公爵令嬢は破棄したい!

abang

文字の大きさ
上 下
55 / 75

公爵令嬢は追いつきたい

しおりを挟む

メーベル邸を出ると、前にはもうノーフォードの馬車が見えた。
リアムが立っており、チラリとセシールの上着をみてから、手を差し出した。


「ありがとう、リアム」


少し赤く見える頬も、その赤く潤んだ目元も、珍しく熱いのか扇ぐ姿も、肩にかかる上着の紋章も全てに違和感を感じた。


「お嬢様、何かおありでしたか?」


「いえ、なにもないわ。」


リアムが軽く睨むようにエイダとエイミーを見ると、ニヤニヤと笑って返すだけなので、余計に不安感が募る。



(クロヴィス、お嬢様に手で出してねぇだろうなぁ)



心の中でその上着の持ち主であろう彼に悪態をついて、セシールを見ると、そのほんのり潤んだ瞳と珍しく半開きの唇、その頬がは赤く染まっており、そのスリットから覗く白い脚を内側に擦り合わせるようにギュッと閉じたまま、何かを堪えるように考えこんでいた。


(嗚呼、なんて扇情的なお姿。それすらも美しい…)


リアムはハッと見惚れている場合ではないと首を振り、優しくセシールに問いかけた。


「何か、僕に出来ることは御座いますか?」


セシールはゆっくりとリアムに尋ねる、


「キスとはあんなに…いえ、なんでも無いわ、」


「キス?」


リアムは鋭く反応し、エイダとエイミーを見ると2人は首を左右に振り、小声で「マチルダ様とリシュ様よ」と言った。



「お嬢様にはまだ早いかと。」


セシールがしたいと言ったわけではないと分かっている。今見たものを消化しきれずにいるだけだとは理解しているが、セシールがリアムの手を離れてしまう気がして嫌だった。


「皆最近おかしいわ、わたくし、置いて行かれているのかしら…」


別にセシールとどうこうなりたいとか、彼女を自分のものにしたいなどとはリアムは思っていない。


だが、リアムはなんでも自分がしてあげたいし、この世の男共にお嬢様は勿体ないと思っている。彼女が男性と色事をするなど考えたくもないし、いつかその日が来るとしても彼女自身が、無知故に価値相応に扱われない事を危惧していた。


お嬢様も周りも皆、少しずつ大人になられている。


それならばいっそ…


(きちんと知ってもらう方がいいのか…)


「いいえ、置いて行かれている事などありません。ですがもし、好奇心で大きな失敗をなさる事がない様……パチン」


リアムは一瞬でエイダとエイミーに先程とおなじ景色の幻術をかけ、セシールの足元に跪いた。


「そろそろお嬢様も、少しは危機感を持って頂いた方がいい。」


「リアム?」


「お嬢様は隙がありすぎますからね、貴方はなによりも気高く価値のある存在で、素晴らしい女性です。」



「失礼、ご無礼をお許し下さい。」




リアムはセシールに覆い被さるようにセシールの頭の横に手をつきその頬に触れた。


「あの…なにをするのかしら…」


戸惑うセシールにリアム自身高鳴っている心臓に気づかぬようにし、顔を近づけた。





「お嬢様、男性の手の届く範囲で警戒を怠ってはいけません。

僕はしませんが、男共はお嬢様の唇を奪おうとします。」





リアムはそのスリットから覗く脚をツツーっと撫でて、指先だけをスリットにかけ、真っ赤になって今にも泣き出しそうなセシールに努めて冷静に注意する。


「リアムっ…ぁやめっ…」


(鎮まれ静まれ鎮まれ僕これはただの真似事。)



「お嬢様のお身体をどんな理由であれこのように簡単に触れさせてはなりません。お嬢様がいくらお強いといえ、お美しいお嬢様の全て見せてしまうことは、征服されることです。」


「誰も、見ないわっ…リアム変よ…っ」


「いいえ、見ますただそれは将来の伴侶だけ。きちんと貴方の意思で身を委ねる事を、妥協するのではなく、選択し許す立場でなければなりません。」



そして頬から鎖骨を通り、人差し指で遊ぶように肌の上を滑らせ、その大きすぎない谷間に人差し指だけをツーっと差し入れた。




「ひゃっ!…リアム、あんまりふざけると…っ!!!」


「お嬢様、震えておられるのですか?」


わたくしっ…ゃあ、リアム、耳ッ…」


耳たぶに触れるか触れないかで唇をあてて囁いたリアムに恐怖と初めて感じる羞恥に涙を溜め小さく震えていた。


(クソッなんてお可愛らしいんだ。だめだ無になれ)



そのまま手を離し彼女の顎を持ち上げ、親指で下唇を軽くなぞるとキッっとリアムを睨む。


「言いたい事はわかったわ…っ」



「アルフレッドの時もそうでしたね。口内を指で犯すと言う行為は口淫を連想させる行為です。決してそれを受け入れてはなりません。」



「口淫とは….?なに?」


リアムは片手で自分の口元を覆い真っ赤になりながらセシールに説明すると、彼女はとうとう泣き出してしまった。




セシールは真っ白な頭で、少しずつリアムの言いたい事が分かるような気がしていた。


(どんな男性にも気をつけろということ?どんなに親しく、安心な相手であっても決して肌に触れさせてはならないということなのね)



セシールは背中をゾクゾクッとなぞられるような感覚と、感じた事のない羞恥と恐怖。


初めて男女という生物の性別を分けた考えを持った。


「ひとつひとつの行為にその思惑が、感情が、願望があります。お嬢様はその存在感自体が神。価値があるのです。あの鈍感には何の思惑もないでしょうが、他家の紋章をつけて出歩けば関係が噂になります。」


リアムはセシールの上着をしっかりとかけ直して、ドレスを正してやり、ハンカチで涙を拭い。捨てられた子犬のように、


「ごめんなさい、お嬢様。」といって両膝をつき詫びた。



「やり過ぎよ、リアム。でも身を持って知りました。男性と女性とでは全く違うのですね。自分を大切にする為にはきちんと危機感を持って接しないといけないという事ね…」


すると、幻術に気づいたエイダとエイミーが、リアムを後ろからボコボコにする。


「「あんた!なにしてんの!!!!」」

「お嬢様は知らなくていいの!」

「私達がお護りすればいいのよ!!」

「ごめんってば、近頃あんまりに令息達が色気づいてやがるもんだから!お嬢様は危なっかしくて!」


「声は聞こえんのに解くのに時間かかったわ!もう!泣かせてどうすんのよ!!」

「お嬢様、大丈夫ですか?」



「2人とも、いいの。大丈夫よ。」


「リアムも心配させてごめんなさいね、わたくし不甲斐ないわ…。」


困った顔で微笑んだセシールにホッとした3人であった。


そして邸に帰るとリアムはエイダとエイミーに追い回され袋叩きに合うのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】本当の悪役令嬢とは

仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。 甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。 『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も 公爵家の本気というものを。 ※HOT最高1位!ありがとうございます!

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

自分を陥れようとする妹を利用したら、何故か王弟殿下に溺愛されました

葵 すみれ
恋愛
公爵令嬢レイチェルは、あるとき自分の婚約者と妹が浮気している現場を見つける。 それを父や兄に相談しようとしても、冷たくあしらわれてしまう。 急に態度が変わった二人に戸惑っていると、妹がこの世界は前世で自分が書いた小説の世界だと言い出す。いわばこの世界の創造主なのだと。 妹は主人公として悪役令嬢のレイチェルを排除してやると宣言するが、そのときレイチェルも自分の前世を思い出す。 この世界が小説の世界なのは確かだが、それは前世のレイチェルが書いたものだった。 妹はそれを盗作していたのだ。 本当の作者であるレイチェルしか知らない設定があることを、妹はわかっていない。 「ストーリーを利用しようとするあの子を、さらに利用してやるんだから!」 こうしてレイチェルの奮闘が始まった。 そしてレイチェルは、学園で王弟カーティスと出会う。 王弟カーティスの存在は小説になく、現世の記憶にもない。 怪しむが、彼はレイチェルに愛を囁いてきて……。 ※小説家になろうにも掲載しています

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される

安眠にどね
恋愛
 社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。  婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。その虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!? 【第16回恋愛小説大賞 奨励賞受賞。ありがとうございました!】  

処理中です...