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二十二、まさかそれって……
しおりを挟む「アラン……俺たちだけじゃ、って何だ?」
走って来たのだろう、息をきらせたイスキエルが見開いた目をアランに向けた後、錯乱するアイラに移動してから、シシーリアを背後から抱き込むようにして立つイヴァンに視線を向けた。
どう考えてもシシーリアに攻撃されているアイラとそんなシシーリアを庇うイヴァンにも見えるが、何故かそう考えると不自然にも感じる異様な雰囲気とシシーリアの伏せられた瞼、アイラのいつもとは違う引き攣った表情。
まるでアイラが別人にでもなったように感じて、不思議な感覚がした。
あんなにも愛らしく、庇護欲を駆り立てられていた彼女が不気味に感じるのだ。
「言葉の通りだよ、学園中の男達に色目を使ってる理由が何かしりたいなぁ」
「色目なんか使って居ませんッ!向こうから言いよってくるだけよ!!」
「あれ?猫を被るのはやめたの?」
「ーっ!?」
「「アイラ、どう言う事だ?」」
アランとイスキエルの声が被って二人はハッとお互いを見て気まずそうに俯く、どの口がそれを言うのかと自己嫌悪に浸った。
「私はてっきり、国家転覆でも目論んで居るのかと思ったわ」
「「!!」」
シシーリアの言葉に驚く二人と「そうかも」なんてわざとらしく共感するイヴァン、アイラが焦ってヒステリックな金切り声を上げてシシーリアを罵倒し始めると軽快な足音が近づいて来て、聞き覚えがあるのだろうシシーリアがバッと顔を上げてその方向に顔ごと向けた。
「リズ……っ」
「イヴァン殿下……と、姉様っ!」
「……何しに来たの学年の校舎に戻りなさい」
「僕、ずっと謝りたくって!最近おかしくてアイラ追ってたら見たんだ!毎日毎日驚いたし傷ついたけど違う相手と交わるアイラを、それに……ユウリさんがっ!!」
「……ユウリがどうしたの?」
「話してごらん、リズモンド。大丈夫だよシシーちゃんと保護してある」
「アイラに……毎日のように無理矢理ッ、嫌な事までさせられて身体と心が限界で姉様のことずっと呼んだまま廊下で倒れたんだ……!」
「そう」
「そう、って!姉様はもう僕達を見捨てた……?」
「リズ、貴方は?」
「僕は、身体までは……」
「どうやら他に無事なのはナミレアだけのようね」
そう言ってシシーリアが木陰に目を向けると気まずそうに出て来たナミレア。
「シシー……私ユウリに付き添ってたの」
「そう、無事でよかったわ」
「ごめんなさい……もう友達だなんて言えないわよね」
「……」
「ユウリは手酷く好意を強要されて、精神を患って殿下の手配で神殿に戻っているわ……私、不安で大神官様に調べてもらったの……過去の聖女様のこと」
「へぇ、王族だと警戒されているのか口を割らなかったのに」
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「あぁ」
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その話はにわかには信じがたいもので、この世界の事を事細かに記したものが別の世界に存在してその「ニホン」と言う世界から何故かこちらに現れるのが聖女らしい。
ある程度の時期までの未来を記したその「ゲーム」とやらのおかげで聖女は先読みができると言う。
「ねぇアイラ、貴女は強制力のおかげで何でも出来ると呟いた事があったわね。けれど昔の聖女さまはそれを恐ろしい力だと悩んでおられたわ」
「どう言う事だ?説明してくれ、アイラ」
「アラン……レア、皆……違うのそんなに悪い力じゃないわ!」
「皆、聞いて……昔の聖女様の日記には……」
"強制力のお陰で皆の婚約者様を傷つけてしまうのが辛い、私を心から愛しているのではなくきっと強制力が働いて、婚約者や友人への不安、不満、劣等感、そしてある程度の私への好意に漬け込んで強制的に虜にしてしまうこの力はとても恐ろしくて酷いものだ"
「と、書いてあったわ。私にも心当たりがあるの、ずっと大好きだったし大切だったけど無意識に嫉妬していた。私はずっとユウリが好きだったけど彼を理解してあげたのも、彼が愛したのもシシーだったから。考えないようにしてた筈なのに、きっと無意識に湧き出る負の感情が強制力に巻き込まれることになったのね」
「「……」」
「ふぅん、なるほどね」
(どおりで僕とシシーには通用しないわけだ)
「だとすれば貴女はそれを理解して力を使っていたのね」
「ち、違うの……っ!!そんなの知らないわ!!」
軽蔑したように見るシシーリアの目と、笑っていないイヴァンの目
アランとイスキエルの信じられないというような表情と、
リズモンドの睨みつけるような視線、
「ねぇ教えて、誰が穢れた聖女だとシシーを言ったの?」
「この世界の仕組みを呪った聖女様が、二度とこんな事が起こらないようにと祈りを捧げたと書いていたわ」
ーーそしてそのお陰で正当な神聖力を持つ聖女が現れたとも。
大神官様はとても後悔していたという。
「どうかしていた」と気付いた時にはもうシシーリアを追い出し、大きすぎるシシーリアの力を恐れる負の感情に漬け込まれアイラを次の聖女だと思い込んでいたと話していたらしい。
「今も何処かで貴女を信じたいと思ってしまうのアイラ……どうか答えて頂戴」
ナミレアの切実な声だけがひどく響いたように感じた。
「シシー、どうしたい?」
「……イヴァン、私は」
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