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2.王宮でのお仕事です

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我が家は代々名騎士を輩出している家門で、兄も例に漏れず素晴らしい騎士だと賞賛されている。

と評判の妹のエリスは頭の良さと、機転の良さを買われて王太子妃の秘書官をしているが、華やかな貴族社会でその地味な風貌と控えめな態度は「舐められ易い」ので王太子妃の目の届かぬ所では、


雑務や残業を押し付けられたりと地味な嫌がらせに遭っている。


秘書室に入るなり、獲物でも見つけたかのように近づいてくる先輩秘書官、
見下すようにぐるぐるに巻かれた髪を指に巻き付けながら、剣も持ったことの無いような華奢な手で弄んでいる。



「あらぁ、今日もまた地味ねぇ」

「……ご機嫌よう」

「貴女みたいな人、トリスタン様は何処がいいのかしらぁ」

(別れましたよ、って言ったらまた五月蝿そうね)

「さぁ?」

「あーそうそう、これ王太子妃殿下にお渡しして来て帰りにレバノンさんから書類を受け取って来てくれる?」


「……」

(まぁ、丁度王太子妃殿下に報告する用事があるし……)


「なに、何か文句があるの?」

「いえ、行ってきます」


「ほんっとケール様に似ていないのね、地味で何考えてるか分からないわ」


(仕事はミスばかり、口を開けば嫌味、何を考えているの分からないのはそっちよね)


なんて内心でやれやれと両手を上げるポーズを想像して王太子妃の元へと急いだ。


「妃殿下、エリスです」

「まぁエリス!入って頂戴っ!!」


王太子妃のセイランは十二と若くして王太子レイヴンに嫁ぎ苦労も多かったが今は二人ともラブラブの良い夫婦である。

婚前に他国から来た、セイランの世話係兼家庭教師として仕えた際にかなり気に入られてからは王太子妃となった彼女の秘書官として務めるエリスの素顔を知る数少ない人物でもある。



「もう聞いたのよ、トリスタンと別れたんですって?」

「はい……」

「陛下ったら、トリスタンにエリスは勿体ないって言うのよ?ふふ、その通りよね」


「勿体ないお言葉です、セイラン様。こちらが報告書と、こちらウチの秘書課のパリスさんからの書類ですが……念の為にこちらを……」


「これは……パリスさん、ね?」

「いえ、私が厚意でお作りしたまでですよ」

「もう~っエリスったら優しすぎるのよ~っ!!」



パリスの書類には不備不足が多く、とひと目見てわかる誤字脱字によくセイランが苦労をしているのに気付いたエリスは、彼女の仕事をカバーするように書類制作をして一緒にセイランに届けるのだ。



別に、パリスを庇っているのではなくセイランがその所為でミスをして恥をかかぬようセイランの為に着飾ることしか興味のない先輩秘書達のカバーをしているのだ。



「貴女が一番仕事が多いはずなのに……少し待ってね?王太子妃の秘書室も見直して貰えるように陛下に掛け合っているから」


「いえ、私はセイラン様のお役に立てて嬉しいですよ」



ふわりと微笑んだエリスの表情はどう見ても美人だと、分厚い眼鏡があっても分かるのに何故皆気がつかないのかとセイランは不思議に思った。




「ありがとう……あ!そうだ!是非次の王宮の夜会には参加してね?私から言ってお休みにしておくから」


「あまり気が進みませんが……」

「やだ、エリスも来て欲しいの~!」

「……わかりました、ではそうします」




まるで姉と妹のような関係だとセイランは思っていた。

エリスが大好きで、トリスタンの事など忘れて幸せになって欲しいと願っていた。せめて仕事を休んでぱーっと遊んで欲しかったのだ。


そんなセイランの気持ちが嬉しくて、エリスはまた少し微笑んだ。



「ありがとうございます、セイラン様」

「こちらこそ、いつもありがとうエリス」



セイランの部屋を出て、パリスからのお使い済ませると秘書室に戻って仕事に没頭する。



仕事はやり甲斐があって好きだった。

トリスタンの事は悲しくない訳じゃないが、悲しさすら感じさせて貰えないほどの馬鹿で良かったとは思う。


「とにかく、夜会に着ていくドレスを作らなくちゃ」


どの道ほとぼりが冷めるまでは質素なものにするつもりだが、それでも使い回すような事はしない。シンプルなだけで、ちゃんとした装いをするのがエリスの信条だからだ。


「なんの夜会~??」

「あ、ロベリア……」

ロベリア・マリシャス、彼女は私の親友らしく尽く私に好意を持ってくれた女性達を蹴散らしてまで私につきまとう。


いい引き立て役だとでも思っているのか、「手離すもんか」とその瞳がいつも笑っていない。




「私も一緒に行くわ、社交会不慣れでしょ?心配だし」




もう、勝手にして下さい。と心の中で悪態をついてから曖昧に笑った。


どの道断っても迎えにくるだろうと。










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