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王太子は解消しない
しおりを挟むテオドールが帰ったと王宮の執事より報告を受け、テオドールのいる部屋へ案内された。
案内されると言っても幼い頃から王妃教育の為な登城しており、テオドールとよく遊んだ思い出の場所でもある為知り尽くしていた。
「セシール!どうやら待たせてしまったようだね…」
セシールの姿が見えるなり、部屋の前で待ち構えていたてテオドールが嬉しそうに笑った。
さあ、入って!と自らドアを開けてエスコートするテオドールに、セシールは戸惑っていた。
(あれほど、目も合わせず、会いに来ず無視していたというのに殿下はいったいどうしたのかしら)
「ありがとうございます、殿下。」
「…うーん。」
「何か気になることが?」
「殿下」
「??殿下がどうされたのですか?」
「いつからだっけ?そう呼ぶのは。」
「もう、覚えておりませんが、立太子された時あたりではないでしょうか?」
セシールは将来国王となるテオドールに恥をかかせてはならないと、王太子妃として完璧な淑女の振る舞いをしていたのだ。それを今更になってなにを…と思うと
「テオ、でいい、敬称もいらない。そう呼んでくれ。」
「殿下、それは出来ません。わたくし達は常に見られ、評価されております。」
「2人の時だけでいい。前のようにテオと…。」
こちらを伺うような、甘える子供のようなテオドールを少し可愛いと思ってしまったセシールは負けたというように、ため息をついて、了承した。
「では、人目のないときは、」
嬉しそうに笑ったテオドールに期待してはいけないと理解しているが、やはり愛しているのだと感じた。
だか、テオドールはエミリー嬢に恋をしているのだ。
「テオ、」
少し照れながらセシールは久しぶりに彼の名前を呼ぶ。
頬を赤くし、幸せそうに笑顔で返事をするテオドールを見ているとセシールを愛しているのではないかと、思いそうになり、心がチクリとした。
「セシール、どうしたの?」
「テオ、国にとってはまだ良いことかは分かりませんが、あなたにとってはもしかしたらと思って、」
テオが優しく相槌を打つ、
「エミリー嬢の魔法が覚醒したと言う噂が、光属性です。」
なぜ、今その話をと言いたげに眉を顰めたがすぐに元に戻り
「そうなの、良かったね!生活魔法ですら、魔法が上手く使えないと悩んで居たようだったから。」
と、何でもないように笑ったがその表情は読めなかった。
テオドールも王族のため、適正は光魔法あり、その珍しさと価値を理解している。
「それで、その価値に目をつけたセルドーラ王国の王太子より求婚のお話があるそうです。」
「そうか」
話の意図を汲み取ろうとしているようにも、表情を隠そうとしているようにも見える。
セシールは続けて、テオドールに言った。
「光魔法のエミリー嬢を他国に嫁がせるのは痛手だと、我が国の王太子殿下、王子殿下、王弟殿下の内のどなたかに嫁がせるべきだという者もいるそうです。」
意を決したように、セシールがテオドールの目を見た。
「テオ、あなたが本当に愛する人と結婚できる絶好のチャンスよ。」
「近頃のあなたを見ていて、気持ちは知っているつもりよ。知っての通りわたくしがこの婚約を解消して失うものはありません。」
テオドールは驚愕した。
そんな風にセシールが思っていたとは予想をしていなかったし、もちろんそんなつもりもない。
このままではセシールを失うかもしれないと漠然とした不安を抱えていたものの、まさかこのような形でセシールから解消を持ち出されるとは、テオドールはどうやってセシールを引き止めようかと、頭を悩ませた。
「セシール、貴方は、私と婚約解消をしたいの?」
「いいえ、そう思っているのはテオでしょう」
ーーテオドールside
どうして、こうなっている?
確かに私が悪いことは理解している。
セシールは見た目の儚さよりも、内側は芯のある強い女性であるし、実際の爵位も、物理的にも強い。
弱者であるエミリー嬢に関わってしまっては、途中で放っておくわけにはいかず、ズルズルと他の女性と過ごす時間が増えた私をセシールがどう思うかは解る。
だが、セシールならきっと分かってくれる
セシールなら些細な噂や、野次に負けないだろうと鷹を括っていた。
今からでも、修復できるのだろうか、
いや、しなければ彼女を失ってしまう。
黙ってしまった私の言葉を静かに待つセシールに出てきた言葉は、
「セシール、もう夏だ。避暑地へ行こう。たまには二人きりで、久しぶりに別荘で穏やかな時間を過ごそう。」
「わからないわ、テオ。急にどうしたのですか?今は婚約解しょ…
「私は貴方と結婚する!!!婚約を解消するつもりはないと何度もいっている。お願いだよセシール。」
なんとも子供じみた言葉であった。
セシールは一瞬、瞳を揺らしたがすぐに諦めたように息を吐いて「分かりました。」と返事をした。
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