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グレーシスは困っている

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近頃、身の周りが明らかにおかしい。


まるで自分が有名なオペラ歌手にでもなったかのように、周りに集まる子息達とそれを宥めるという程で結局周りに集まる令嬢達。


至極面白くなさそうに見ているメルリアとその取り巻き達の突き刺さるような視線。



まるで、聞いたことのない


グレーシス派とメルリア派と言う謎の派閥。




(一体どうしたのかしら、皆急に…。)







そして何より、ミハイルの優柔不断かつ自分本位な態度に困っている。





「おはよう……!!何してるんだ!グレーシスは僕の婚約者だぞ!」


人の輪を勢いよく割って入ると、グレーシスを囲う子息達を威嚇するように言う。



「ミハイル様、貴方は別れたと仰ったのでは…?」


「お!お前には関係ないだろう!!!」




そんな様子を見てメルリアを取り巻く者たちはグレーシスを悪く言いながらメルリアを持ち上げる。



「グレーシス様ったらあんなにたぶらかして、ふしだらねぇ。」


「ミハイル様もお可哀想….早く正式に別れて差し上げればいいのに…」


「メル、俺ならこんな思いさせないよ?ミハイル様はやめて……」




「そうねぇ…ミハイル様はやっぱりだから、



メルリアが少し大きな声でそう言うと、弾かれたようにメルリアの方を見たミハイルは慌ててメルリアの方まで駆け寄って、眉尻を下げ、情けない笑顔でメルリアを引き寄せた。



「メル!何を言うんだ!グレーシスと君を比べたことなんてない!」



「そうですよね…?真実の愛だと私に仰いましたもの。私。婚約者のいる人とは付き合えないです。ね…ミハイル様?」




今にも泣き出しそうなメルリアと、ミハイルを責めるように取り囲むメルリアの取り巻き達、




ミハイルはここでメルリアとの交際を認めてはマズイ、と思ったもののメルリアを失うのは嫌だった。



「それにグレーシス様はだと仰っていたし…きっと大丈夫ですよね?…?」



そう言って古典的な色仕掛けでグッと身体を寄せるメルリア。



頬を染め、だらしない顔をしたミハイルに青くなったり、赤くなったりと忙しい人だなとグレーシスは思っただけだった。




メルリアの勝ち誇ったような目線に軽く溜め息をつくと、タイミング良く鳴った鐘の音と共に先生が教室に入ってきた。



もう、ひそひそと本人の知らぬところで派閥の党首として掲げられ陰口の戦争が行われていようとも気にならなかった。



(慣れてしまえばこっちのものね…。一人にも、噂にも)



また、鐘が鳴ると次は休憩時間となりその時間はグレーシスにとって憂鬱なものであったがとある人物の登場により安堵する。




「グレーシス!良かった、居た!」


「バーナード…!どうしたの??」



同学年だがクラスの違うバーナードが訪ねてくる事は初めてであった。



「これは、殿下からのお遣いなんだけど。まぁ口実だよ。」


「??…ありがとう。」




笑顔のまま小首を傾げて、とりあえずお礼を言うグレーシスに教室中の皆が驚愕する。


口実だよ、と言って殿下からの手紙を渡す際には手の甲に口付けて態々形式貼った騎士の挨拶をしたバーナード。


口実だと言うのはお遣いよりもグレーシスに会いに来るのが本題だと伝えたようなもの…なのに、



「忙しいのにわざわざごめんなさい…」




なんてバーナードを気遣うグレーシスに、バーナードはグレーシスの机についていた肘をガクンと滑らせた。




(ほんと鈍いんだよなー、ってか俺何やってんだよこんな所教室で)





「…いや、いいよ。ランチの誘いか?」



「うん。シヴァお兄様とアイズ様と一緒にどうかって…」


「じゃあ俺は近頃ずっとグレーシスと一緒だから寂しいじゃん。」



「だから、バーナードも来ればいいじゃない。」



「そうするよ、どの道 いれる時は学園内でも護衛で近くにいるんだし…。」



「今日はバーナードの分も持ってきたのよ?学園のランチもいいけど…」



「まさか!手作り!?!?」



「侯爵家のシェフも腕がいいのよ…って言おうとしたんだけど。」



「だよなぁー。」



そんな二人のやり取りに思わず笑ってしまう者、


メルリアのように、グレーシスを睨みつける者、



そしてミハイルは、光の宿らぬ瞳でグレーシスとバーナードを見つめていた。





(グレーシスは僕の婚約者なのに…。)



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