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普通の幸せといい男
しおりを挟むリジュの仕事は解っているし、近頃は何をしているのかも何となく分かってきたところで、あっさりと無くなったヘルビオと言う名に何の疑問も持たない訳ではないが珍しい訳でもない。
厳密にはリジュとエルディオが何を担っているか理解してしまっている。そしてそれが国からの命であることも。
なのでエルシーがそれに対して軽蔑したりする訳はないのだが、近頃のリジュはどこか気まずそうだった。
女性達の縁は一応、切れているらしく事あるごとにフィリーを捕まえてはリジュの方から調査する人物リストを預けてくる始末だ。
相変わらず別邸での生活をしているが、公の場では同伴しておりそんなリジュとエルシーは些細な事で言い争いになった。
「どうしてそう強引なの」
「あの男はエルシーに不埒な事を考えてたよ」
「断っているとはいえリジュに寄ってくる女性は不埒なこと考えてないの?」
売り言葉に買い言葉だった。
そこから出る言葉はもうどんどん止まらなくなって、とうとうエルシーは言いすぎてしまったと自分が感じるまで言い切った。
「リジュも真面目な人だったら良かったのに!」
「も?」
リジュはすぐに分かった。
エルシーが思い浮かべる真面目な男性が誰なのか。
「そう、だね……」
脳裏に浮かぶエルディオと並ぶエルシーの姿はよく似合っていて、柄にもなく弱気になった。
急に弱気になったリジュの様子がいつもとあまりにも違うので思わず思考停止したエルシーはそれ以上何も言えなかった。
「リジュ……」
「いや、いいんだ。悪いのは俺で君じゃない」
けれど、その日からリジュの行動は目に見えて変化した。
彼は一見いつも通りだがある一人に対してだけやけにエルシーのことに寛大に振る舞うようになったのだ。
「ディオ、久しぶり」
「そうでもないが……」
「エルディオ殿下、お久しぶりです」
「ああ、久しぶり」
夜会で会うとエルディオにすらエルシーは渡さないと独占欲を露わにしていた筈のリジュにその雰囲気は無い。
と、言ってもエルディオに対してだけなのだが和やかにあいさつを交わす二人をただ貼り付けたような笑顔で見ているのだ。
(何だリジュ……どこか悪いのか?)
「リジュ、皆で休まないか?王族の休憩室がある」
「二人で行ってきてよ、俺まだ陛下と話があって」
「じゃあ私も……」
「いや、いい仕事の話だから」
思わずエルディオと顔を見合わせたエルシーと、
なんて事ない仕草だと理解しながらも、そんな二人の様子がやけに仲睦まじく写ってジクジクと痛む胸を押さえたリジュ。
この場に漂う微妙な空気を遮ったのはエルディオだった。
「すぐに来い、リジュ」
「うん、そうするよ。エルシーを休ませてあげて」
エルディオは混乱しながらも、放っておく訳には行かないのでエルシーの側に居ることになってどこか緊張している自分に気付いた。
そして、エルシーは寂しく感じている自分に気付く……。
(私、リジュに突き放されて寂しい……?)
「リジュじゃなくて悪いが……」
「それ、何度も言わせてしまいましたね」
眉を下げて笑ったエルシーもまた関係の無いエルディオを困らせてしまわないようにと笑みを作った。
「それでは、リジュが戻るまで宜しくお願いします」
「ああ、何か甘いものを用意させよう」
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