64 / 77
64.他国からの干渉
しおりを挟む東部同盟国のパスカル国はそう遠い訳でもない。
国の隔たりがない休戦地区であるエイワ森林地区を抜ければすぐにあるそれなりに栄えた国だ。
金はあるが軍事力は無く、我が国と同盟を結ぶ事で他国からの侵略を抑止し平和を保ってきた。それが今になって此方に手を出してくる理由が見つからずレイヴンは悩んでいる。
エリスの話では犯人達は訓練された軍人というよりは傭兵のような話し言葉であったらしい。
それにも関わらず国の紋章の入った武器を持っていたことを考えると金で雇われたということは間違いないだろう。
王族の中でもか弱い女性が狙われるのはよくあることだ。
欲しかったのは金かほかの何かか、人質を取る理由が知りたいのだ。
「レイヴン、パスカルから部下が戻ったよ」
「何か手がかりがあったか?」
「手がかりと言うよりは気になる事があるな」
「話してくれ」
まずはパスカルの首都と国境に一部の国以外が貧窮していること。
まるでハリボテのように豪華な城の中身はどうやらかなり使用人が少ないらしい。
王族達の贅沢ぶりは相変わらずでその度に都市がひとつ貧しくなり続けているらしい。
「金が底をつきたと?」
「と、いうよりはあまりにも欲深い現王の悪政で国が王族の個人的な財布のような扱いになっている感じだね。上手く統治すれば豊かな国だ」
「我々も舐められたものだな」
「同盟国の怖い顔なんて見ないからでしょ、浅いね」
「陛下に報告の後こちらで対処する予定だが」
「もちろんヴィルヘルムは動くよ、俺は怒ってるからな」
そうする内に森林を囲む各国、大陸に幾つかある休戦地区に兵を待機させている国の旗を持たない者達が居ると各周辺国へ警告が届く。
「「!」」
顔を見合わせて互いに少し考え込んだあと、やはりパスカルではないかという結果に繋がる。
「まさか、なかなか来ない王太子妃を乗せた仲間の馬車を迎えに来たのか?」
「ああ、もし此方と鉢合わせても休戦地区ならば手出しできないだろうと言う事だろうね」
王族が直接来るような事こそないだろうが、行ってみる価値はある。
馬車だと少しかかるが馬であればもっと早く到着する。
「兵を出す」
「まさか、乗り込む気?」
「狙いはセイランか母上だろう。許し難い」
「丁度俺も怒りが鎮まらなくて困ってたとこ」
陛下への許可を取りに行く途中、すれ違うように歩いて来たのは引退したエリスの父であるクロフォード伯爵とケールだった。
「レイヴン殿下、ジョルジオ閣下、お久しぶりですな」
「相変わらず年齢不詳、見目麗しいですね伯爵殿」
「義父様、水くさいなぁジョルジュとお呼び下さい」
「団長、まだエリスはクロフォードです」
「ふふん」
(エリスは妻になってくれると言ったんだからな)
「何か含みがありますね」
「はは!娘はもう任せたも同然、ジョルジオ殿、殿下今回は感謝していますよ」
だが何故、二人が謁見の間から出て来たのかひとつ憶測が浮かぶ。
「伯爵、休戦地区のことを知ったのですね?」
「ええ……」
伯爵とケールの目付きが変わる。
きっと溺愛するエリスのことでかなり頭に来ていたのだろう。
「密やかにクロフォードで処理すると陛下に申し上げました」
「もちろん許可も頂いております。身勝手をお許し下さい団長」
「「ふっ」」
「「??」」
「俺たちも同じ事を考えていたんだ、ケール」
「陛下は渋るだろうが此方も混ぜてもらおうか、ジョルジオ?」
「そうだね」
クロフォード伯爵家は有能な騎士の家系。
他の高貴な家門を遥かに引き離してヴィルヘルムの次に軍事力を誇る、所謂王族の他に一番力ある家門なのだ。
「心強いなぁ」なんて緩やかに言うジョルジオの目は全く笑っていない。
無口だが、レイヴンとて同じだ。
それに気付いたケールは「休戦地区ですからね」と念押ししまたあとで会おうと言う二人と離れた。
後に同盟国であるはずのパスカルへの怒りを静かに表した国王陛下によって許可が下り、王太子、ヴィルヘルム公爵家、クロフォード伯爵家の連合軍は完成したが休戦地区に居るパスカル国の者達が知ることは無い。
「一日もかからないな」
「ウチは二手に分かれて、近くで待機するよ」
「取り逃さぬよう父がエイワの周囲に幾つかに分けた兵を待機させます」
「空の馬車を、おとりに手前で停めて出方を見る」
エイワ森林地区に入って一同は驚愕した。
「あんなにバカ丸出しの王族が居るのか」
「余程自信があるのか?」
「休戦地区とはいえ丸腰でウロウロしていますよ、団長」
「こっそり討っちゃう?」
「だめです」
12
お気に入りに追加
1,521
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる