿に流れる『telepathy rhythm』。曲調は合うだろう。ただボーカル曲が合うかは正直、微妙な感じだ。

「そうそう。『刑事藤野の初恋』はね、署長役に三角アイドル事務所の鉢山はちやまさんを呼んでるんだ。知ってる? 鉢山ひろし
「はい、もちろん! あの『刑事磯貝、冬の旅』や『デカの歌』、それに『ヒラ刑事は今日も昼を食う』などでも幹部役をやってらっしゃる刑事ドラマに引っ張りだこのベテラン俳優さん!」
「おー、なんか古いのまでよく知ってるねえ。鉢山さんのね、バーターだったのシュン」
「なるほど……」

 バーター。よく聞く話だ。実力で選ばれたわけじゃないって意味では、あんまりいいイメージはないけど、業界ではよくあることなのだろう。道城プロデューサーはさらりと言った。

「最初はアイドルなりたての演技経験ない子とかめんどうだな~って思ってたんだけど、恋愛ドラマの主題歌がヒットしたでしょ? あれ見て、よし、トライアングルアルファ利用してやれ! って急遽方針転換。ちょっとねじ込むの大変だったけど、ねじ込んだだけのものはできあがるって期待してる」
「なるほど……」
「高山くんは三角アイドル事務所に就職決まってるの?」
「いえ、まだ具体的な話しは何も……なんというか成り行きで……」

 どう説明したものか。
 まさか瀬川さんと一夜を共にして、とか口が裂けても言えない。

「決まったら、よろしくね」

 道城プロデューサーが手を差し出してきた。
 私はその手を握り返した。
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