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18.分不相応な恋とは
しおりを挟む「ご機嫌よう~今日はトリスタン様の婚約者としてご挨拶に伺いましたぁ」
「……そう、おめでとうございます」
「……」
「さっきちょっと聞こえちゃって不憫で声をかけてしまいました……」
「不憫?」
「エリス様が分不相応な恋をして笑い者だって……」
そう言ってトリスタンの腕に胸を押し付けて谷間を強調すると、ジョルジオに甘えるような潤んだ瞳で見つめながら「ね?」と訴えかける。
あぁまたかミナーシュは可哀想だなんだと可愛く瞳を潤ませながらエリスを蹴落とすのが常なので、小さくため息を吐いて「そうですか」と笑顔でかわそうとした時、ジョルジオのいつもより低めの声がそれを遮った。
「エリスの事を言うならば分不相応な恋とはミナーシュ嬢こそではないの?」
「えっ……私?」
「ど、どう言う意味ですか!?私とミナーシュは愛し合って……!」
「たかだかトリスタン程度でも君には勿体ないし、ましてや恋人の隣で俺に色目を使うような気の多い女性を俺だったら好きにはなれないなぁ」
するといつの間にか、背後に居たセイランとレイヴンの声が同調する。
「そうだな、一夜の相手にも選ばないな」
「もう、レイヴン?」
「例えだよ、俺には君しか居ないの知ってるだろう」
「ふふ、知ってる。私も絶対に他の人に向いたりしない」
しっかりとミナーシュを見て言うセイラン
「!」
「そう言うのってなんて言うんだったかな……」
「「??」」
「セイラン様……っ」
「あぁ!市井ではアバズレって言うんでしょ?」
本人達だけでなく、周りにいた貴族達までもがピシリと固まりミナーシュは真っ赤に染まった顔を隠すために頷くしかない。
「あははは!!そうよねぇ、欲張りはだめよ?」
胸元と背中が開いて、かつスリットの入った光沢のある黒いドレスを着たロベリアが大きな声で笑ってから誘うようなギラギラした目でミナーシュとトリスタンを見つめていた。
「ほら、殿下方も困っているし……ねぇエリス?」
「ロベリア、貴女まで……」
「わ、私!知っています!!!貴女が浮気相手だって!」
「……は?それはどっちかしらねぇ?」
パーティーで女の闘いを始めた二人に引くトリスタン、エリスにまで飛びかかりそうな二人からエリスを遠ざけるためまた引き寄せたジョルジオと、
護衛達に大丈夫だと合図で制して、セイランを守るように抱き寄せるとジョルジオに「特別席へ」と短く言ったレイヴン。
そんな四人に気付かない二人は醜い言い争いを繰り広げ、トリスタンは怒りと羞恥でわなわなと震えている。
「待って下さい!エリスは私の……っ!」
「お前の何だ?」
「ジョルジオ様……エリスは……っ」
「私は、貴方の何ですか?知り合い?友達にはなれなさそうだし……元婚約者という消したい過去だけが共通点じゃないかしら?」
「ふはっ!エリス、彼が可哀想だよ」
「……エリスっ!!!」
「とにかく、エリスは俺が今本気で口説いているんだ。邪魔しないで」
「口説いて……っ、こんな地味で根暗な」
「エリスは美しいし、品があってユーモアもあるよ」
「ユーモア!?鈍臭いエリスにそんなこと……っ」
「仕事も出来る上に性格も良いし」
「ジョルジオ様、恥ずかしいです」
「あはは!ごめんね、ほらレイヴン達行っちゃったよ?」
「あ、セイラン様……」
「行こう?兄上も二階で怖い顔をしているよ」
「お兄様……ほんとですね、すみません」
パーティーで笑い者となった二人は呆然とエリスとジョルジオのどう見ても仲睦まじげな様子を見つめているしかできない。
トリスタンもまた、最悪の気分だった。
いつもはエリスに向けられていた好奇の視線も今は自分と婚約者、愛人に向けられており。
羨望の視線がエリスに向けられている。
苛立ちと隣にいるのは私のはずなのにと言う嫉妬心、失ったのだという虚無感が押し寄せてもうその場にいられなかった。
ミナーシュの手を強引に引いて会場から出て行くトリスタンに「トリスタン!?」と声を荒げると
「恋人面するな、エリスと比べてちょっと綺麗だから抱いただけだ」
耳元でそう言われて顔を青くしたロベリアはフラフラと壁際へ去ることが精一杯だった。
「あの、ジョルジオ様」
「ほんとだよ、俺はエリスを口説いてる」
「でも、」
「急がないから考えてみて欲しい。君の嫌がる事はしない。目を見て話したいけどそれも無理強いはしない」
少しだけ震える手と声、赤く染まった耳、真摯な瞳がエリスの心の鐘を鳴らす。恋をするならこんな人がいいなと思ってしまう。
(こんな人?違う、ジョルジオ様だからよ)
「まだ恋とは言えません」
「恋人になって。きっと素敵な恋にするから」
「恋人を前提に、お友達から……」
「ほんとに!?ありがとうエリス!大切にするから……っ」
「まだ、お友達なのに大袈裟じゃ……」
「俺はエリスという一人の人を大切にする。俺が惚れた人」
そう言って笑う顔はどこか可愛くも見えてきゅんとした胸を押さえたままきゅっと唇を結ぶエリスの耳も赤かった。
「ほう、それは恋人とどう違うんだ?」
「野暮じゃない、レイヴン」
「お前達……」
「殿下方……」
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