公爵令嬢は破棄したい!

abang

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公爵令嬢は踏み出せない

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テオドールときちんと別れてから、セシールは気の抜けたような気分だった。

すぐに切り替える気持ちにもなれず、邸でレミーの件の後処理と、公務に明け暮れていた。



「クロときちんと話さないと……別れたばかりだしまだだめよね、プロポーズと言って居たしきちんとスッキリしてからにしましょう。」

もう数日経つというのに、会いたいのに会わない、と周りからみてももどかしい日々を過ごしていた。



「セシール、大丈夫か?」



マケールが心配そうな顔で入ってくる。
媚薬の事も聞いているだろう、セシール気まずそうに顔を俯かせたが、マケールの手がその頭を撫でた。


すると、ボロボロと溢れ出る涙が止まらなくなった。


「う…っおとうさま…。物事の終わりって凄く悲しいものなのね、それでも、わたくし…」


「ああ、分かっているよ。よく頑張ったな。クロヴィスの事は私はよく知っている。魔法に関しては弟子でもある。」


初めて聞く話だった。クロは昔からその膨大な魔力を、魔法が苦手だと持て余していた。最近では魔法のコントロールも私に並ぶようになっていたが…


「お父様が教えていたの?どおりで…」


「お、涙が止まったね、」


あまりの驚きに涙が止まったセシールに少し笑って言った。



「殿下の事は残念だった。言いたい事は山ほどあったが、悪い人ではなかったし私も彼の人柄は好きだよ。」


「…ええ。」


「ただ、この間の夜会でクロヴィスを呼んだのは彼といるセシールがいちばん、ありのままだったからなんだ。」


「お父様……私クロを愛してるの。なのに、テオの涙を思い出すと踏み出せなくて、」


「恋をする事は悪いことじゃない。長い間、殿下と居たんだ。まだ裏切るような罪悪感はあるだろう。でももう終わった。セシール、幸せになってもいいんだよ。」



「それに…あいつの髪と瞳、ノーフォードの色だ。まるでウチの為に在るようだよ。ぴったりで気に入ってる。」


ランスロットの者の殆どは金色の瞳ではないのに…と


冗談っぽく笑って、行っておいでと背中を押した。


その日の内に、通信で行くことを伝え、翌日にランスロット邸を訪ねたセシールは、珍しく緊張した様子でニルソンの後を着いて行く。



「セシール、会えて嬉しいよ。」


「クロ、突然で申し訳ないわ、すぐに伝えたくって。」


「まず、座ってくれ。俺にも心の準備がいるからね、」


眉尻を下げて笑ったクロヴィスの向い側に座ってセシールは静かに深呼吸してぽつりと話しはじめた。


「テオと話したの。きっと彼との時間を忘れる訳じゃないと思うの、だけどきっと良い思い出になるわ。」


クロヴィスは黙って続きに耳を傾ける。

「クロ、わたくしあなたが好きよ。今まで知っている恋とは違うとても、情熱的な想いなの。初めててどうしたらいいのか分からない。」


クロヴィスは立ち上がると、セシールの足元に膝をついて、彼女の薬指に指輪をつけた。


「セシール、俺と結婚してくれないか。」


「ええ、わたくしでよければ喜んで」


ガッツポーズをしてからセシールを抱きしめたクロヴィスに控えていたニルソンが指摘する。


「クロヴィス様、ご結婚はまだ気が早いかと。まずはご卒業を。」


セシールとクロヴィスは顔を見合わせて照れたように笑って、




「そうだったな、休暇の間にまずは婚約のご挨拶に伺う。」



「ええ、ぜひ領地のご両親にも久しぶりに会いたいわ。」




エイダとエイミーは背中の後ろで見えないように小さくハイタッチした。


「ずっと大切にする。」

わたくしも大切にします。」



二人の唇が重なり、ニルソン、エイダとエイミーはそっと目を閉じた。




(どうかお二人が、幸せでありますように。)
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