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公爵令嬢は次期公爵 執事side
しおりを挟むノーフォード公爵家の執事として三十五年間もの間、現当主マケール様に仕えている。
マケール様とはかつての戦友であり私よりひとつだけ歳上の彼を尊敬している。
若くして国王になったお父上は、マケール様が十六歳の時に病床に伏せられ弟君を新しい国王に命名し、自身は公爵として新たにノーフォードという名を授かり臣下とし降家した。
マケール様が二十歳の時に元十四代国王、当時ノーフォード家当主だったお父上を失くされてからは特にお忙しくされていた。
ディアーナ様とお嬢様への溺愛ぶりは屋敷中の皆が存じており、月の女神の力を併せ持つセシールお嬢様もまたマケール様を超える強さを持つ正真正銘のノーフォード家の次期当主だ。
ノーフォード家は王族であり、王家からの信頼も厚い。
マケール様とディアーナ様の圧倒的な強さに憧れ集まった使用人達や騎士もむた腕に自信のある者達ばかりだがノーフォード家は危険を伴う仕事も多いので生き残る為に皆常に自分を鍛えている。
マケール様により本日選ばれた者は、次期当主であるお嬢様をお守りし手足となる実力を認められた精鋭である。
「お帰りなさいませ、セシールお嬢様」
「スティーヴ、ただいま」
笑顔で返事をして下さるお嬢様は本当にお美しくなられ、もう立派な淑女であられる。
「当主様がお待ちです」
扉を叩く姿ですら、気品漂うお嬢様はマケール様にとても似ておられる。
「入っていい」
「お父様、ただいま戻りました」
どことなく緊張した面持ちでマケール様と対面されるお嬢様は今日の意味をきちんと理解しておられるからだろう。
「セシール、お前の部下となる者だ。彼らはお前に命を捧げるということだ。彼らはお前の直属の部下である。今までのように私の許可を取らなくてもよい」
「そして、この権限を与えるということはお前は次期当主としてノーフォード家を担うという決定事項でもある」
「……はい。次期当主としてより一層気を引きしめて参ります」
「そしてこれは父親としての言葉だがセシール、お前が幸せであることが一番だ。危険も多い仕事ではあるが、必ず私よりも長生きしてくれ」
マケール様の言葉は父親として娘を愛する、ただの親だった。
そんなお二人を見てより一層私共も気を引きしめてお守りしようと決意する。
「お父様……」
公爵家の当主という立場を理解されているお嬢様は、普段は公私混同せず仕事には厳しいマケール様の父親としての言葉に驚きながらも、嬉しそうに美しいアメジストの瞳を潤ませて極上の笑顔を見せられた。
流石、マケール様は照れ隠しに咳払いを一つした次の瞬間にはもう当主の顔になられていた。
「では紹介しよう。全員紹介するには時間かかりすぎるので、それぞれの長を紹介する」
マケール様よりお嬢様に紹介されたのは、公爵家でも精鋭の者達でなるべくお嬢様の年齢に合わせて選ばれた者だ。
殆どがお嬢様やマケール様に拾われた者か、昔からこの屋敷で育ったものであり、お嬢様もよく知った顔ばかりだろう。
侍女に双子のエイダとエイミー。
茶髪茶瞳の無表情な美少女だが、貴族に乱暴されそうな所をお嬢様に拾われて以来、セシールが全てでありこの瞬間に選ばれる為に努力してきたのだ。
侍女としても優秀であるが両方とも銃やナイフに長けており、護衛も兼ねて選定されている。
セシールの為の騎士団の騎士団長に選ばれたのはまさかのギデオンの弟である、ダンテ・バーナヴィアスであった。
「何故、あなたが……」
「彼は私が預かっていたんだ」
飄々とした表情でマケールが言った。
無能な兄を溺愛の余り愚行すらも擁護する父と母に愛想を尽かし家を出たダンテはたまたま出会ったマケールに惚れ込み此処に来たのだと言う。
「ダンテと申します。ファミリーネームは返上いたしました。お嬢様に騎士の誓いを受け取って頂きたく存じます」
「……よいでしょう、父の人選を疑う必要はありません」
ダンテはその場で騎士の誓いを捧げ、セシールはそれを受け取った。
三十人のメイドに、馬丁を二人、侍従を三十人
そしてそれらをまとめるのが、
メイドのアンと侍従のリアムである。
双方勿論、訓練された手練れであり二人は魔法が得意である。
その後も次々と挨拶を終え、皆は本日よりセシールに譲渡された本邸のとなりにある別邸で生活をすることになる。
「皆、我が娘を頼んだよ」
「御意!お嬢様にこの命を捧げます!」
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