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デボラ伯爵は子煩悩
しおりを挟むデボラ伯爵邸は王都の中心部であり、貴族達が最も多い場所とされている。
2人の娘と、元々は平民であったが美しく、一回りも若い妻がいて、どちらもとても大切にしている。
大切にするあまり、末の娘は特に甘やかしてしまったと思う。何でも叶えてやったし、与えた。
姉のレミーは商才に長けており、我が儘を言うこともなく我が家の後継として立派に育ってくれた。
なので、妹のエミリーはただ良いところへ嫁ぎ、愛されて幸せになってくれれば良かった。
学園へ入ってからは、高位貴族の子息たちと懇意にしているようで、このままいけばエミリーはきっと幸せになるであろうと確信してる。
だけど、王太子殿下との噂を耳にした時は驚愕した。
殿下の婚約者はノーフォード公爵令嬢で、貴族派ではない私は王宮で幾度となく幼いお二人の仲睦まじいお姿を見てきたのだ。
ノーフォード家を敵に回すなんて考えたこともないし、考えたくもない。不安を感じ、娘を執務室に呼んだ。
「エミリー、王太子殿下との噂のことだが」
「お父様、お噂の通りですわ!お母様はかつてお二人の身分を超えた大恋愛をよく聞かせてくれましたわ!私も…テオ様が好きなのです。」
段々と、弱々しくなっていく語尾であったが、
はっきりと聞こえてしまった テオ様が好きだと、
「ならん、殿下とセシール様のご婚約に横槍を入れるのは何人たりとも許されておらん。エミリー、お前は美人だし、いくらでも良い子息からの縁談が舞い込むだろう。」
「お父様には迷惑をかけません、叶わなくとも私はテオ様を想い続けるもの!!」
等々大きな声で泣き出してしまった愛娘に心を痛むがこれも娘の為だと最後にダメ押しと、釘を刺しておく。
「想うのか構わんが、余計な事をしてはならん。国王陛下もだが、特に王妃様はセシール様を実の娘のように可愛がっておられる。」
(何よ。私だって気に入られるわよ!あんな堅物なんかより!)
「分かったわ…お父様。でしたら!お仕事の時一度、王宮へ連れてって下さい。できればテオ様や、王妃さまとお会いしたいけれど…、それが無理でも自分の目でちゃんと見れば、世界が違うのだと諦めます。」
「いちどだけ、一度だけです。」
(そんな訳ないじゃない。周りから固めてやるわ)
仕方がないと、言うと娘は淑女らしくはない喜び方で、飛び跳ね、喜んだ。
後日エミリーを共に連れて行ったデボラ伯爵だったが、エミリーのお願いは思ったより早く、意外な形で叶ったのだ。
王宮の侍従がデボラ伯爵に声をかけた。
「デボラ伯爵閣下、王妃様よりお言伝が御座います。」
品のある装飾を施した銀のトレーに乗せて差し出された封筒には、王妃陛下の封蝋が施してあり、デボラ伯爵は顔には出さずに受け取りはしたが、中身を読んで悩んだ。
(デボラ伯爵、職務中であることは承知しているが、そちらの令嬢が同行していることを王宮の者から聞いています。大変美人な令嬢だと聞いております。職務の間、私の話し相手になって貰えないかしら?部屋を用意させているので、案内は手紙を渡した者に任せます。)
悪ければ殿下の件での牽制か、
言葉どおりなら、目をかけて下さったのか…
どちらにせよ断ることはできずエミリーに告げると、目を輝かせ、歓喜していた。
「お父様、行って参りますっ!」
侍従に案内され、王妃様の元へ軽い足取りで行く娘を心配に思ったが、仕事の為、私も急いで目的の場所へ行った。
ーー王妃side
「入っていいわ。」
部屋に入ってきた娘は確かに可愛い雰囲気をした美少女であった。
「王妃様、参りました。エミリーでございます。」
カーテシーをするエミリーはなんとも中途半端なマナーであり、いかにも頭の悪そうな子であった。
「よい、直れ。」
顔を上げたエミリーはキラキラと期待の眼差しで私を見ていた。
「我が息子、王太子とは仲が良いそうね。」
「はい!テオ様はとてもお優しく、学園に馴染めない私を嫌がらせから守って下さり、…良くして下さります。」
と、頬を染め白々しく紛らわしい言い回しをする。
「では、私が愛するセシールとも仲が良いのかしら?」
あえてセシールの存在を強調し、聞くとエミリーは顔を引き攣らすのを隠しきれない様子で、ぎこちのない笑顔で「はい、いつも良くして下さいます」と答える。
「良くない噂を耳にするわ。」
すると、一瞬固まったと想うとニヤける口元を隠そうともせずに今だ!というように話しだした。
「じ、実はセシール様は私には少し怖くて…」
「と、いうと?」
「殿下に良くして頂いていることが、面白くないので…いえ、…私が悪いのです。」
「そう。」「あのっ、王妃さま…」
「なんでしょう?」
「これは私のあくまで噂なのですが、数人の生徒はセシール様に私への嫌がらせをそそのかされたと言っていて…もちろん!私はそのような事はないと思うのですが…」
俯いたエミリーの口元が笑うのが見えて、背筋がゾッと寒くなった。
「そうね、きっとただの噂でしょう。私はセシールを幼いころから、そして今も良く知っています。」
「王妃さまの思った通りとは限らないのでは?」
「私がセシールより噂を信じる理由がどこにあるのかしら?あの子を陥れているように聞こえるのだけれど?」
私が威圧的にエミリーに言うと、慌てたように態度を変えた。
「いいえ!そんなことはありませんっお二人にはとても良くしてもらっているのでっ、あの…それで…」
「いいわ、言葉の文というものでしょう。
ただ、テオドールとセシールの間には見えない強い絆があるの、貴方が傷ついてしまうのではないかと思って。
昨日もテオドールはセシールは今日も来ないのかと、必死に問うものだから笑ってしまったわ。」
「そ、そんな。傷つくなんて、テオ様とは友人なので、」
(そんなはずないわ!この女、私に意地悪しているのね!!)
歯切れ悪くいうエミリーを見てまだ子供なのに悪いことをしたと思う反面、これがセシールならもっと気の利いたことを言うのでは?とため息をついた。
「それなら良いのだけど、それと…殿下よ。
テオドールは王太子です。敬称を忘れているわね、貴方も伯爵家の人間なら貴族として正しいマナーを学ぶことです。デボラ伯爵にも進言しておくわ。もう、帰っていいわ。」
(クソッ、なんでこんな目に私が合わなきゃならないの?みていなさい。私が王妃になったらここを追い出してやるわ!)
「はい…失礼いたしました。」
ーー????side
部屋たエミリーは怒りに震えていたが、それを少し離れたところから見ているものがいた。
(あれは…確か、)
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