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第8話 交流

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「フカミンおっつー! もやしの山買ってきてくれた? ていうかその子誰?」

 ポテチを食べていた金髪の子がソファから起き上がりまくしたてる。
 年下の18才にその子とか言われてしまった……。
 それにしてもフカミン、か。瀬川深海の深海を取ってフカミン。あだ名で呼ばれてる瀬川さんはなんだか新鮮だった。
 いや、私も昨夜は散々メガネさんって呼んでたけど……。

「ほい、もやしの山」

 チョコレート菓子を差し入れの袋から取り出し、瀬川さんは放る。
 その顔は年下の弟と接するような、後輩を見守る先輩のようなどこか大人びてそれでいて親しげな表情をしていた。

 そういえば瀬川さんはいくつなんだろう。
 なんとなく私よりは年上っぽいけど。

「わーい」

 金髪の子はすぐにお菓子に夢中になり、私のことを意識から外した。

「…………」

 黒髪の子は指に髪を絡めながら、無言で私を見ていた。
 どうやら無口な子らしく、瀬川さんに何か言いたげな表情をしているが、口は開かない。

「ワンツーワンツー……」

 そして茶髪の男の子は振り付けを続けている。ちょうどクライマックスだったらしく、しばらくすると振り付けは終わった。

「ふー」
「はい、カラダにウォーター」

 茶髪の子に瀬川さんはスポーツドリンクを投げる。

「サンキュ」

 茶髪の子は受け取ると、一気に半分ほどを飲み干した。

「それで瀬川さんその方どちら様? ショッピングモールの方?」

 茶髪の子は金髪の子と違って私の扱いがそれなりに丁寧だった。

「この人は……」

 瀬川さんはそこで言葉に詰まった。
 私の名前を知らないことにようやく気付いたようだった。

「高山由香です」

 私はとりあえず名前だけを名乗った。

「高山さんだ」

 瀬川さんは何事もなかったかのように私の名前を三人に告げた。

「彼女は……そうだなインターンだとでも思ってくれ。新入社員候補だ」
「あー、新しいマネージャー?」

 もやしの山を口いっぱいに頬張りながら器用に金髪の子が喋る。

「そんなところだ」
「そっかー由香ちゃん、しくよろー」

 業界用語!

「よ、よろしくお願いします」

 私は金髪の子に頭を下げた。

「かたーい」

 そう言って金髪の子はケラケラ笑った。

「ちょうどいい。リハーサルがてら高山さんにいつもの挨拶で自己紹介を」
「はーい」
「……分かった」
「了解!」

 瀬川さんの指示に三人は集合した。

「黄色い太陽あなたに煌めく! リクでーす!」
「青い風が心を奪う。シュンです」
「緑の木陰に癒やされて! エイジです」
「3人合わせてー」
「トライアングルアルファ!!!」

 ビシッとポーズが決まる。

 私は思わず拍手をしていた。

 金髪、衣装が黄色、お菓子を食べてたのがリクくん。
 黒髪、衣装が青色、鏡の前にいたのがシュンくん。
 茶髪、衣装が緑色、振り付けをしていたのがエイジくん。

 頭のメモ帳に書きつけた。

「という感じの三人でやっております。高山さんは今日はまあ細かいことは気にせず、お客さんのつもりで楽しんでください」
「わ、分かりました……」

「諸君、おつかれー! 瀬川くん来てたか! と、おお、勧誘成功か!」

 ノックもせずに開かれたドアから昨日のおじさんこと事務所社長・三角哲三氏が現れた。

「改めて、おはよう! 三角アイドル事務所社長三角哲三だ!」
「た、高山由香です。お、おはようございます。本日はお招きいただきありがとうございます」
「そんな固くならなくても平気平気! リク! チョコ口についているぞ! シュン! 髪セットしたのにいじらない! エイジ! 汗はちゃんと拭くんだぞ!」

 社長さんがトライアングルアルファの3人に声をかける。
 その様子は確かにマネージャーらしさがあった。

 3人は素直に言われたことに応えて口を拭いたり手を下ろしたり汗を拭いたりした。

「瀬川くん、開演まであと何分?」
「90分です」
「まだ時間あるな! よしちょっとステージ見てくる! 後は任せていいか?」
「はい。大丈夫です。行ってらっしゃいませ」
「高山くん! 楽しんでいってくれ!」
「は、はい……」

 嵐のように社長さんは去って行った。

「エイジー、振り付け終わったんならゲームしよー」
「もう一曲確認する」

 リクくんのお誘いに、エイジくんはストイックにそう返す。

「シュンー」

 リクくんは食い下がらずに後ろを振り向き、シュンくんに声をかける。

「…………」

 シュンくんは無言で首を横に振った。

「フカミンー」
「いつ仕事の打ち合わせが入るか分からないから」

 今も何かメールを打ち込みながら、瀬川さんは答える。
 仕事のメールだろうか?

「じゃあ由香ちゃん」
「わ、私ですか」
「うん、ほら、ハード貸すし、手加減するからさ」
「ええっと……」

 私は困って思わず瀬川さんを見る。

「お嫌でなければ付き合ってやってください」

 瀬川さんは苦笑しながら、そう言った。

 私の返事を待たず、リクくんは携帯ゲーム機をセットした。

「ほら由香ちゃん、はい!」
「ど、どうも……」

 私は促されてリクくんの隣に座る。

 しかし私は普段からゲームはあんまりやらない。
 スマホのパズルゲームをいくつかしてるくらいだ。

「私……たぶんめちゃくちゃ弱いですよ?」
「いいの、いいの、NPCとやるよりは楽しいから!」

 リクくんの選んだゲームは私でも知っている有名ゲーム『大激闘クラッシュアンドビルド』だった。
 たくさんいるプレイヤーキャラから好きなキャラを選択して戦わせるゲームだ。

「初心者にお勧めなのはこいつかなー」

 言われるがままに、選ぶ。

 一戦目、ボロ負けした。瞬殺だった。
 もはや悔しいとか思う暇もないくらいの圧倒的負けであった。

「……もっと手加減するね……」

 リクくんは唖然といった感じで呟いた。

「ご、ごめんなさい……」
「いや、これはこれで面白い」

 二戦目、なかなか良い勝負だった。
 リクくんの手加減するという宣言は本当だった。
 私のめちゃくちゃなコントロールさばきでもなんとかゲームが成り立つよう誘導された気すらする。

「よしよし、コツが掴めてきた」

 リクくんが楽しそうに笑った。

「由香ちゃんがコンボを決められるようになるまで頑張るよ!」
「あ、ありがとうございます……?」

 何やらよく分からないところに火が付いたらしい。

「この感じだとーキャラはキングキングを使うとー」

 何か分からないがブツブツとリクくんが考察モードに入った。

 顔を上げるといつの間にか向かいのソファに瀬川さんが腰掛けて、こちらを見ていた。
 目が合うと、優しく微笑んでくれた。
 その笑顔はなんだか昨夜を思い出させて、私はちょっと赤くなった。
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