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40.全てが崩れる音が鳴った
しおりを挟む「こ、これはどう言う事だ!?」
「フリンチェ伯爵には人身売買の容疑その他幾つかの嫌疑がかけられています。王宮へ連行致します」
「誤解だ!!私は無実だ!!!」
「召集を無視して逃走中の指名手配中の令嬢を匿っているという情報もあります」
「そ……そんな訳が……っ」
ゴルジエは使用人にミナーシュを隠すように合図したが、王宮からの遣いがそれを見逃す訳もなく抵抗虚しくあっさりとミナーシュもまたゴルジエの別荘で捕えられた。
ロベリアに関しては合法的に形式上妻として迎え入れていた為に人身売買に当てはまらなかったが時代遅れの骨董品を首に着けている為にゴルジエから一度引き離される事となるだろう。
ミナーシュに関しての証拠も匿名できちんと送られてきたという。
ミナーシュのチョーカーの購入者や出所の痕跡を消しているところから匿名の通報者はおおよそトリスタンだろうと予測できるが今の三人はそれどころじゃ無い。
特にゴルジエは合法、非合法関係なく気に入った女性を使用人として強引に連れて来ていたりもするので地位と名誉を失う前に現状から抜け出す必要があった。
「い、いくら必要だ?」
「何の話でしょうか」
「いくら払ったら見逃してくれるっ!?」
「私共は陛下に忠誠を誓っています。お金の問題ではありません」
「頼むっ!!!」
「連行しろ」
「このっ!クソ野郎が!!!離せ!!」
いつもの大人しい雰囲気とは打って変わって暴れるゴルジエを冷ややかな目で見つめるロベリアは、名目上保護という形で馬車に乗せられたものの家からも見放され、頼る所もない自分が貧しい暮らしを強いられるのは目に見えているのでこんな男でも居た方がマシだったのにと考えていた。
(頭が悪いのが仇となったわね)
王都に帰るとやはりロベリアの両親は来ず、見捨てられたのだと理解するのに時間は要らなかった。
それは当たり前で昔から実家の名と貴族だと言う事を笠に来てやりたい放題してきたし多くの人を貶めたから。
それでももっと悲惨なのはミナーシュの方だった。
一応召集に応じた彼女の両親はミナーシュをあれほど可愛がっていたのが嘘のように白い顔で厳格に立っているだけで彼女と目も合わせない。
「お、お父様……お母様……」
やけに羽振りの良さような装いはきっと問題の源である娘をお金の源にした証拠だろう。
ミナーシュを厄介払いしたいトリスタンの提案に共感し同意したのは彼女の両親だったのだ。
「我が家門には、娘は居ません」
「……っ嘘よ、おとうさま、おかあさま?」
ミナーシュの父がぎゅっと目を瞑ったのは罪悪感なのか、それともやっと終わったという安堵からなのか測ることはできないが、ミナーシュもまた自分の行いのせいでロベリアと同じ道を歩む事になったのだと言う事だけは確実だ。
人によっては……例えばあの憎きエリスなら誇りの為にゴルジエのような者と離れ貧しくても気高く生きる事を選ぶだろうがロベリアはそうでは無い。
お金、地位、美しさ特にお金は重要だ。
名誉なんて要らない、誇りなど持たない。
ただ裕福に人を踏みつけて暮らす優越感が必要なのだ。
それはきっとミナーシュも同じ。
「嫌よ!私、平民のようになんて生きられない!!!」
「「……」」
「捨てないで!可愛いミナーシュよ!貴方達の娘よ?!」
「……娘は、いません」
絶望的だっただろう。
ある程度の覚悟をしていた自分とは違って……それでも、
(私も、これは堪えるわね)
小さな窓から見えるエリスは仕事中だろうか、分厚い資料を持って歩いている。
ただそれだけなのに凛々しく美しい姿に思わず見惚れ嫉妬する。
それだけじゃなく小走りに追いかけてきたジョルジオもまた美しく誰もがこんな人が夫なら……と思うほどに格好いい。
「エリス!」
「ジョルジュ」
微かに聞こえる話し声から聞こえたお互いを親しく呼ぶ声とよく見なくてもわかる最高級のドレス、血色のいい頬に汚れを知らぬだろう白い艶肌。
どこで、どの段階でこれほどまでに差が出たのだろう。
同じく窓の外の二人を見つけたミナーシュが癇癪を起こしたのは言うまでも無く、うわ言のようにトリスタンが迎えにくるわ」と叫ぶミナーシュに苛立つ。
身売買の罪を問われているらしいトリスタンが家門から勘当されたと知ると青い顔をさらに白くして、さらに連行されたと知ると泣き叫んだミナーシュがいい気味で気持ちが良かった。
(あーやっぱり見下す人間が居るとホッとするわね)
「ミナーシュ……私と暮らしましょう。形式上だけと妻だから僅かだけど無一文にはならないわ」
「……え」
「私の使用人になってくれない?」
悔しそうに歪んだミナーシュの愛らしい顔がやけに愛おしかった。
「あ、でもミナーシュ貴女も……罪人だったわね」
「こんの……このクソ女!!!!!!」
(さあエリス待ってて、かならず借りは返すから)
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