公爵令嬢は破棄したい!

abang

文字の大きさ
上 下
17 / 75

デボラ伯爵は子煩悩

しおりを挟む

デボラ伯爵邸は王都の中心部であり、貴族達が最も多い場所とされている。

2人の娘と、元々は平民であったが美しく、一回りも若い妻がいて、どちらもとても大切にしている。

大切にするあまり、末の娘は特に甘やかしてしまったと思う。何でも叶えてやったし、与えた。

姉のレミーは商才に長けており、我が儘を言うこともなく我が家の後継として立派に育ってくれた。

なので、妹のエミリーはただ良いところへ嫁ぎ、愛されて幸せになってくれれば良かった。

学園へ入ってからは、高位貴族の子息たちと懇意にしているようで、このままいけばエミリーはきっと幸せになるであろうと確信してる。



だけど、王太子殿下との噂を耳にした時は驚愕した。
殿下の婚約者はノーフォード公爵令嬢で、貴族派ではない私は王宮で幾度となく幼いお二人の仲睦まじいお姿を見てきたのだ。

ノーフォード家を敵に回すなんて考えたこともないし、考えたくもない。不安を感じ、娘を執務室に呼んだ。



「エミリー、王太子殿下との噂のことだが」



「お父様、お噂の通りですわ!お母様はかつてお二人の身分を超えた大恋愛をよく聞かせてくれましたわ!私も…テオ様が好きなのです。」



段々と、弱々しくなっていく語尾であったが、
はっきりと聞こえてしまった だと、



「ならん、殿下とセシール様のご婚約に横槍を入れるのは何人たりとも許されておらん。エミリー、お前は美人だし、いくらでも良い子息からの縁談が舞い込むだろう。」


「お父様には迷惑をかけません、叶わなくとも私はテオ様を想い続けるもの!!」


等々大きな声で泣き出してしまった愛娘に心を痛むがこれも娘の為だと最後にダメ押しと、釘を刺しておく。


「想うのか構わんが、余計な事をしてはならん。国王陛下もだが、特に王妃様はセシール様を実の娘のように可愛がっておられる。」


(何よ。私だって気に入られるわよ!あんな堅物なんかより!)

「分かったわ…お父様。でしたら!お仕事の時一度、王宮へ連れてって下さい。できればテオ様や、王妃さまとお会いしたいけれど…、それが無理でも自分の目でちゃんと見れば、世界が違うのだと諦めます。」

「いちどだけ、一度だけです。」
(そんな訳ないじゃない。周りから固めてやるわ)


仕方がないと、言うと娘は淑女らしくはない喜び方で、飛び跳ね、喜んだ。



後日エミリーを共に連れて行ったデボラ伯爵だったが、エミリーのお願いは思ったより早く、意外な形で叶ったのだ。


王宮の侍従がデボラ伯爵に声をかけた。
「デボラ伯爵閣下、王妃様よりお言伝おことづてが御座います。」

品のある装飾を施した銀のトレーに乗せて差し出された封筒には、王妃陛下の封蝋が施してあり、デボラ伯爵は顔には出さずに受け取りはしたが、中身を読んで悩んだ。

(デボラ伯爵、職務中であることは承知しているが、そちらの令嬢が同行していることを王宮の者から聞いています。大変美人な令嬢だと聞いております。職務の間、私の話し相手になって貰えないかしら?部屋を用意させているので、案内は手紙を渡した者に任せます。)


悪ければ殿下の件での牽制か、

言葉どおりなら、目をかけて下さったのか…

どちらにせよ断ることはできずエミリーに告げると、目を輝かせ、歓喜していた。

「お父様、行って参りますっ!」

侍従に案内され、王妃様の元へ軽い足取りで行く娘を心配に思ったが、仕事の為、私も急いで目的の場所へ行った。


ーー王妃side

「入っていいわ。」

部屋に入ってきた娘は確かに可愛い雰囲気をした美少女であった。

「王妃様、参りました。エミリーでございます。」

カーテシーをするエミリーはなんとも中途半端なマナーであり、いかにも頭の悪そうな子であった。

「よい、直れ。」

顔を上げたエミリーはキラキラと期待の眼差しで私を見ていた。


「我が息子、王太子とは仲が良いそうね。」



「はい!テオ様はとてもお優しく、学園に馴染めない私を嫌がらせから守って下さり、…良くして下さります。」


と、頬を染め白々しく紛らわしい言い回しをする。


「では、私が愛するセシールとも仲が良いのかしら?」

あえてセシールの存在を強調し、聞くとエミリーは顔を引き攣らすのを隠しきれない様子で、ぎこちのない笑顔で「はい、いつも良くして下さいます」と答える。

「良くない噂を耳にするわ。」

すると、一瞬固まったと想うとニヤける口元を隠そうともせずに今だ!というように話しだした。

「じ、実はセシール様は私には少し怖くて…」

「と、いうと?」

「殿下に良くして頂いていることが、面白くないので…いえ、…私が悪いのです。」

「そう。」「あのっ、王妃さま…」

「なんでしょう?」

「これは私のあくまで噂なのですが、数人の生徒はセシール様に私への嫌がらせをそそのかされたと言っていて…もちろん!私はそのような事はないと思うのですが…」

俯いたエミリーの口元が笑うのが見えて、背筋がゾッと寒くなった。

「そうね、きっとただの噂でしょう。私はセシールを幼いころから、そして今も良く知っています。」

「王妃さまの思った通りとは限らないのでは?」

「私がセシールより噂を信じる理由がどこにあるのかしら?あの子を陥れているように聞こえるのだけれど?」

私が威圧的にエミリーに言うと、慌てたように態度を変えた。

「いいえ!そんなことはありませんっお二人にはとても良くしてもらっているのでっ、あの…それで…」

「いいわ、言葉の文というものでしょう。

ただ、テオドールとセシールの間には見えない強い絆があるの、貴方が傷ついてしまうのではないかと思って。

昨日もテオドールはセシールは今日も来ないのかと、必死に問うものだから笑ってしまったわ。」


「そ、そんな。傷つくなんて、テオ様とは友人なので、」
(そんなはずないわ!この女、私に意地悪しているのね!!)

歯切れ悪くいうエミリーを見てまだ子供なのに悪いことをしたと思う反面、これがセシールならもっと気の利いたことを言うのでは?とため息をついた。

「それなら良いのだけど、それと…殿下よ。

テオドールは王太子です。敬称を忘れているわね、貴方も伯爵家の人間なら貴族として正しいマナーを学ぶことです。デボラ伯爵にも進言しておくわ。もう、帰っていいわ。」

(クソッ、なんでこんな目に私が合わなきゃならないの?みていなさい。私が王妃になったらここを追い出してやるわ!)

「はい…失礼いたしました。」


ーー????side


部屋たエミリーは怒りに震えていたが、それを少し離れたところから見ているものがいた。

(あれは…確か、)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。 レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。 【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

処理中です...