上 下
28 / 42

そろそろ婚約なんてしたいんだが

しおりを挟む


「婚約者ではないのか?」

王族同士の会議の後の食事会でそう聞かれたのはほんの数日前のことだった。近隣国の王女が曰く、「女性はプロポーズを待っているものですよ」らしい。

たしかにフレイヤは少し照れ屋なところがあるので、もしかしたら案外待っていてくれているのかもしれない。

「嬉しいわ!」と瞳を潤ませて喜ぶフレイヤを想像してニヤけていると父上からフォークが飛んで来た。


「父上……」

「顔がだらしないぞ」

「あなた、ルディ、やめなさいな」

「……母上、女性はプロポーズを待っているものですか?」

「まぁ……男性からして下さるのが理想ではあるかしらね」


「そうですか!」

閃いたように立ち上がったルディウスは父親の「ちょ、早まるな」という言葉を聞かずに飛び出して行ってしまう。


「大丈夫だろうか……」

「そうですね、きっと無傷ではすまないはず」


両親の心配なぞ知らぬルディウスは宝石商を呼び出すと「世界一美しいダイヤを用意してくれ」と無理難題を押しつけて、デザイナーを呼ぶと事細かに指輪のデザインを決めた。


フレイヤの元に通いながらも、気づかれぬよう準備を進めていざやってきたその日。


場所は王宮の部屋の中で最も景色が美しく見えるテラスを選んだ。

装飾や食事も念入りに準備し、雰囲気作りの為に宮廷音楽団に演奏を頼んだ。

雰囲気が伝わったのか心なしかいつもよりも更に磨きのかかった装いで来たフレイヤがいつも連れている侍女に笑顔で頷かれるので、これは完璧に気づいていて応援されているなと思った。

入念にシミュレーションした今日を今のところ順調にこなしていると、フレイヤは小首を傾げて何か言いたげにする。


「どうしたの、フレイヤ?」

「……今日はやけに皆笑顔だし気合が入っているの」

「今日は一段と美しいよ」

「ルディ様、会話が出来なくなったの?」

「……ん"ん、それはさて置きスイーツなんてどうかな?」

「……!頂きますわ」

(よし、気を逸らせた!)


甘いものに顔を綻ばせる可愛いフレイヤをみて表情を緩ませるルディウス、そんな彼を辛辣に「顔が変ですよ」とひと斬りするフレイヤに使用人達は笑いを堪えながら、プロポーズの時を見計らうルディウスを見守る。


「ところで、近頃フレイヤの母上は何か仰っているか?」

「心配には及ばないわ、見合いの話はサッパリ無くなりましたもの」


その言葉を聞いてホッとした表情の後、ニヤニヤとするルディウスはもう彼女の両親に自分がフレイヤの隣に居ることを公認されているという事実に舞い上がりそうな気分だった。


「え、きもちわ……」「言わないでフレイヤ」


「あ。戻ってきた」

「顔がってことかな?」

「頭ですかね……完璧に頭がイカれてた」

「意味変わってくる」


「ま、いいや」とお茶を啜るフレイヤが甘いものに満足したのを見計らうと、そろそろかなも使用人達に視線を送る。

音楽団の演奏する曲もムードあるものに変わり、「ん?」と雰囲気の変化に顔を上げたフレイヤに微笑みかける。


「フレイヤ」

「何でしょう?」

「君は、その俺の恋人だと思っているんだが……」

「ええそうです、予想外でしたが」

「え……いや、まぁその……だとすれば俺達そろそろ」

「?」

「フレイヤ……俺と、婚約してくれませんか」


薔薇の花びらが舞い、フレイヤが好きな曲がかかる。

センスのいい美しい輝きを放つダイヤモンドが光って、ルディウスの整った顔が照れたように頬を染めて、優しく微笑む。

けれどその瞳の奥は情熱的にフレイヤを求める一人の男性のそのもので、

勿論フレイヤはもうルディウスを愛しているのだから嬉しい。



「が、断る」

「え"!俺の勘違いだった?」

「いえ、……愛していますが」

「ならば、女性は待っていると聞いたが」

「へ?待ってはいませんが」



白目をむいてもう意識朦朧のルディウスは振り絞ったような声でフレイヤに尋ねた。


「なら、り、理由を聞いても?」

「王族になるのは面倒だなって」



「「お嬢様!?」」


「「「「ぶはっ!!」」」」

焦るフレイヤの侍女達と、噴き出すルディウスの使用人達の声に隠れてひっそりと呟いたフレイヤの声にルディウスは完全復活を遂げた。



「でも、ルディ様の為だったら我慢します」

「フレイヤっ!!!愛してる」


((我慢するでいいのか殿下))

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜

秋月乃衣
恋愛
ルクセイア公爵家の美形当主アレクセルの元に、嫁ぐこととなった宮廷魔術師シルヴィア。 宮廷魔術師を辞めたくないシルヴィアにとって、仕事は続けたままで良いとの好条件。 だけど新婚なのに旦那様に中々会えず、すれ違い結婚生活。旦那様には愛人がいるという噂も!? ※魔法のある特殊な世界なので公爵夫人がお仕事しています。

不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする

矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。 『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。 『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。 『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。 不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。 ※設定はゆるいです。 ※たくさん笑ってください♪ ※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

寝取られ予定のお飾り妻に転生しましたが、なぜか溺愛されています

あさひな
恋愛
☆感謝☆ホットランキング一位獲得!応援いただきましてありがとうございます(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)  シングルマザーとして息子を育て上げた私だが、乙女ゲームをしている最中にベランダからの転落事故により異世界転生を果たす。 転生先は、たった今ゲームをしていたキャラクターの「エステル・スターク」男爵令嬢だったが……その配役はヒロインから寝取られるお飾り妻!? しかもエステルは魔力を持たない『能無し』のため、家族から虐げられてきた幸薄モブ令嬢という、何とも不遇なキャラクターだった。 おまけに夫役の攻略対象者「クロード・ランブルグ」辺境伯様は、膨大な魔力を宿した『悪魔の瞳』を持つ、恐ろしいと噂される人物。 魔獣討伐という特殊任務のため、魔獣の返り血を浴びたその様相から『紅の閣下』と異名を持つ御方に、お見合い初日で結婚をすることになった。 離縁に備えて味方を作ろうと考えた私は、使用人達と仲良くなるためにクロード様の目を盗んで仕事を手伝うことに。前世の家事スキルと趣味の庭いじりスキルを披露すると、あっという間に使用人達と仲良くなることに成功! ……そこまでは良かったのだが、そのことがクロード様にバレてしまう。 でも、クロード様は怒る所か私に興味を持ち始め、離縁どころかその距離はどんどん縮まって行って……? 「エステル、貴女を愛している」 「今日も可愛いよ」 あれ? 私、お飾り妻で捨てられる予定じゃありませんでしたっけ? 乙女ゲームの配役から大きく変わる運命に翻弄されながらも、私は次第に溺愛してくるクロード様と恋に落ちてしまう。 そんな私に一通の手紙が届くが、その内容は散々エステルを虐めて来た妹『マーガレット』からのものだった。 忍び寄る毒家族とのしがらみを断ち切ろうと奮起するがーー。 ※こちらの物語はざまぁ有りの展開ですが、ハピエン予定となっておりますので安心して読んでいただけると幸いです。よろしくお願いいたします!

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」 伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。 そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。 ──あの、王子様……何故睨むんですか? 人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ! ◇◆◇ 無断転載・転用禁止。 Do not repost.

夫に離縁が切り出せません

えんどう
恋愛
 初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。  妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。

【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。 伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。 しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。 当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。 ……本当に好きな人を、諦めてまで。 幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。 そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。 このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。 夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。 愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。

処理中です...