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公爵令嬢は行きたくない
しおりを挟む学園の最後の授業が終わり、就業の式を終え帰ると、
公爵家へ真っ直ぐ帰るとお父様とお母様は仲睦まじくソファで寄り添っていた。
「おかえり、セシール。」
「おかえなさい、セシールちゃんら。」
2人が優しく微笑む。
「いよいよ明日ね。長い休暇になるわ、気をつけていってらっしゃいね。」
「寂しくなるが、時は過ぎる。楽しんでおいで。」
セルドーラの件は不安因子であるが…
特別な挨拶は誰もしなかった。
例えば、そのもしもの事態になろうと、
使用人も含め、我が家はノーフォード公爵家である。
誰も欠けやしないと全員が信じているからだ。
ただ、セシールはあまり乗り気では無かった。
使用人達と一緒とはいえ、殿下と2人で別荘で休暇を過ごすなんて、不安で仕方なかった。
夏季休暇は長く、ひと月ほどあるのだから…。
エミリー嬢との一件以来、少し殿下を信頼しきれないでいる。
彼を愛する気持ちが消えたわけではないが、
エミリー嬢とテオドールのあの姿が頭から離れない。
事情があるのだろうと冷静に考える反面、
穢らわしいとも思ってしまう。
見知らぬ男子生徒からの嫌がらせや、婚約者を盗られてと哀れみの目線、ありもしない噂話。どれも婚約者である殿下が知ることはなく。
弱者を助けるのに、婚約者は気にもかけないのね、と
殿下に期待をすることもなくなった。
最近の殿下はエミリー嬢と距離を取っているようにもみえるが、常に近くに彼女が居るのは、そばに居ることを許しているということだろう。
「わたくし、自信がありません…。」
「あぁ…テオドール殿下の噂は聞いているよ。」
「あの小娘だな。私には好いてるようには見えんが…殿下ときちんと話してきなさい。」
「セシールちゃん、旦那様も私も貴方の味方よ。テオドール殿下であっても貴方を傷つける事は許さないわ。」
すると、お父様が咳払いをして言った。
「まぁ、無理に結婚しなくてもいい。ウチの次期当主なのだし、愛する娘だ、ずっとここに居ていい。」
「お父様、、お母様…」
そうね、ずっと婚約者だったのだもの…
結局、自分の中でも答えはすぐに出ないし、今はどっちにしろ、エラサへ行かなければならないのだし、
まして私達は王家の立場をより強くする為の政略的な婚約であるので、惚れた腫れただけの関係では無いのだから。
とりあえず行かないという選択肢は無さそうね…
(諦めも肝心という事かしら…)
ーーテオドールside
王宮に帰り父上と母上に挨拶をしたら、すぐに自室へ行き明日の準備について執事に確認した。
「いよいよ明日だが、準備は万全かな。」
「はい。仰せの通りに整っております。」
父上から国にとって深刻な状況になるかもしれないと聞いている、ただの休暇はではないと分かっているし、私もそれなりの準備をしている。
が…やはりセシールと邪魔が入らない所で過ごせるのは嬉しいのだ。
彼女を愛している。
それなのに、エミリー嬢を強く拒絶することが出来ず、セシールを傷つけてしまっていた。
セシールをこれ以上傷つけてしまわないよう、
セシールだけを愛してると証明できるように、
私はエミリー嬢と適切な距離を取るべきだと誓ったが、エミリー嬢からは叔父上の魔力を感じる気がした。
なんとなく嫌な予感がして、付かず離れずの距離感で彼女と完璧に縁を切らずに付き合っていた。
嫌がらせをされているのは事実だったが、ダグとギデオンの婚約者達の仕業であってセシールの関与は無かったし、エミリー嬢の証言とはかなり食い違っていた。
勘違いではなく、エミリー嬢はセシールと私を事あるごとに邪魔しているようにも感じた。
彼女が、どうしてそんな事をするのから分からないし、セシールともあまり過ごせないまま休暇を迎えてしまった。
学園内で、ダンテやクロヴィスと楽しそうに笑うセシールに、何度も嫉妬した。
マチルダ嬢に向けられる笑顔にだって嫉妬するほど私はセシールが足りていなかった。
「テオが凄くなくたってすきよ。」
「テオを悪くいうことはわたくしが許しません。」
王太子の重圧に押し潰されそうな時、同じく厳しい王太子妃教育を受けているはずの、セシールはいつだって私を支えてくれていた。
セシールの言葉がいつだって新鮮なまま浮かんでくる。
彼女が居たから今の私が居るというのに私は…
貴方は私の婚約者だけど、私のものではない。
遠くなってしまった貴方の心をまだ捕まえておけるのだろうか。君に愛されることができるのだろうか。
社交会のたびにセシールにつく虫を排除した。
貴方が他の男に微笑むだけで不安だった。
いつだって貴方を愛しているのに、
私は大きな間違いを犯してしまった。
どうしてだか、不思議な感覚だった。エミリー嬢を守るべき女性だと思っていた。
守るべき弱者を立場上放っておけないなんて、本心でもあったが半分は初めて感じる女性の色香に惑わされた言い訳でもあった。
そんなこと、本当は君を傷つける理由にならないのに。
今度の休暇は最後のチャンスかもしれない。もう、手を離してしまうと二度と戻ってこないような、諦めたような目を見てそう感じていた。
私にその資格はないのかもしれないけれど、
それでもやっぱり私は貴方が欲しいよセシール。
(もう、悲しませない。お願いだから離れて行かないで。)
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