元カレの今カノは聖女様

abang

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変わってしまった君

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「王妃」


「陛下……」


「少し話がある、茶を用意してあるから少し待っててくれんか」



「……分かりました」


元々野心家だった王妃が更に変わったのはルシアンが十二歳になった辺りだっただろう。


国王は誰にも聞こえない、たった一人きりの広間で溜息をついた。


手首に巻きついていたあの紋様は確かに「戒めの力」だった。
それを使える者は大陸でただ一人、聖女だけ。


ただ戒めの力は隷属させる力。ある程度の聖力の精度があってこそ格上の者を隷属させる事が出来る。

現代の聖女の力では到底使いこなせる技では無いのだ。

けれども王妃に限っては、魔力も人並み、努力と家柄の良さで選ばれた王妃であった為セリエの力でも充分に効果があったのだろう。


決して恋愛的な要素は無くとも、国王は王妃の努力家な所や野心家だが子に愛情深く大胆な性格が好きだった。


権力や、後継者問題、そんなものが心優しく勇敢だった妹の心をへし折ってしまったように妻の心もまた段々と蝕んでいった。


実の所、国王とて自らの立場の所為で妹や妻を変えてしまったのだと参っていたがだからといって立ち止まる訳にはいかなかった。

そこで国王は魔法に長けたイブリアと、彼女を通じてディートリヒに秘密裏に協力を願い出たのだった。




「陛下……お呼びでしょうか」


「イブリア、王妃の件よく気付いてくれたな」


「偶然でした……。けれど、あれが何か陛下はご存知なのですね」


「とある者を利用したり、混乱を防ぐ為に王にのみ報告される聖女の力だ」


「聖女の力……?」


国王は聖女の持つ力の全てをイブリアに話した。


「そんな事を私に話しても良いのでしょうか」


「どの道もう隠しきれん、罪を暴かねばならない」



「……そうですか。」



「してイブリア、何か変わった事は無かったか?」


「王妃様の異変以外には特に他の力は感じられませんでしたが誓約がかかっている恐れを考えました」


「戒めの力に限定して他の仕掛けを組み合わせられるほど魔法にも聖力にも長けているとは思えん。その点で心配は無いだろう」



「分かりました、王妃さまについては私とディートで解除する方法を探ります」


「助かる、頼んだぞ」



イブリアが部屋を出た後、国王はただのひとりの男に戻った。

ひとりの父として胸が引き裂かれる思いだった。



その場に蹲り、長らく出たことのない涙はやはり出なかったが声にならない叫びだけが虚しく響いた。


「ルシアン……何故私に耳を傾けなかった……」


そんな父の心などルシアンに届くはずもなく、彼は王宮の自室で過ごす最後の夜に嘆いていた。



「何故だ……!父上が私を廃嫡にするなど!!!」


後に説明されたのはルシアンの住まいは王都の端の方に小さな邸を与えられ、そこにセリエと暮らすらしい。

王宮騎士団の新入りとして雇用され、王宮からの援助は無いと。


「こんな筈じゃなかった……イブリアなら私を助けてくれる筈だ」

(ずっとそうだった、昔から。イブリアは私の為に惜しまず持てる力を奮った!きっと今回……)




「今回は……無理だ。私は失ったんだ、全て」


"ルシアン、少し背が伸びたか?"

"父上!!はい!ぼくも大きくなったら王さまになるんだ!"

"そうかそうか!なら私は手本とならねばなぁ"



幼い頃の父との会話がふと思い浮かぶ。


そして少し大人になった自分と使用人との会話を思い出した。




"国王陛下のあのようなお顔は久方ぶりに拝見しました"

"殿下はとても愛されておりますね"

"そんな訳ない!父上は私や母より執務が大切なんだ!"



(父上……)



ルシアンは全て失ったのだと気付くと、さっきまで騒がしかった脳内が妙に静かになった気がした。


何故、セリエはイブリアに脅迫されたフリをしたのか


何故、他の子息達にもまるで愛しているかのように振る舞うのか


国王の苦言の意味はなんだったのか、イブリアは何故自分から離れたのか。



何故、こんなにも苦しいのか……



「私は、父上に愛されていた。そして……イブリアを愛している」



迷いこそあったものの、まるでセリエが自分にとって世界一大切な女性かのように感じていた気持ちがスッと無くなった気がした。




「……っ、私はなんて愚かだったんだ」



ずっと甘えてばかりだった。


母に、イブリア、周りの人達や、父にも。


自分を愛するが故に行きすぎる母を自分が止めるべきだったのに、いつも自分の利益の為に見過ごしていた。


そして今回は、自分の愚かな色恋沙汰に母を巻き込んでしまった。



母だけじゃなく、皆をだった



「ーっ」


取り返しのつかない事態に今更震えが止まらないルシアンは、自分の行く末と一体、セリエにはどんな意図があるのだろうかと怖くなった。


それでも、もう二人は婚約者として認められルシアンはセリエと共に暮らすのだ。それは変えられない事実だった。











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