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そろそろ婚約なんてしたいんだが
しおりを挟む「婚約者ではないのか?」
王族同士の会議の後の食事会でそう聞かれたのはほんの数日前のことだった。近隣国の王女が曰く、「女性はプロポーズを待っているものですよ」らしい。
たしかにフレイヤは少し照れ屋なところがあるので、もしかしたら案外待っていてくれているのかもしれない。
「嬉しいわ!」と瞳を潤ませて喜ぶフレイヤを想像してニヤけていると父上からフォークが飛んで来た。
「父上……」
「顔がだらしないぞ」
「あなた、ルディ、やめなさいな」
「……母上、女性はプロポーズを待っているものですか?」
「まぁ……男性からして下さるのが理想ではあるかしらね」
「そうですか!」
閃いたように立ち上がったルディウスは父親の「ちょ、早まるな」という言葉を聞かずに飛び出して行ってしまう。
「大丈夫だろうか……」
「そうですね、きっと無傷ではすまないはず」
両親の心配なぞ知らぬルディウスは宝石商を呼び出すと「世界一美しいダイヤを用意してくれ」と無理難題を押しつけて、デザイナーを呼ぶと事細かに指輪のデザインを決めた。
フレイヤの元に通いながらも、気づかれぬよう準備を進めていざやってきたその日。
場所は王宮の部屋の中で最も景色が美しく見えるテラスを選んだ。
装飾や食事も念入りに準備し、雰囲気作りの為に宮廷音楽団に演奏を頼んだ。
雰囲気が伝わったのか心なしかいつもよりも更に磨きのかかった装いで来たフレイヤがいつも連れている侍女に笑顔で頷かれるので、これは完璧に気づいていて応援されているなと思った。
入念にシミュレーションした今日を今のところ順調にこなしていると、フレイヤは小首を傾げて何か言いたげにする。
「どうしたの、フレイヤ?」
「……今日はやけに皆笑顔だし気合が入っているの」
「今日は一段と美しいよ」
「ルディ様、会話が出来なくなったの?」
「……ん"ん、それはさて置きスイーツなんてどうかな?」
「……!頂きますわ」
(よし、気を逸らせた!)
甘いものに顔を綻ばせる可愛いフレイヤをみて表情を緩ませるルディウス、そんな彼を辛辣に「顔が変ですよ」とひと斬りするフレイヤに使用人達は笑いを堪えながら、プロポーズの時を見計らうルディウスを見守る。
「ところで、近頃フレイヤの母上は何か仰っているか?」
「心配には及ばないわ、見合いの話はサッパリ無くなりましたもの」
その言葉を聞いてホッとした表情の後、ニヤニヤとするルディウスはもう彼女の両親に自分がフレイヤの隣に居ることを公認されているという事実に舞い上がりそうな気分だった。
「え、きもちわ……」「言わないでフレイヤ」
「あ。戻ってきた」
「顔がってことかな?」
「頭ですかね……完璧に頭がイカれてた」
「意味変わってくる」
「ま、いいや」とお茶を啜るフレイヤが甘いものに満足したのを見計らうと、そろそろかなも使用人達に視線を送る。
音楽団の演奏する曲もムードあるものに変わり、「ん?」と雰囲気の変化に顔を上げたフレイヤに微笑みかける。
「フレイヤ」
「何でしょう?」
「君は、その俺の恋人だと思っているんだが……」
「ええそうです、予想外でしたが」
「え……いや、まぁその……だとすれば俺達そろそろ」
「?」
「フレイヤ……俺と、婚約してくれませんか」
薔薇の花びらが舞い、フレイヤが好きな曲がかかる。
センスのいい美しい輝きを放つダイヤモンドが光って、ルディウスの整った顔が照れたように頬を染めて、優しく微笑む。
けれどその瞳の奥は情熱的にフレイヤを求める一人の男性のそのもので、
勿論フレイヤはもうルディウスを愛しているのだから嬉しい。
「が、断る」
「え"!俺の勘違いだった?」
「いえ、……愛していますが」
「ならば、女性は待っていると聞いたが」
「へ?待ってはいませんが」
白目をむいてもう意識朦朧のルディウスは振り絞ったような声でフレイヤに尋ねた。
「なら、り、理由を聞いても?」
「王族になるのは面倒だなって」
「「お嬢様!?」」
「「「「ぶはっ!!」」」」
焦るフレイヤの侍女達と、噴き出すルディウスの使用人達の声に隠れてひっそりと呟いたフレイヤの声にルディウスは完全復活を遂げた。
「でも、ルディ様の為だったら我慢します」
「フレイヤっ!!!愛してる」
((我慢するでいいのか殿下))
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