離婚届は寝室に置いておきました。暴かれる夫の執着愛

abang

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初めての一人での参加

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小規模なものとはいえエルシーがパーティーに一人で参加するのは初めてだった。その所為で皆は表面上は取り繕ったがその笑顔の下では大騒ぎしていた。



「夫は取り急ぎの仕事ゆえご無礼をどうかご容赦下さい」



エルシーのその言葉に男達は「なんだ」と落胆し女達は「そんな筈はない」と顔を見合わせた。



エルシーや他の者達に聞こえぬよう自分達の中だけで話す小さな声だが、女達の話す内容は皆同じで実の所その意見も一致していた。



「リジュ様がエルシー様をお一人で来させる訳がないわ」

「あれでもリジュ様は狂気的に奥様を愛しているもの……」

「まさか、とうとうエルシー様がリジュ様を……?」



リジュがエルシーを手放す訳は無いし、もしかしたらエルシーが今日ここに一人で参加していることを知らないのではないか?と。


ローズドラジェ夫妻の絆が崩れがかっていることをチャンスだと内心ほくそ笑む者、これは当分の間リジュには近づかない方がいいと危険予知する者が居たが、リジュを取り巻くつもりがエルシーをすっかり応援していた者達は「これは一大事だ」と顔を青ざめさせる。


(男達に囲まれてしまっては危険ね)


「え、エルシー夫人。良ければ此方で私達とお話しませんか?」

「レイラ様、ええ……心細かったので嬉しいです」

「こちらこそお話できて嬉しいですわ」

(貴族だし美人なのに素直で可愛いのよねぇ)


此処に居る殆どの女性達がリジュに憧れていた事はエルシーも知っているが、その中の大抵の女性達が彼女にとってとても親切だ。

リジュを取り巻いているものの一線を越えない彼女達はエルシーへの配慮も、過激派な取り巻き達の排除も完璧だった。

彼女たちはもはやローズドラジェ夫妻の取り巻きと化しているのだがそれは本人達もエルシーも気付いていない。

リジュに至ってはそれに気付いた上でそういう令嬢達とは友人として節度ある距離感で接し更には好都合だからとエルシーや自分の周りを好きに囲ませているのだからタチが悪い。

けれどそれでも良いとレイラ達は思っていた。
所謂「見る専門」の取り巻きでもうエルシーごとリジュを愛しているのだから。


貴族の中でそれを知らないのはリジュの黒い一面をまだ知らないエルシーと、一部の男女達だけ。


リジュの圧力によって社交会中がエルシーにそれを気付かせないようにしているのだから彼女が知らないのは自然だが、一部の男達は目の前の女達やエルシーに鼻の下を伸ばすだけで周りが見えて居ないのだ。


一部の女達に至っても同じで、周りの男達やリジュのことに夢中で周りが見えて居ない、嫉妬と欲望に染まる目には他に何も映らないのだ。


伯爵家の令嬢レイラはそこまで考えてふと過去の自分を思い出す。


(まぁ一度は皆リジュ様に狂うほど恋するし、男もまたそう。私も一度は彼しか見えない時期があったものね)


「レイラ様の香りがとても好きなんです」

「へ……これは、私が調香しましたの。貴族なのに自分でなんてみっともないでしょ」


「ううん、秀でたモノがあるって素敵。私は友人が誇らしいです」

「え、友人……」

「あっ……ごめんなさい。勝手に友人だなんて」

「いいえ!良ければ今度友人のエルシー様に香りを贈っても?」

「はい!その時は是非遊びに来て下さいね」


いつか聞いて見たいと思った。


ずっとただの片思いだったし、伝えた事はないものの取り巻きのように近くで見つめて来た。


一度でも夫に恋した女に何故友人だと笑いかけてくれるのか。


きっと彼女は何でもないような台詞で私達を驚かせてまた、笑うのだろう。


気が強くて、気遣いができて、素直、そして底抜けに優しい彼女は自分を取り柄も優れた所もない平凡な人間だと思い込んでいるが今もこうして私の心だけでなく多くの人達の心を掴んでいる。


無理矢理勧められている令嬢のお酒を間違えたフリをして通りすがりに取ってしまったり、自分の靴にお酒を少し溢した新人の給仕のミスを庇う為に取ったお酒をわざと落としたり、


(そしてあのお酒には薬が入って居た筈だから運も強いのね)



ほら、ローズドラジェ夫妻を愛する女達が今立ち上がったわよ。


とにかく今日はエルシー様を馬鹿な者達から守って差し上げなくっちゃ。









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