公爵令嬢は破棄したい!

abang

文字の大きさ
上 下
36 / 75

公爵令嬢は失いたくない

しおりを挟む

王都での、内部からのクーデター、何故かエラサだけを狙って軍を進めるセルドーラとエウリアス。

その場の全員が、違和感を感じたが一刻を争う。
目的が分からないとはいえ、戦う他に選択肢は無かった。




「皆、今は目の前の敵からこのエラサを守り、生き残ることだけを考えて欲しい。領民の避難は当初の手筈通りに。」



テオドールが、冷静に指示を出すと、後をセシールが続けた。



「ランスロット邸の地下と、このノーフォード邸の広間にて領民を避難させた後、アン、貴方にこのノーフォード邸を防御する為の結界魔法をお願いするわ。補助にわたくしの暗部から2人を付けます。ダグラス様もこのままノーフォード邸にて、領民をお守りして下さい。」



クロヴィスは、頷いてすぐに侍従のニルソンに、ランスロット邸で待機している騎士団に領民の避難を開始させた。


「テオ、セシール。狙いは必ずお前達のどちらか、もしくはどちらもだ。単独での行動を控え、俺達の誰かと絶対にはぐれないようにしよう!」


マチルダの足元が赤く光り、白髪に赤目の男女が姿を表した。

彼女の使用人の、ユミルとマルクスである。


「貴方達、一刻を争います。メーベルの魔塔にて、防衛の準備を、領民を見かけ次第、避難を促してね。後で向かうわ。」

 
「僕は身ひとつだけど、メーベル嬢の役に立つよきっと。」


リシュがマチルダの手首を掴みそう言った。



「…勝手にして頂戴、構っていられないわよ。」


そう言ったマチルダに愛おしそうに、覚悟を決めた顔で

「うん。ちゃんと守るよ。」と言った。



わずか数十分領民の避難は済み、一室に集められたのは彼らと、その側近達であった。


テオドールの横に立ったセシールが口を開いた。



「時は一刻を争うわ。一番防衛のしやすいノーフォード邸で殿下をお護りします。」


セシールの言葉に皆が、頷き、背筋を伸ばした。


「セシール!私は皆と一緒に行く。」



「ダメです。貴方は次代の王として、アルベーリアの為、必ず生きて帰らなければなりません。それに、テオの魔力なら邸内からでも戦力になるでしょう。」



クロヴィスはテオドールの肩に手を置き首を横に振った。


「テオ。お前はアルベーリアの次期国王だ。臣下の俺たちがお前をみすみす戦地へ差し出せない。」



納得のいかないテオドールにマチルダが続けた。


「私たちが、誰も帰ってこなかったら、その時はアルベーリアを頼むわよ、テオ!」



セシールはテオドールの部下達に言付けた。



「邸の最上階中央。当主の部屋より殿下を外に出してはいけません。アルマン、フェラン、グレゴリー頼みましたよ。」


すると、マチルダがセシールを抱きしめて言った。


「セシール。貴方もよ。ここにいて。」


クロヴィスとマチルダの真剣な眼差しに負けたようにセシールは言葉を詰まらせた、



「…っ第二の門が破られれば出陣します。これが最大の譲歩です。」


すると席を外していたダンテかもどってきた。


「やはり他の都市には目もくれず、エラサに向かって急接近中です、2日もあれば全軍到着するかと思われます。」


通過しているのは、貴族派の者たちの領地や、兵力の少ない田舎ばかりであったが貴族達が静観しているところを見ると、その不自然な進軍は、貴族派が今回セルドーラに加担していることを思わせた。


「ありがとう、ダンテ。」


「近隣の都市へは、敵と味方の見極めが難しいので援軍は求めません。我々だけで防衛します。……皆、必ず生きて。」



バルコニーから庭や、邸内に集まる兵達にテオドールが叫ぶ。


「これより指揮は私とセシールが取る!数の利は向こうにある!深追いせず、なるべく邸から軍を討つ!全員で生きて帰ろう!!
皆の健闘を祈る!!!」



おおおおおおおおおお!!!!

兵士たちの雄叫びがエラサに響く。



テオドールを横目でみて、セシールは部屋の中へ入る。


「クロ、マチルダは各邸宅にて、邸の防衛と殲滅、タイミングを見て南下し、ノーフォード邸へ。」


クロヴィスは人目や立場を気にすることなく強くセシールを抱きしめて、セシールに告げた。

「必ず生きて戻る。どんな形であろうと俺の帰る所はここセシールだと決めている。」

セシールはテオドールの言葉の本当の意味を分かっては居なかったが、クロヴィスの温もりに、その言葉に、もう会えなくなるのではないかと不安を感じて、クロヴィスにしがみついた。


「ほんとうに、生きて帰って。クロ、お願いよ。」



すると、マチルダがやれやれと言ったようにクロヴィスごと、反対側からセシールを抱きしめた。



「大丈夫。すぐに終わらせよう。こっちは全員揃っているわ。」


セシールが顔を上げると、立場は違えど、幼馴染である大切な彼らと、新しい仲間達ファミリーが勇ましい笑みでこちらを見ていた。



そして、バルコニーから戻ったテオドールも人目を気にすること無く、セシールに深く頭を下げた。



「セシール。本当に申し訳無かった。

貴方から拒絶の言葉を聞くのが怖くて、
セシールなら理解してくれていると問題から逃げ、
貴方を愛してると言いながら、貴方を傷つけていた。


もう、貴方の愛は、信頼は、無いかもしれない…
一瞬の欲に眩まされ、セシールを蔑ろにした事を心から後悔している。

初めから、私は貴方しか愛していなかったのに…。」




目を伏せて、切なげにテオドールの言葉を聞くセシールに、テオドールは悲しそうに言った。


「一度だけ、あなたに触れてもいいかな?

貴方がこの先誰かを愛したら、そのときは…私は貴方の幸せを願おう。その心を手放したのは私だから…

それまでは、、君の心の中にほんの少しでも、私をおいてくれるなら、私にもう一度だけチャンスを貰えないだろうか。

そして、この戦地でせめて今だけでも王太子妃として、民をこのアルベーリアを共に守ってくれないだろうか。」


「…」コクリ


戸惑いながら、静かに頷いたセシールを柔らかく抱きしめて、すぐに離した。


次の瞬間には、テオドールのその目にはもう迷いはなく、アルベーリアを守る為に戦いを率いる者の強い瞳であった。



「不細工な所をみせて申し訳ない。もう道を外れたりしない。皆、私について来てはくれないかな?」


くるりと皆と目線を合わせて、頭をさげたテオドールに笑顔で頷いて、其々テオドールの肩に手を添えて部屋の出口へ歩き出した。

「…!!」「テオ、行こう。」

クロヴィスがテオドールに言うと皆振り返って、笑った。


(いまから始まる、きっと乗り越えよう。)

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。

櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。 ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。 気付けば豪華な広間。 着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。 どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。 え?この状況って、シュール過ぎない? 戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。 現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。 そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!? 実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。 完結しました。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...