公爵令嬢は破棄したい!

abang

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王太子殿下は帰りたい

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彼女の瞳の色をイメージしたアメジストの耳飾にそっと触れたテオドールは表向きは笑顔であるものの、つまらなかった。


さっきクロと入場したセシールはまるで揃えたような衣装に、彼に信頼の目線を向けていた。

テオドールとセシールの婚約解消はどこからか噂になり、年頃の令嬢達に囲まれて王家主催の夜会なのでその立場上、動けずに居た。


「王太子殿下、お飲み物をどうぞ!」

「あの…今日も素敵です」「殿下この後ご予定は…?」


(早くセシールと話したいのに。)


「ああ、皆、ありがとう。有難く頂くよ、では…」


去ろうとすると広い会場の隅、柱の後ろから何やら揉めている声がした。


ーーパシャッ

数人の令嬢に取り囲まれ、壁際においやられているレミーが居た。淡いピンクのドレスは皆にシャンパンをかけられてその身に張り付いていた。


「なんて!はしたないの!貴女下着をお付けになって居ないの!?」


「キャア!ほんと、これだから没落、反逆者の家柄の女は嫌だわ、」


その言葉にレミーを見ると、そのドレス越しに伝わるエミリーと同じく豊かな女性の象徴にポツリと二つの蕾が主張していた。


「ち、違います。これは使用人達の嫌がらせで、準備がされていなかったからです!」


「本当なんだか…穢らわしい子!」


迷った末にテオドールは声をかけて、レミーにその上着を貸してやることにした。

「何をしている?」



「で、殿下!?これは…」

「この子が私達に、ぶつかってしまったのです!」


皆が口々に言い訳をし、そそくさと去っていく令嬢を横目にレミーに上着をかけてやろうと脱ぐと

「殿下、公の場で殿下の上着を貸して頂けば誤解を招きます。」


レミーはテオドールがセシールの影を追っている事を理解しているので、真面目で、完璧な淑女を心がけた。

(こういえば逆にほっとけないわよね、)


すると、レミーの予想は外れ、護衛にブランケットを取って来させ、


「そのまま、一度、下がると良い。その格好では出れないだろうからね」



と、優しげに微笑んで急いで何処かに行こうとした。
するとレミーがテオドールを呼び止める。



「あの、ありがとうございます。今度お礼に…」


「申し訳ないね、気持ちだけ受け取っておくよ。」


「殿下、っ!」


足早に去っていくテオドールを悔しそうに見るレミーであったが、後ろから聞こえる声にその顔は青ざめる。


「殿下は無理ね。貴女じゃなくても。セシールじゃないとダメなの横槍をいれずに彼らにきちんと結末をあげて。」


余計な事はしないでね、と彼女は主張する彼女の蕾をツンっとつつき、魔法を使って綺麗にしてやった。


「ひゃぁ!なっ…何の話ですか!?ふしだらですよ!」


「王宮の使用人にそんな事する人居ないはずよ、公私をきちんと分けられるから王宮勤めに選ばれているの」



「本当です!嘘なんてついていません!」


「そう、やっぱり貴女じゃセシールに敵わないわ、まずはきちんと下着を着けることね、セシールはそんな手使わなくても彼の瞳を釘付けにしているわ。」


マチルダの視線を追うと、クロヴィスと会場に戻ったセシールを見つけて早足で声をかけに行くテオドールが、愛おしそうに手の甲にキスをし、ダンスを申し込んでいた。


穢れを知らない、生まれながらにその身分と美しさ、そしてテオドールという元ではあるが婚約者をなんの苦労もせず手に入れたセシールが憎かったレミーはギリッと歯を噛み締めた。



(セシール様、貴女を穢してやりたいわ、何か一つでも失わせてやりたい!)


「あら?その目、ならないように気をつける事ね、ノーフォードもだけど、私やクロも簡単じゃ無いわよ?」


その瞳に焼き尽くされるのではないかと錯覚する程の恐怖で身体が震え、ただマチルダが去る背中を見守るだけのレミーであった。


目線を戻すとどうやら、セシールに群がる子息達に、貼り付けた笑顔と射殺すかのような目というアンバランスな顔で牽制しているクロヴィスとテオドールが見え、ここからは見えないセシールの表情だったが、その美しい背中と儚げな笑顔だけで会場中の者の心を掴み、ほとんど全員に彼女を求めさせる程の色香、それでいて穢れない少女のような雰囲気も全てがレミーの心の中を逆撫でしていた。




そして、彼女はその豊かな谷間から小さな、ピンクの液体の
入った小瓶を一つ取り出してごくりと喉を鳴らしたのだった…



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