暴君に相応しい三番目の妃

abang

文字の大きさ
上 下
75 / 91

悪女の手下?出世馬?

しおりを挟む


皇妃宮から本城へのお使いの帰り道、ララは新しい側妃がくるという噂を耳にする。

(側妃……?念の為に調査しておくべきね……)

詳しく調べてみるとまだ年端もいかぬ頃に放浪の旅に出た皇帝の友人が帝国に戻ったとのことだった。
どうしてそれが新しい側妃という話になるのか?
それは容姿や性別の所為だとすぐに分かった。

そしてララから件の報告が終わるや否や、ドルチェはすぐに彼女と遭遇することになった。

   
翌日、皇帝への謁見を門前で派手に志願している女性に遭遇する。いつもは厳格な衛兵達が心なしか困っているようにも見えたのでリビイルに止められたものの、その女性に声をかけた。

「なにか問題が?」

「はっ!皇妃殿下!それが……」

「貴女がヒンメルの奥様ですね、初めてお目にかかりますわ」

「……で?」

やけに堂々と、無礼なほどの自信に満ちた態度でドルチェに声をかけたその女性の声色は柔らかくて落ち着いているが、ドルチェは特に返事を返すことなく、当初声をかけた衛兵から視線を逸らさずに彼の返事を待った。


「そ、それが……皇帝陛下の幼馴染だと仰られていまして」

「事実なの?」

「帰還のお噂もございますので、只今確認中です」

「いいわ、私が確かめてきましょう」

「まぁ!とても親切な方ですのねっ!」

「……」


相手の態度に違和感を感じつつも、いつもの笑顔だけを向けて本宮へと入るとドルチェはすぐに当初の目的の執務室へと向かい、彼女の素性をレントンに確かめた。


「ミルクティー色の髪に同じ色の瞳の小柄な女性ですか……」

「ええ。門の前が動かないらしいわ」

「確かに……容姿は似ていますが、陛下の確認が必要ですね」


そうこうしている間にヒンメルが来て、さほど興味も無さそうな様子で魔道具に映し出された彼女を指して「間違いない」とだけ返事をした。

彼女、ティアラ・フリンは皇帝の知り合いで幼少期の当時はヒンメルと同格にやり合うほどの実力者だったという。
大きな家門の出ではないが、実力を買われ皇宮で魔法騎士団への入隊が約束されていたが、彼女は様々な自然に触れ、魔法の根源を辿りたいと放浪の旅に出たらしい。


「陛下、どうなさいますか?」

「入隊希望か?」

「いえ、それはまだ何も……」

「謁見を希望していたわよ、その人」

「……分かった。ドルチェも来てくれ」


まるで潔白を証明する普通の夫のようだとレントンが内心で考えていることをドルチェが知る由もなく、ただ微笑んで頷いた。


「会えてうれしいです、ヒンメル!」

「そうか。よく戻ったな」


前髪を綺麗に切り揃えられ、髪が緩く巻かれて愛らしい印象の小柄なその友人はおっとりしている風でヒンメルの琴線をうまく避けて会話をする。

だからか、いつもより柔軟な態度のヒンメルにドルチェは少しチクリと胸を刺すような気がするも深く考えなかった。


「ご友人だと聞いたわ、ティアラと呼んでも?」

「ええ、もちろんですわ!」

「……」

嫉妬一つしない様子のドルチェが気になるヒンメルは気付いていないが、あからさまな好意が見え隠れするティアラにレントンはあまりいい印象を抱いていない様子だ。

「そういえば、旅先でヴァニティ伯爵家の方々を知りました」

「そうか」

「まさか、妃殿下は違うと思いますが……ヒンメルが心配になりました。妃殿下があの愚かな家門の出だなんて……」

「何が言いたい?」

「わ、悪気はないのです!ただ私は愚かに身を滅ぼしたヴァニティの血筋を持つ妃殿下が不憫で……」


俯き涙を拭く姿を見せるが、レントンの角度からはきちんと口角が少し緩みかけているのが見えた。


「そうね、けれどヴァニティを堕としたのは私だもの」

「えっーーー」

「ふふ、だから安心して頂戴」

意外だったのか、その程度も予想していなかったのか、ティアラは相当驚いた様子で言葉を失った。


「くっく……ドルチェ、来い」


楽しそうに笑うヒンメルにドルチェは首を傾げながら指示されたとおりに彼の膝に座る。

ティアラは笑顔をヒクつかせてヒンメルの初めて見る穏やかな表情に内心で悔しくて仕方がない。



(噂ほど強そうに見えないわね)


それもそうだ、ヒンメルとて幼い頃から成長しているし努力もしている。ドルチェもまた成長を遂げても努力を怠らない性格。

自信過剰で、ヒンメルの幼馴染だと謳って楽に旅をしてきたティアラとは過程もなにもかも全てが違った。


ヒンメルの膝に座るドルチェに仕えるリビイルやレンを見渡したティアラはドルチェに「奔放なんですね」といかにもヒンメルを心配するかのように言った。


それを見逃さないのが覗き見をしていたレイとフィアで、出てくるなりララやライアージェ、ジェシカを指さす。


「見えてないみたいだね、フィア」

「嫉妬ってやつかな?ドルチェ様美しいから」

「そうだよね、じゃ敵わないよね」

「な、なんですか!?この子達は……!」

「ごめんなさいね、ウチの子達なの」

「ヒンメル、この子達を正当に罰して下さい!」



けれど、ティアラはヒンメルの冷ややかな目に見下ろされた上に、ドルチェの魔力で威圧され萎縮する。



「何故、俺がそんなこと?」

「え……でも私たち、幼馴染じゃ……」

「友人だったが、ドルチェは妻だ」

「ウチの人間に手を出すつもりなら歓迎はしないわよ」


ドルチェの悠々とした様子とは違う刺すような魔力と言葉。
そんなドルチェしか写していない金色の瞳にティアラはただ力なく引き下がった。


「申し訳ありませんでした、旅の帰りで気が立っていたようです」

「別宮の来賓室を用意したわ。ゆっくりして頂戴」

しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

あなたの妻にはなりません

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。 彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。 幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。 彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。 悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。 彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。 あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。 悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。 「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

処理中です...