【R18】同僚マネージャーとヒミツの恋、担当アイドルにバレてはいけない……

新月蕾

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第10話　『ライブ』

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　そしてアナウンスが流れてきた。

『ご来場の皆様、長らくお待たせしました。お席へご案内します。お席には余裕がございます。走らずにご着席されますようお願い致します』

　私の横にも人が来た。
　顔を上げると40くらいのスーツのおじさんがいた。とてもトライアングルアルファのファンって感じではない。その通りで首から『関係者』の社員証ケースを下げていた。
　……誰かは知らないが、あいさつをするべきだろう。私は一応今、事務所の人間（見習い）としてここにいるのだから。

「こ、こんにちは」
「おはようございます」

『おはようございます』そう言えば、芸能界の挨拶はいつもでおはようございますだと聞いたことがあった。いきなりしくじったか？　私が慌てていると、相手は名刺を取り出した。

「レコード会社の井守いもりです。今回のサードシングルの担当をさせてもらっています」
「え、えーっと、三角アイドル事務所にインターンに来ております。高山です。就活中の身でして名刺は持っていません。申し訳ありません」
「なるほど、インターン生にしてはしっかりされていますね」

　井守さんは愛想良く笑ってくれた。
　インターン生……あれ大学生に間違われてる？　25才です。お世辞でも嬉しいです。ちょっと。

「座りましょうか」

　私は井守さんに促されて並んで席に腰掛けた。

　次々にお客さんが目の前の席を埋めていく。
　みんなオシャレをしてはしゃいだ声を出している。
　キラキラしている。トライアングルアルファが彼女たちをキラキラさせている。そう感じた。
　お客さんは9割以上が女性だったけれど、中には男性もいた。

　そしてその間にも関係者席には人が現れた。
　井守さんは私の紹介役を買って出てくださった。

「道城みちしろさん、おはようございます。こちら三角さんとこのインターン生の高山さん。高山さん、こちらシュンくんの次のドラマ『刑事藤野ふじのの初恋』のプロデューサーの道城さん」
「よ、よろしくお願いします！」

　シュンくんのドラマは刑事ドラマだったのか！
　失業後の手続きに忙しくて来期のドラマのチェックをまだしてなかった。
　これは見る。マネージャーになるとか関係なしに見る。

「はい、よろしく。瀬川くんは？」
「えっと……写真を撮りに行きました」
「なるほど、ドラマの現場でも写真撮っていいかって聞かれたよ。最近の芸能人はブログやらSNSやら大変だね」
「そ、そうですね」

　モールの責任者やら、音楽提供の方やら、多くの関係者に囲まれて私は名刺まみれになって目を白黒させていた。
　たぶん井守さんが親切に世話を焼いてくれなければ、パンクしていたと思う。
　とりあえずアイドルの仕事というものが色んな人間に支えられているってことだけはよく分かった。

　そうこうしているうちに、客席は落ち着き、開演時間が迫ってきた。

『お集まりの皆様、本日はトライアングルアルファのサードシングル『春空の色』発売記念イベントにお越しいただきありがとうございます。開演の時刻が迫ってきております。どうぞお席でご観覧くださいますよう、お願い申し上げます』

　私はひっそりとサイリウムを取り出した。
　サイリウムは3色、黄色と青と緑。
　3人分の色だった。

『お待たせー！』

　その声は突如として会場に響いた。と同時に舞台袖から3人が走り出てくる。
　リクくんは大きく観客席に手を振って、シュンくんはまっすぐ進行方向を見つめて、エイジくんはリズムよく、三者三様の登場に観客は沸き立つ。

「リクくーん！！」
「シュンくーん！　おめでとー！」
「エイジー！！」

　観客席から黄色い声が飛ぶ。
　ファンの子がサイリウムを折っているのを見て、私も折る。サイリウムは光り出した。

『黄色い太陽あなたに煌めく！　リクでーす！』
『青い風が心を奪う。シュンです』
『緑の木陰に癒やされて！　エイジです』
『3人合わせてー』
『トライアングルアルファ！！！』

　私にしたのと同じあいさつをステージ上で3人がする。
　さっきとは違い至近距離ではない。それなのに、何故だろう存在感がある。

『さっそくだけど、一曲目行くよー！　『トライアングルα』！』

「きゃあああ！！！」

　イントロが流れ出す。
　3人がポジションにつく。センターがリクくん、左右にシュンくんとエイジくん。
　あのポーズはエイジくんが控え室で取っていたものだ。

　歌が始まる。
　音が後ろのスピーカーからガンガン響いてくる。

『トライアングルα』。申し訳ないが初めて聴く歌だった。
　ユニット名と同じ曲名。おそらくデビューシングルなのだろう。
　激し目のテンポの曲。ダンスを踊りながらよくああも声が出るものだ。
　把握できた歌詞からは彼らの志的なものを歌っているものだと感じられた。
　もちろん作詞家が書いてるのかもしれないけど、何にせよ会場のボルテージは上がっている。

　私はリズムに合わせてサイリウムを前後に振るので精一杯だった。

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