4 / 42
別行動でお願いします
しおりを挟む実家に帰ろうとしていると、ふと気まずそうな執事の声
「奥様……今日はヘルビオ公爵家主催の夜会があります……」
ヘルビオ公爵家とは付かず離れず良い距離感を保っている。
けれど決して侮れる相手ではなく優秀とはいえまだ若いリジュに比べてヘルビオ公爵は経験値という武器があり、同じ王宮派とはいえヘルビオ公爵家には背後黒い噂も沢山あるので目を配るよう陛下からも命じられている。
勿論私ではなく陛下と交友があるリジュがだが、今はまだローズドラジェ公爵夫人という肩書き上、そんな夫の仕事の邪魔をする訳にもいかずパーティーへの参加を執事に伝えた。
(まぁ、私自身の評判にも関わるものね)
この際、無視をして実家に帰っても良いがそれでは追ってくるだろうリジュがパーティーを欠席して、次には夫婦の別居が町中で噂になるたろう。
何故か昔からその手の話には皆敏感で、私達が"いつまで持つのか"まるで賭けでもしているかのように観察している。
いつも特に言い争う必要も無かったし、別に相手にはしなかったがリジュを追う女性はなにも私だけじゃくて他にも沢山いる。
パーティーや夜会のたびに嫌味のオンパレードなのだから。
妙な噂になれば「ほら、やっぱり捨てられたのね」とそんな彼女達に言われるのが想像できてそれは癪だった。
(けれどリジュが手を出すだけあって根っから悪い人ってそうそう居ないのよね)
「お願いだから聞かせてくれるな」と願いを込めて瞼を伏せる私が泣いているのだと勘違いをした令嬢が慌ててハンカチを握って覗き込んでくれた事もあったし、
中には本当に嫌味な人だって居たけど、案外リジュの浮気相手の中には根がいい子が多いらしく「言い過ぎよ」って庇ってくれたりもするから憎めなくてもはやうちの人がごめんなさいの気持ちでいっぱいだった。
ドレスはリジュが用意してくれた物を着るのがなんとも癪なので、リジュが嫌がるから気に入って買ったものの着れていないドレスを選んだ。
(まぁ色味は合っているし、体裁は保てるわね)
彼が黒を主にした装いにする事は、送られてきたドレスでも分かるのでまぁ色味さえ合えば別の物でも公に文句は言えないだろうとお気に入りのドレスに初めて袖を通した。
リジュが贈ってくれたドレスも清楚で美しい黒のドレスだったが、背中の開いた膝までがタイトで膝下からが美しいシルエットでフレアになっている漆黒のドレスはエルシーの小柄だが引き締まった、素晴らしいスタイルを際立たせている。
パーティーのたびに思うのはありきたりな自分の髪色はどの色のドレスを彼が選んでも無難に合うなぁと安心することだった。
(うん、今日も不可なし)
リジュの連れている女の子達と比べれば華やかさも容姿も劣るかもしれないが、まぁ自分自身としては今日は高得点かなと巻かれていく髪を見つめながら思った。
綺麗にアップスタイルにされた髪は所々落ちるウェーブした毛束が色っぽくて、本当にウチのメイド達は有能だなぁと口元が綻ぶ。
いつもはリジュに合わせて背伸びして付けていた大人っぽい口紅も、化粧もやめて自分に一番似合うであろうものに変えた。
「どうかな?少し、華やかすぎるかしら」
「いいえ!淡い色味なのでとても純情かつ色香すら感じさせる絶妙な美しさですよ!素材が良いのでやりがいがあります!!」
「このキラキラ光るものは?」
「ラメと言って最近異国の者が作った新しい化粧品です」
瞼と、下瞼の側にチョンと乗せられたラメという何かが反射するたびにさりげなく輝いて涙に濡れたかのような色香を漂わせる。
青みのピンク色のリップは潤いがあってエルシーの小さくて形の良いぷっくりとした唇を彩っていた。
(奥様、本当に可愛くってお美しいわ!)
何故、自分が旦那様を取り巻く女性より劣ると思い込んでいるのか?と不思議で仕方がなかったが少々鈍感な所がまた愛らしいのだと脳内でエルシーの全てを肯定しながら送り出すメイド。
「ありがとう、レビィ。とても素敵で感動しちゃった」
扉を出る際に振り返ってそう言ってから照れくさそうに「ふふ」と笑って小さく手を振り護衛と馬車へ向かったエルシーに少しの間胸を押さえたまま、頬を上気させ硬直したのち「奥様……好きです」と思わず溢した。
「レビィ、浮気?」
通りすがりに悪戯に笑うこの邸の執事であるマルコにハッとして扉を閉めて廊下に出て笑った。
「そんな訳ないでしょ、でも素敵よね奥様」
「旦那様に殺されるぞ~」
「……そうね」
仕事に関してや、敵に対して残酷なほど容赦がないリジュがエルシーの事になるともっと狂気的なのを思い出して二人で震えた。
ふわりとした笑顔はとても善良にしか見えない。
けれど一度その狂気に触れて終えば忘れられないのだ。
(どうしてあんなに善良な奥様がリジュ様に落ちたんだろう)
マルコはこの心の中の疑問は死んでも口にする事はないだろうなと思った。
「あれ……、さっきのドレスって旦那様が贈ったものとは……」
「ふふ、奥様ったらお可愛らしい反撃でしょ?」
「あー……今日は荒れるぞ」
「……え?それだけで?」
「ばか!命が欲しけりゃ近寄らない事だよ!絶対!」
「わ、分かったわ」
68
お気に入りに追加
1,243
あなたにおすすめの小説
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される
鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。
レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。
社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。
そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。
レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。
R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。
ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。
最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか
鳳ナナ
恋愛
第二王子カイルの婚約者、公爵令嬢スカーレットは舞踏会の最中突然婚約破棄を言い渡される。
王子が溺愛する見知らぬ男爵令嬢テレネッツァに嫌がらせをしたと言いがかりを付けられた上、
大勢の取り巻きに糾弾され、すべての罪を被れとまで言われた彼女は、ついに我慢することをやめた。
「この場を去る前に、最後に一つだけお願いしてもよろしいでしょうか」
乱れ飛ぶ罵声、弾け飛ぶイケメン──
手のひらはドリルのように回転し、舞踏会は血に染まった。
あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話
此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。
電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。
信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。
そうだ。西へ行こう。
西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。
ここで、ぼくらは名をあげる!
ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。
と、思ってた時期がぼくにもありました…
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
壁の花令嬢の最高の結婚
晴 菜葉
恋愛
壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。
社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。
ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。
アメリアは自棄になって家出を決行する。
行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。
そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。
助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。
乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。
「俺が出来ることなら何だってする」
そこでアメリアは考える。
暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。
「では、私と契約結婚してください」
R18には※をしています。
離縁予定の王太子妃は初恋をやり直す
ごろごろみかん。
恋愛
二十五歳の夫は、自分にも愛を囁き、同じように恋人にも愛を誓っていた。愛人からのあからさまな当てつけや妊娠の兆しの見えない生活にソフィアは疲れていた。
結婚して7年。未だに妊娠の兆候がないソフィアは石女と影で囁かれ、離婚寸前の身となる。
しかしそんなある日、夫の王太子が魔女の呪いによって13歳まで若返ってしまう。しかも記憶まで失っている様子。
夫の呪いの解呪に必要なのは、"女性と肌を合わせること"。
十三歳の王太子ロウディオと二十五歳の王太子妃ソフィアは呪い解呪に向けて励むことになるが……
*不妊に対する差別的表現があります
*R18シーンは*表記です
*全54話
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる