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公爵令嬢は負けられない2
しおりを挟むテオドールとセシールは目を閉じて、ただ静かに深呼吸をしただけに見える。集中しているのか2人は目を閉じたまま、魔力に包まれて、その魔力はじわじわと膨らんでいく。
「殿下…」
セシールがそのままの姿で、テオドールを呼ぶと、テオドールの魔力はそのままテオドールの中に抑え込まれるように収まって、ドクン、と胸を一度跳ねさせただけだった。
セシールはテオドールを感じ取っているようだった。
セシールの黒々とした魔力が広がってまるでこのエラサの地に馴染むように見えなくなった。
ーーセルドーラ、エウリアス連合軍side
「聖なる泉までまもなく!!!!!
全軍、広場の南のノーフォードへと繋がる道を南下する!!!」
「真っ直ぐ街を抜ければ、門だ!!!」
オオォオオオオ!!!!!!!!!!!
雄叫びを上げ、広場まで一気に走り抜ける。
すると、急に前が詰まり、先頭の者たちがポツリポツリと引き返してきた。隊長である男が前へ馬を進めると、一本の大きな通りであることが災いしたのか、邸がある方向からケタ違いの強い魔力を感じ、弱い者達は足がすくみ動けないでいた。
恐怖を感じ、引き返す者が出始めていた。
だが、我が軍の後列は臆することなく広場へと足を進めていた。
一瞬であった、邸の方から来る魔力による威圧が近くなったように感じた時には、私たちは向こうからくる大きな光に飲み込まれ、魔力の弱い者たちは跡形もなく消滅し、爆風となったそれは我々の四肢を吹き飛ばした。。残る片手で身体を支え、目を細めて周りをみると誰のものか分からなくなった、頭や身体の一部だけが残っていた。
そんな私達を踏み台に次々と後続の兵達が広場へ進んだが、今度は目の前が真っ暗になり、泉を中心として円状の闇が広がったと思うとそれは多くの兵を簡単に飲み込み、中心の泉に吸い込まれるようにして消えていった。
そして、泉より無数の闇が噴き出し、黒々としたひどく殺意を含んだ手が彼らを締め上げて、潰した。
皆は気が触れたように膝をつき断末魔をあげ、恐怖で正気を失った者はやみくもに血の海となった広場を逃げ惑った。
引き返す兵達を、もう失いかけている意識で朦朧とみていると、遥か後方から、王太子の声が聞こえた。
「どれだけの兵を失っても前へ進め!後ろへ引き返す小心者はセルドーラにいらない。私が殺す!屍を越えてノーフォードへ進軍せよ!!!!」
纏わりつくような殿下の魔力を感じ、どちらにせよ、私はもう持たないな、とおいて来た家族を想って目を閉じた。
ーーノーフォード邸 side
アルマン達は小さく震えていた。初めて感じるテオドールとセシールの桁並外れた魔力とその威圧に、遠隔魔法により、映し出された広場での惨劇にだ。
目を開けて、悲しげに胸に手を当てた2人はまるで敵兵を追悼しているようにも見えた。
「まだまだ、向かってくるでしょう。」
「ああ、数では不利だがここは一本の通りからくる他の道は無い。」
「ですが、私達にも底があります。あまり大きな魔法は、数が分からない以上、そう何度も使えないでしょう。」
ふたりは屍を越える兵達にを悲しげに見ながら言った。
「お嬢様。兵が少し進めば我々も手が届くでしょう。」
リアムが、アンに付けた暗部、シェリルとミヌを除いた、マイロとカインを連れて前へ出た。
「では、階をひとつ降り、弓矢隊の者たちのサポートを受け、向かってくる兵を上から迎撃してください。」
「「「御意!!!」」」
ダンテは魔法はそんなに得意な方ではなく、遠距離での攻撃はあまりコントロールが効かないので、もどかしく思いながら、セシールの側に待機している。
まもなくして、リアム達の魔法による攻撃により、吹き飛ぶ男や、爆発音。敵兵の雄叫びが聞こえて、ほんとうに、もうすぐそこまで迫っていると言うことが分かった。
「一の門突破されました!!!!二の門の突破も時間の問題です!!か、数が多すぎますっ!!!」
通信具から焦ったような声が聞こえて、セシールはそっと立ち上がった。
「セシール!だめだ!まだ門は破られていない!せめて私も行く!!」
すると、セシールはそっとテオドールの頬に触れて言った。
「テオ、私と貴方は婚約者としては少し道を間違えたかもしれないけれど、テオを昔から信頼しているその気持ちは変わらないわ。
王太子としての貴方も尊敬してる。
見送るのは苦しいはずだけれど、今はあなたは王太子として、私はノーフォードとして、やるべき事をしましょう。」
「セシール…っだめだ…君を行かせられない…っ」
「テオ、この先がどうなっても貴方は生きて。そして、
後は頼みましたよ。」
戦地に相応しくない程の美しい笑みにみな息を呑んだ、いつも儚げなその姿だが、ノーフォードの家紋をマントに背負った彼女は確かな存在感でそこに存在していた。
「クレマン、アルマン、グレゴリー、フェリル、そしてトリスタン、シェリーは全力で殿下をお護りしてね、」
テオドールは自分の王太子という立場をこんなにも呪ったことはなかった。自分の為に、命を擲つ者がいるということ、そして大切な仲間を戦地に送り出さなければならない事、その立場の重さを実感していた。
「…クレマン」
テオドールは、クレマンにもしもときはセシールを連れて遠くに逃げるように耳打ちし、セシールに付いて行かせた。
「…御意。」
「ダンテ、エイダ、エミリー、クレマン、下でリアム達と合流し、二の門へ急いで向かいます。」
駆ける足音が遠くなって行った、テオドールは祈るように扉を見つめていた。
「僕のアメジスト、やっとここまで来たよ…さあ!全軍全力でノーフォード邸を占拠せよ!!!!!」
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