公爵令嬢は破棄したい!

abang

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辺境伯子息は落ち着かない

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「クロヴィス様、字が…」

ミミズのようになった文字を、無表情で見てクシャリと丸めてゴミ箱に捨てた。

クロヴィスの侍従であり、側近のニルソンは片眉をあげて、やれやれと言った表情でクロヴィスに言った。



「そんなに気にされるのなら、ご連絡を差し上げてはいかがですか?」


「…気にしていない。仕事を続ける。」


クロヴィスはテオドールとセシールがひとつ屋根の下で生活して居ると思うと、落ち着かなくなってしまっていた。


するとランスロット家の家紋のついた通信具が青く光り、ボタンを押すと、赤い光で立体的にできた実物より少し小さなマチルダがニッコリと笑って居た。


「ご機嫌よう。クロヴィス様。」



「なんだ、お前だったか。何か用が?」


セシールじゃなくて悪かったわね、とニヤリとしたマチルダに明らかに不機嫌そうな顔でクロヴィスは「煩い」と言っただけであった。


「お母様から手紙がきたのだけど…エラサに向かった者がいるそうよ。お父様から、気をつけろと。」


「誰か分かって居るのか?」


「いいえ、お母様もお父様も魔法の研究ばかりで、貴族子女の顔なんてわからないと書いてあったわ。」


「と、言うことは学園の者だな…」


「そうね、問題ないかもと思ったのだけど、一応。」


「ああ、感謝するよ。テオとセシールには?」



「もう言ったわ、あっちでも対策を練ると。」


「そうか….」

「クロヴィス様…「昔のままでいい。」


「…クロヴィス。あなたセシールが気になるのね?」

「そんなことは…

「後で、頼まれていた魔法研究の資料をセシールに届けないといけないのだけど、貴方頼まれてくれない?まだ手が離せなくって。」


マチルダは「あー忙しいわ。」と言って肩をさすっている。


休暇中、俺たちが領地で行う公務はさほど多くないはずなのに、わざとらしく、急に忙しくし始めた友人に、クロヴィスは


ふっと笑って礼を言った。


「すまないな、マチルダ。ではすぐにニルソンが其方へ取りに伺う。こっちもはもうすぐ済むので、ニルソンが戻り次第届けにいこう。」



ニルソンは思ったよりも早く戻り、公務を終えていたクロヴィスに、「今日はもう、取り急ぎの仕事はございませんので。」といつも通りの調子でマチルダからの封筒を手渡した。



ーーノーフォード邸


「セシール、バルコニーでお茶でもどうかな?」


「テオ、もうすぐ終わります。直ぐに行くわ、」


2人もまた、公務を終えてお茶をするところであった。
テオドールが、嬉しそうに頬を緩ませて、廊下を歩いていると、


王宮から連れてきた暗部の1人が急に現れ、テオドールの前に膝をつき、頭を下げた。

「殿下。エラサに王都より馬車が参りました。ノーフォード、ランスロット、メーベルとどの家門の邸宅にも向かっておりませんが、馬車の家紋から、ネピリア家のものかと…。」

王都で何かあったのか?エラサに何かが起きるのか?

思考を巡らせるが、考えつくものは良くないものばかりで、聞いてみないことには分からんと、ダグラスの滞在先へ、手紙を送った。

すると、リアムがセシールを呼び止めるのが見えた。

「お嬢様。お客様がいらしております。」



「あら、どなたかしら?」


「ランスロット様です。大人しくお待ち頂いております。」


「クロヴィス?どうしたのかしら…」

「セシール。私も一緒に行っても?クロをバルコニーへ案内してくれる?」

「ええ、きっと大丈夫なはずよ。リアム、お願い。」


「畏まりました。」

「リアム、ありがとう。行ってくるわ。」


バルコニーに出ると濃紺にも見える青みがかった黒髪と金色の瞳を陽の光にキラキラと照らされながら、外を眺めているクロヴィスが居た。

「クロ、ようこそ。」

「ご機嫌よう。」

2人が部屋に入り声をかけると、クロヴィスは封筒を取り出して、「マチルダから預かった」と言ってセシールに手渡した。

「ありがとう、クロ。マチルダは忙しかったのね…。」

微笑んでお礼を言ったセシールに優しい笑みで頷いた。



「エラサに誰かが向かったようだが。」


「ネピリア家の馬車だとさっき分かった。」


「え?…ダグラス様ですか??」

「とりあえず、明日に会えるかと手紙をやったよ。」


バルコニーで話をしながらお茶していると、
白い伝書鳩が戻ってきた。


テオドールが中身を開けると、数名という少人数で来たこと、近くのホテルに滞在していること、明日会えるということが書いてあった。

わたくしも行きましょう。」

「では、俺も行こう。」

「明日の13時にシュミエンでと書いてある。」

シュミエンとはエラサでも有名なスイーツを得意とするレストランである。セシールは昔からそこのマカロンが好きで、様々な価格帯の商品があり、平民にも貴族にも愛されている店だった。

「まあ、シュミエンね!」

「確かあなたはあそこが好きだったね」

優しく頬を撫で、目を細めて言うテオドールに、ほんのりと赤くなった頬を隠すように扇を開いた。

クロヴィスはそんな2人を見で少し心がチクリとしたがら、安心もした。

(少しは距離が縮まったようだな…頼むから、隙を見せてくれるなよテオ)

「クロ?聞いている?」

「、?なんだって?」


「マチルダも呼んで、緊急事態に備えて領民の方達にもしもの避難ルートを教えておきたいのだけど、」


「クロの邸宅の敷地内から、地下に降りエラサの地下に大きく広がるシェルターは100部屋と、大広間。大勢を抱えてもらうことになるが構わないかな?」


「ああ、残りはどうする?」


わたくしの邸へ避難致します。アンの防御魔法はこの国でもトップレベルと言ってもいいでしょう。」

そして、3人はダグラスに会った後、マチルダを交えて緊急事の、防衛の為の作戦を練るため、市井を廻ろうと言う話になった。

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