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公爵令嬢は失いたくない
しおりを挟む王都での、内部からのクーデター、何故かエラサだけを狙って軍を進めるセルドーラとエウリアス。
その場の全員が、違和感を感じたが一刻を争う。
目的が分からないとはいえ、戦う他に選択肢は無かった。
「皆、今は目の前の敵からこのエラサを守り、生き残ることだけを考えて欲しい。領民の避難は当初の手筈通りに。」
テオドールが、冷静に指示を出すと、後をセシールが続けた。
「ランスロット邸の地下と、このノーフォード邸の広間にて領民を避難させた後、アン、貴方にこのノーフォード邸を防御する為の結界魔法をお願いするわ。補助に私の暗部から2人を付けます。ダグラス様もこのままノーフォード邸にて、領民をお守りして下さい。」
クロヴィスは、頷いてすぐに侍従のニルソンに、ランスロット邸で待機している騎士団に領民の避難を開始させた。
「テオ、セシール。狙いは必ずお前達のどちらか、もしくはどちらもだ。単独での行動を控え、俺達の誰かと絶対にはぐれないようにしよう!」
マチルダの足元が赤く光り、白髪に赤目の男女が姿を表した。
彼女の使用人の、ユミルとマルクスである。
「貴方達、一刻を争います。メーベルの魔塔にて、防衛の準備を、領民を見かけ次第、避難を促してね。後で向かうわ。」
「僕は身ひとつだけど、メーベル嬢の役に立つよきっと。」
リシュがマチルダの手首を掴みそう言った。
「…勝手にして頂戴、構っていられないわよ。」
そう言ったマチルダに愛おしそうに、覚悟を決めた顔で
「うん。ちゃんと守るよ。」と言った。
わずか数十分領民の避難は済み、一室に集められたのは彼らと、その側近達であった。
テオドールの横に立ったセシールが口を開いた。
「時は一刻を争うわ。一番防衛のしやすいノーフォード邸で殿下をお護りします。」
セシールの言葉に皆が、頷き、背筋を伸ばした。
「セシール!私は皆と一緒に行く。」
「ダメです。貴方は次代の王として、アルベーリアの為、必ず生きて帰らなければなりません。それに、テオの魔力なら邸内からでも戦力になるでしょう。」
クロヴィスはテオドールの肩に手を置き首を横に振った。
「テオ。お前はアルベーリアの次期国王だ。臣下の俺たちがお前をみすみす戦地へ差し出せない。」
納得のいかないテオドールにマチルダが続けた。
「私たちが、誰も帰ってこなかったら、その時はアルベーリアを頼むわよ、テオ!」
セシールはテオドールの部下達に言付けた。
「邸の最上階中央。当主の部屋より殿下を外に出してはいけません。アルマン、フェラン、グレゴリー頼みましたよ。」
すると、マチルダがセシールを抱きしめて言った。
「セシール。貴方もよ。ここにいて。」
クロヴィスとマチルダの真剣な眼差しに負けたようにセシールは言葉を詰まらせた、
「…っ第二の門が破られれば出陣します。これが最大の譲歩です。」
すると席を外していたダンテかもどってきた。
「やはり他の都市には目もくれず、エラサに向かって急接近中です、2日もあれば全軍到着するかと思われます。」
通過しているのは、貴族派の者たちの領地や、兵力の少ない田舎ばかりであったが貴族達が静観しているところを見ると、その不自然な進軍は、貴族派が今回セルドーラに加担していることを思わせた。
「ありがとう、ダンテ。」
「近隣の都市へは、敵と味方の見極めが難しいので援軍は求めません。我々だけで防衛します。……皆、必ず生きて。」
バルコニーから庭や、邸内に集まる兵達にテオドールが叫ぶ。
「これより指揮は私とセシールが取る!数の利は向こうにある!深追いせず、なるべく邸から軍を討つ!全員で生きて帰ろう!!
皆の健闘を祈る!!!」
おおおおおおおおおお!!!!
兵士たちの雄叫びがエラサに響く。
テオドールを横目でみて、セシールは部屋の中へ入る。
「クロ、マチルダは各邸宅にて、邸の防衛と殲滅、タイミングを見て南下し、ノーフォード邸へ。」
クロヴィスは人目や立場を気にすることなく強くセシールを抱きしめて、セシールに告げた。
「必ず生きて戻る。どんな形であろうと俺の帰る所はここだと決めている。」
セシールはテオドールの言葉の本当の意味を分かっては居なかったが、クロヴィスの温もりに、その言葉に、もう会えなくなるのではないかと不安を感じて、クロヴィスにしがみついた。
「ほんとうに、生きて帰って。クロ、お願いよ。」
すると、マチルダがやれやれと言ったようにクロヴィスごと、反対側からセシールを抱きしめた。
「大丈夫。すぐに終わらせよう。こっちは全員揃っているわ。」
セシールが顔を上げると、立場は違えど、幼馴染である大切な彼らと、新しい仲間達が勇ましい笑みでこちらを見ていた。
そして、バルコニーから戻ったテオドールも人目を気にすること無く、セシールに深く頭を下げた。
「セシール。本当に申し訳無かった。
貴方から拒絶の言葉を聞くのが怖くて、
セシールなら理解してくれていると問題から逃げ、
貴方を愛してると言いながら、貴方を傷つけていた。
もう、貴方の愛は、信頼は、無いかもしれない…
一瞬の欲に眩まされ、セシールを蔑ろにした事を心から後悔している。
初めから、私は貴方しか愛していなかったのに…。」
目を伏せて、切なげにテオドールの言葉を聞くセシールに、テオドールは悲しそうに言った。
「一度だけ、あなたに触れてもいいかな?
貴方がこの先誰かを愛したら、そのときは…私は貴方の幸せを願おう。その心を手放したのは私だから…
それまでは、、君の心の中にほんの少しでも、私をおいてくれるなら、私にもう一度だけチャンスを貰えないだろうか。
そして、この戦地でせめて今だけでも王太子妃として、民をこのアルベーリアを共に守ってくれないだろうか。」
「…」コクリ
戸惑いながら、静かに頷いたセシールを柔らかく抱きしめて、すぐに離した。
次の瞬間には、テオドールのその目にはもう迷いはなく、アルベーリアを守る為に戦いを率いる者の強い瞳であった。
「不細工な所をみせて申し訳ない。もう道を外れたりしない。皆、私について来てはくれないかな?」
くるりと皆と目線を合わせて、頭をさげたテオドールに笑顔で頷いて、其々テオドールの肩に手を添えて部屋の出口へ歩き出した。
「…!!」「テオ、行こう。」
クロヴィスがテオドールに言うと皆振り返って、笑った。
(いまから始まる、きっと乗り越えよう。)
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