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第11話 ライブ最高潮

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 一曲目が終わり、リクくんが客席に手を振る。

『ありがとー!』

 ライブのMCはリクくんがほとんど請け負っているようだった。
 控え室ですら無口なシュンくんはともかく、エイジくんならMCくらいは出来そうな気もするが、盛り上げ上手なのはリクくんなのだろう。
 そう思っているとリクくんがエイジくんにアイコンタクトをした。
 エイジくんは頷き一歩前に出る。

『それじゃあ次はお待ちかね、新曲『春空の色』です!』

 エイジくんはそう言うと、センターに移動する。
 シュンくんとリクくんが後ろに下がる。

 イントロが流れ出す。
『トライアングルα』とはまるで異なる、しっとりめのイントロが流れてくる。
『春空の色』は3月リリースと言うこともあり、卒業を歌った曲のようだった。
 そういえば3人は18才だと瀬川さんが言っていた。
 リアルでも高校を卒業する年齢だろうか。
 桜が散って、離ればなれになって、でも、君を抱きしめた。
 そんな感じの恋の歌。

『トライアングルα』とはダンスも違う。
 ゆったりとした魅せる振り付けだ。

 余韻を残して『春空の色』は終了した。

『『春色の空』のお次はーカップリング曲ですがー……シュン!』

 リクくんがシュンくんを指さす。
 シュンくんがこくりと頷き一歩前に出た。

『カップリング曲『telepathy rhythm』……4月からの新ドラマ『刑事藤野の初恋』で挿入歌として起用してもらうことが決まりました』

「わああああ!」

 歓声が上がる。その反応に井守さんの隣で道城さんが満足そうにうなずいた。

「うん、急遽ねじ込んで正解だった」
「そうですね、我が社としても増販体制を組んでいます」
「よろしく、井守さん」
「はい!」

 嬉しそうな二人。
 カップリング曲がタイアップ……そういうこともあるのか……!

 盛り上がりは最高潮のまま、ステージは『telepathy rhythm』に移っていった。
 
 テクノっていうのだろうか、ピコピコした音の『telepathy rhythm』。これをどう刑事ドラマで使うのかは謎だったけど。タイアップはファンにとっては嬉しいものらしく、会場のボルテージは上がったままだった。

 3曲を歌いきり、3人がステージに集合する。
 手を繋いで、ぐっと上に上げた。

『ありがとうございましたー!』

 3人は声を揃えて叫んだ。3曲歌った後だけれど、疲れは見えない。良い笑顔をしていた。

『続いてチェキ会に移ります。整理券をお持ちのお客様は係員の誘導に従ってチェキ会場へと移動してください……』

 場内アナウンスが告げる。
 チェキ会、確か写真を撮ってもらうやつだったか。CDを買うと整理券がもらえる。そういうビジネスモデルのはずだ。
 写真、そういえば瀬川さんはどこに行ったんだろう。
 ステージに夢中で他を気にしている余裕がほとんどなかった。

 私は手に光が徐々に消えていくサイリウムを握り締めたまま、会場を探す。
 すると、移動する人の中を器用にすり抜けて、瀬川さんがこちらに向かってきていた。
 メガネをかけ直していた。

「ああ、井守さん! 道城プロデューサー! 本日はありがとうございます!」
「おつかれ、瀬川くん」

 道城プロデューサーは座ったまま、瀬川さんに手を伸ばした。
 瀬川さんは握手に応え、二人はがっつりと手を組んだ。

「うん、よかったんじゃないか? サプライズとしては上出来だろう」
「はい。おかげさまで大盛り上がりでした。井守さんもありがとうございます」
「いえいえ、良い曲つくって出すのがお仕事ですから。それじゃあ、これから仕事が残ってますんで、私は先に失礼します。三角社長によろしく」
「はい。お忙しい中、本日は本当にありがとうございました」

 瀬川さんが深々と頭を下げた。
 私も慌てて頭を下げる。

 井守さんは本当に忙しそうな感じで、スタスタと会場を後にした。

 道城プロデューサーが瀬川さんに訊ねる。

「瀬川くん、チェキ会ってどんくらいかかるかな?」
「1時間……は見ておきたいところですね」
「そうか、そのあとでいいから、シュンと話したいんだが、大丈夫か?」
「ええ、では控え室にご案内します。高山さん、いっしょに戻りましょう」
「あ、はい!」

 私はサイリウムを持ったまま、ふたりの後に続いた。
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