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ここが皇妃宮ですよ陛下
しおりを挟む豪華絢爛、というよりは清廉で美しい庭でドルチェの噂からすれば意外だと皆は言うだろうが俺は彼女らしいと思った。
宮の後側に隠れた一部のエリアは部下達の住まいらしく小さな村と言ってもいい程で、それ以上に美しい場所だった。
しっかりと高さを増された塀も、見る者が見れば分かる魔法の施された門も、やけに充実した演武場もまるで、それだけだと要塞のようだが、そのことに気付かせない繊細な装飾品や雰囲気は流石だと思う。
「完成したら、一番に見せたかったの」
「嬉しいな」
「どうかしら?」
「このまま皇后宮にしても良い程だ」
「てっきり地味だと怒ると思ったわ」
「実用性がある」
「!」
もう気付かれてしまったのか、そういった表情に見えた。
ドルチェは意味深ににこりと笑うだけだが「見て周る?」と問いかけてくるあたり全てではなくとも俺には手の内を明かしてくれるつもりでいるらしい。
そんな些細な事にいちいち胸がきゅっと狭くなって、受け入れるたびにまるで男に弄ばれる小娘のように歓喜する。
馬鹿らしいと自己嫌悪しながらも、何の意図も持たないドルチェの差し伸べられた手を握ってまた期待するのだ。
けれども、俺はそこらの小娘や餓鬼ではない。
何故なら彼女はちゃんと俺のものだし、多少強引であったが誓紋まで受け入れている。
「ヒンメル?」
殺気と似て異なる、ドルチェを捕食するかのような視線に思わずヒンメルを覗き込んだ彼女の瞳は怪訝だが、嫌悪を宿さない。
気分がひどく良くなって、表情を崩すと見てはいけないものを見たかのように彼女の侍女ララは顔を青ざめさせた。
「どうしたの、ララ」
「い、いえ……此処からはリビイルさんが案内致します」
使用人の住居エリアから演舞場を抜けてドルチェの為に早急に作るように命じておいた騎士団の宿舎と休憩所。
宮の中にあるものなので大規模とは言えないがドルチェは自らが面接した、たった四十七名の騎士だけを引き入れたらしい。
「皇帝陛下にご挨拶いたします」
「リビイル、これだけか?」
「はい、これで全員です」
中には気弱そうな女までいて、とても屈強な皇妃の騎士達には見えない。挨拶や敬礼はきちんと揃っているしそれなりの雰囲気を持つが……こうして普通にならんでいると、寄せ集め感が否めない。
「レン、久しいな」
「皇帝陛下、お久しゅうございます。お二人のお陰で剣に専念しマスターの称号を得る事ができました」
「ほう、ドルチェの最短でと言う約束を守ったのか」
「はい。ドルチェ様は私と母の恩人ですので」
結局、オーレンの実母は公爵家の所有する別邸の地下で餓死寸前で生きていると知ったドルチェは「間に合わない」と援軍を断り単身で乗り込んでオーレンの母を奪って来た。
今はほとんど皇妃宮から出ることは出来ない上に、酷い虐待で痩せ細った彼女は療養中だが、
きちんと職を与えられ皇妃宮で形式上は勤めていることになっている。
「さぁ、レン……陛下をがっかりさせないで」
ドルチェが前に立つと、レンだけでなく彼ら全体の雰囲気ががらりと変わり。騎士団としてはかなり少数だというのにぞくりと鳥肌が立つほどの鋭い感覚。
先程とは違い、一人一人が激選された優秀な者だと感じる。
レンに至ってはまるで聖騎士かのような落ち着いた佇まいで、案内役のリビイルの禍々しさと並べると正反対で笑える程だ。
(待て……)
従者のリビイルだけでなく、
先程からすれ違うメイド達も、料理長のハンセンもその弟子達も、侍女も、庭師もうろつく餓鬼共も……全員が普通ではない。
「ハ……やられたな」
「なに?」
「難攻不落の皇妃宮か……」
「ただ、ゆっくり寝られる場所が欲しいだけよ」
「信じよう」
そっと瞳を伏せて穏やかに笑ったヒンメルに、思わず両手を伸ばしたドルチェが彼の首に腕を回して口付けると、騎士達は歓声を上げてリビイルは酷く怒った。
「あなたがそうかもしれない」
「?」
「ううん、気の迷いよ。次行きましょう」
俺が君が穏やかで居られる居場所かもしれない
そう言ったように聞こえた。
そうなりたいと思ったのは言わないでおいた。
その方がいい気がしたからだ。
「餓鬼共の所は飛ばしてくれ」
「どうして?皆可愛いわよ」
「……分かった。その後は茶にしよう」
「ふふ、そろそろ話すこともあるしね」
「話?」
「ええ、祝宴の話。パーティーしないとでしょ?」
(知っていたのか)
ヴァニティの帝都入りはすぐに知らされた。
謁見の申し込みには全部断り、祝宴まで待つようにとだけ伝えドルチェには知らせなかったが……
「準備はいいのか?」
「此処で何が出来ると思う?あの者達に」
「いいな、皇妃らしくなってきた」
「そうね。とびっきりの暴君の皇妃よ」
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