54 / 77
54.初戦の結果は如何に?
しおりを挟む社交会を凌駕すべく第一歩目の夜会はすぐに訪れる。
貴族にとって社交会もまた仕事の内で、多方面においての手っ取り早いアピールの場所でもあるのでパーティーや夜会なんてものは社交会シーズンでなくてもある所にはあるし、お茶会なんかは令嬢や夫人達が一年中何処かで開催しているのだから。
社交会シーズンである今は特に貴族達が首都に持つタウンハウスに集まっていて、今日の夜会でもまた多くの顔ぶれが見えるだろう。
「今日も美しいよ、エリス」
「ジョルジュも。とても素敵です」
ジョルジオ達の瞳を連想させる濃い赤のドレス。
同じ赤を基調とするジョルジオの燕尾服。
二人の初々しい表情のどこ見ても仲睦まじいと思うだろう。
そしてジョルジオ、エリスともに個人で見てもまたそれぞれ素晴らしい人物と言えるだろう。それほどまでに二人は完成されていた。
けれどもエリスは今まで培われた自己肯定力の低さから不安な気持ちでいっぱいだった。
「さぁ行こうか。レイヴン達も待ってるよ」
「そうですね」
セイランに付き添う為か、任務以外では社交会に出る事は無かったエリスは近頃クロフォード伯爵令嬢として活動することになってある意味任務ともいえる「社交会の華になる」という事にかなり気が入っているようにも見えた。
ジョルジオは小さく笑って握り直したエリスの手の冷たさに驚いた。
なるべく安心してもらえるように白くて自分のよりも柔らかい手を包み込んで命を吹きかけるように手の甲にそっと口付けた。
「大丈夫だよ。全て上手く行くよ」
「……! そう、ですね。ありがとうございます」
心の内がバレている事が恥ずかしいのか、照れているのか頬を染めてはにかむエリスの美しさが可愛さに染まっていく。
その瞬間を知るのが自分だけだったらいいのにと考えながら吸い込まれるようにその琥珀色の瞳に釘付けだった。
「ヴィルヘルム公爵とクロフォード伯爵令嬢のご入場です」
相変わらず慣れない入場を伝える大声、隣のエリスもきっと同じことを考えているだろう。そんなことが微かな表情で分かる程には彼女との仲は深まっていると自負している。
けれど俺には慣れたこの視線。
羨望、憧れ、妬み、品定、敵意、好意……様々な感情が一気に向けられて人々の感情が自分を呑み込まんとする。
熱いような冷たいような視線が肌をビリビリと刺す感覚だ。
エリスにとってはどうだろうか?
心配になり不自然に感じられない程度に視線を動かしてエリスを見た瞬間
ーー呑まれた
形良く縁取られた琥珀色は一際強く輝いているように見えて、口角の上がった美しい唇もまた勝気に誘惑するようだった。
伸びた背筋が、凛とした表情が雰囲気が、エリスを纏う全てがより一層彼女を引き立たせている。
一歩踏み出す足の動きから髪をはらった仕草、目があった知り合いに微笑む姿までもが優雅でゆっくりと瞬きをして刺さる視線を返すように周りを見た瞳の奥の強い光に体に電撃が走る。
悟られぬようにエスコートするも一歩進むごとに流し見る会場の者達も俺と同じ、雷にでも撃たれたかのような反応で歩みと共に広がる清潔感のある香りに身体の芯からジンジンするような、力が抜けるような感覚に襲われているように見えた。
呑まれるどころか、見事に会場を飲み込んだエリスにやっはりゾクリとして口角が上がるのを止められない。
(セイランの大丈夫はこう言う事だったのか)
「よく来たな」
「待ってたわよ、二人とも」
陛下方に変わって出席するレイヴンとセイランに挨拶するべく二人の席へと行くと何故か自慢げな二人の表情に「なんで二人がその顔なんだ」と言いそうになるが人々の注目の最中辞めておくことにした。
「エリス、流石ね」
「……やりすぎでしょうか?」
「先制あるのみよ、大成功のようね」
惚ける皆を見渡してから声を落として俺たちにだけ聞こえる声で言ったセイランにそこだけは共感するよと込めて首を縦に振った。
一方、人々の目など気にもしていないようなエリスはそっと扇子を開いて皆を振り返り目を細めた。
「セイラン様、勝ちましたか?」
「そうねエリス。今日の勝者は貴女よ」
(エリスは任務になると、やり切るのよね~!)
「その顔が自然に出来るようになれば上出来だが」
「レイヴンったら!」
「俺は、その顔も独り占めしたいけど」
「ジョルジュ……っ」
引き寄せた腰と二人の重なる視線に会場はまた湧いて、セイランは完璧なるヴィルヘルム公爵と近い未来の夫人の勝利を確信したらしい。
「よく出来た部下と、運のいい従兄弟だな」
「社交会は貰ったわ」
「セイラン……まぁこればかりは俺がやれないからな」
(に、しても私の優秀なエリスをどうやってここまで夢中にさせたのかしら……やはりジョルジオは恐ろしいわね)
24
お気に入りに追加
1,519
あなたにおすすめの小説
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
[完結]「君を愛することはない」と言われた私ですが、嫁いできた私には旦那様の愛は必要ありませんっ!
青空一夏
恋愛
私はエメラルド・アドリオン男爵令嬢。お父様は元SS級冒険者で魔石と貴石がでる鉱山を複数所有し、私も魔石を利用した魔道具の開発に携わっている。実のところ、私は転生者で元いた世界は日本という国だった。新婚の夫である刀夢(トム)に大通りに突き飛ばされ、トラックに轢かれて亡くなってしまったのよ。気づけばゴージャスな子供部屋に寝かされていた。そんな私が18歳になった頃、お父様から突然エリアス侯爵家に嫁げと言われる。エリアス侯爵家は先代の事業の失敗で没落寸前だった。私はお父様からある任務を任せられたのよ。
前世の知識を元に、嫁ぎ先の料理長と一緒にお料理を作ったり、調味料を開発したり、使用人達を再教育したりと、忙しいながらも楽しい日々を送り始めた私。前世の夫であった刀夢がイケメンだったこともあり、素晴らしく美しいエリアス侯爵は苦手よ。だから、旦那様の愛は必要ありませんっ!これは転生者の杏ことエメラルドが、前世の知識を生かして活躍するラブコメディーです。
※現実ではない異世界が舞台です。
※ファンタジー要素が強めのラブコメディーです。
※いつものゆるふわ設定かもしれません。ご都合主義な点はお許しください🙇♀️
※表紙はヒロインのエメラルドのイメージイラストです。作者作成AIイラストです。
【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。
【完結】就職氷河期シンデレラ!
たまこ
恋愛
「ナスタジア!お前との婚約は破棄させてもらう!」
舞踏会で王太子から婚約破棄を突き付けられたナスタジア。彼の腕には義妹のエラがしがみ付いている。
「こんなにも可憐で、か弱いエラに使用人のような仕事を押し付けていただろう!」
王太子は喚くが、ナスタジアは妖艶に笑った。
「ええ。エラにはそれしかできることがありませんので」
※恋愛小説大賞エントリー中です!
【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる