公爵令嬢は破棄したい!

abang

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伯爵令嬢は取り戻したい

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ギデオンの手配した馬車によって、かなり逃げ回ったあとに王都へやっと入れたエミリー嬢だったが、いい加減、身体を洗いたかった。


「ギデオン、宿を取りたいわ。湯浴みをしたいの、」



かつて盲目的に愛したエミリーの美しさは幻だったかのように、自分が利用した欲望によって汚されていた。




「自分で入れないのだろう?」




「入らないよりはましよ!ちょっと!そこの冴えない女、湯浴みを手伝って下さらない???」



高圧的に平民の中年女性に声を掛けるが、



「何言ってんだい!うちの国で奴隷制度はないから…あんた娼婦か何かかい?かなり臭うよ!貴族ぶってないで、その下着みたいな服をぬいでとっとと風呂に入りな!!」



と、相手にもされず鼻を摘んで立ち去られてしまった。

(こうなったら…)



ギデオン、少し疲れたわ。身を隠しているから、宿を探して来てくれない? とギデオンを遠ざけたエミリーは、平民の若い男達が溜まり場にしている店へ入った。


「あっあの…男達にひどいめに…っうっ助けて下さい!」



ボロボロだった下着と肌着を脱いで、一糸纏わぬ姿で飛び入ったのだ。


「な、なんだ?あの汚い女は?臭うぞ!」

「いや、待て見たことあるぞ…」

「結構いい身体してんじゃねぇかうちで風呂でも入るか?」



(やっぱり、こうなったとしても、私の魅力は衰えていないわ!)



そこは、治安の良い場所と言える場所ではなく、一部のものは禁止されている奴隷制度に興味を持ち、女性を酷く扱う輩もいた。


「あっありがとうございます!!湯浴みをしたくて…」



「おっお貴族様かい?そりゃあいい!」



ーージョボボボボボ

かけられたのは瓶に入った酒であった。



「ぷはっ、な、なにをするの!?」



「あーあんたデボラ伯爵とこのエミリーだな」



「指名手配になってるよ、王宮に突き出されたくなけりゃあ、溢れた酒をキレイにしなっ!!!」


この国の者が罪人の魔力を制御する為に使う鉄のチョーカーをつけられ、その先には鎖が繋がっていた。

頭を床に押し付けられ、泣きながらお酒を舐めとった。


「おっせえな、もういい。足が濡れたよ、こっちも頼むよ。」


ムレた靴下を脱ぎ、男がエミリーの口に足の指を詰め込む


「うぉえっ、や、やめろよぶさいく!!!」


エミリーは本性を丸出しにして怒ったが、周りの男たちは大笑いするだけで、犬のように鎖で繋がれたまま、部屋の奥のシャワー室へと連れて行かれた。



「うわーくっせぇな、こりゃかなり使ってるぞ」



赤子のように洗われ、罵倒されたが、泡が洗い落ちたころには、美しい亜麻色の瞳と髪がもどってきていた。



「ほぉ~、噂通りの美人だな~!」ニヤリ


「あの、ありがとうございます、鎖を….」



「解くわけねぇだろ!お前は奴隷としてここで可愛がってもらうんだよ!」



エミリーは絶望した。が、その時掠れ気味の女性の大きな声が聞こえた。





「あんた達何やってんだい!!!」





筋肉質な、背の高い赤茶色の髪の中年女性がエミリーを探すギデオンを案内するところだったのだろう、怒鳴り込んできた。



「うっわ!やべぇ!ババアが来たよ!!」

「こいつ、どうする?」

「見ろよ、ギデオン様だせ?置いてくよ!」


皆走って逃げていった。

水に濡れ、拘束具をつけられたままのエミリーに、女性はタオルで身体を拭いてやり、拘束具を外そうとした時、ギデオンが制した。

「そのままで良い。」

「でもアンタ…」

「彼女は罪人だ。」

女性は黙って手を戻し、ギデオンが鎖を手にした。

ギデオンは彼女を愛していたし、今もその気持ちが全く無いわけではなかった。だからこそ幻滅していた。



牢に入れられた時は、動揺していたのだろうとまた思えた。
テオドールやダグラスを自分より優先的に選ぶのは、貴族の令嬢ならばより良い身分の伴侶を望むのは当たり前だろうと納得もできた。


罪人とはいえ、愛した人だ。牢をぬけだし、暴君から守り、せめて正当な裁きを一緒にと王都に連れてきた。


なのに、道中の彼女は一体誰だと思う程に下品で、我が儘で、自分本位だった。


困った事があれば身体で解決しようとし、少し目を離せば使える全てを使い思い通りにしようとした。


そんな彼女にギデオンの愛は冷めていた。



彼女に湯浴みをさせ、王都に着いたら残るだけのお金で彼女の服を買い、せめてデボラ伯爵令嬢の可憐なエミリーとして、皆の前に出て、罪を償わせてやりたかった。

だか、彼女はギデオンからも逃亡し自分を清め逃げ伸びる為に、簡単にその身を、その全てを大勢の前に投げ出した。


久々に見た彼女の可憐な顔は、亜麻色の髪は、たしかにエミリーであったが、かつての魅力はどこにもなかった。

そして、残る気持ちから一糸も纏わぬその姿を沢山の男性の前で恥ずかしげもなくさらけ出している彼女を嫉妬から憎しく思った。


「お前を愛していた俺が情けないよ。一緒に行こう、裁きを受けるべきだ。」

「ちょっと!引っ張んないでよ!!痛い、引き摺らないで、ちゃんと歩くわ!ふ服をよこしなさいよ、」

「見られるのが好きなのだろう、せめて綺麗なお前でと思っていたがっ!…もういい。王宮へ連れて行く。」


暴れるエミリーを街の皆が目撃していた。


皆が蔑むようにエミリーを見たし、ギデオンはエミリーへの憎しみと軽蔑で冷静では無かった。

そのまま、羞恥と怒りで顔を真っ赤にしたエミリーは半ば引きずられるようにして、王宮に連れて行かれたのだった。



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