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良く見ればバカップル

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令嬢達のお茶会にセットで招待されるのは別に珍しいことではない。

フレイヤと私が長年の親友をしていることはもう国中の人達が知って居ることで、どこの茶会にも「よければご一緒に」とお互いの名が入っていることが多い。


何故か対抗してくるように、これ見よがしに大きな贈り物を届けルディウスにいくら私財とはいえ無駄遣いをするなとフレイヤに笑顔で蹴られていたのはつい昨日のことなのに、今日もまた届く大きな花束と何故か今日のドレスに合うイヤリング。

(ストーカーは健在か)


どうでもいい、というわけではなく満更でもなさそうなフレイヤは分かり辛いがプレゼントが嫌な訳じゃなくて単純に貢がれるのが申し訳なくてよくルディウスを蹴っているのだ。


「いや、王族蹴ってる時点でおかしいけどね」

「どうしたの?ティリー」


可愛く首を傾げるこの絶世の美女には、美しいと皆に賞賛される私ですらも見劣りしているのではないだろうか。




「いいえ、何でも無いわ」

「そう……ねぇこのお茶とても美味しいわね」

「そういえばそうね、どこのかしら?」

「あっこれは……」

私とフレイヤの声に気を良くした主催の令嬢がお茶についての説明をしてくれたり、恋の話や、噂話など他愛もない話に見えるが情報交換をする。


フレイヤはいつも、ご公務モードではさほど変人ではない。


彼女が変人だという事は国中が知っているのに、一応メリハリという事だろうか。



と、安心しているとフレイヤが突然、宙を舞って回転の力を利用しながら草むらに飛び蹴りをした。



「「「「えぇ!?」」」」

「もう凄すぎて何て言えばいいか分かんないわ」



首根っこを掴んで引き摺り出した黒尽くめの男に驚いたのはひとりの令嬢だった。


「申し訳ありません!ウチの護衛なのですが……庭園の外で待って居てと申し付けておいたのに……っ」



「も、申し訳ありませんお嬢様っ!!その……ふ、フレイヤ様の大ファンでひと目近くで見てみたいと思うとつい……」



(そのフレイヤに一瞬でやられたけどな)


ティリアの心の声など届かぬ彼は、フレイヤに首根っこを掴まれているというのに至極嬉しそうだ。


(さっき一瞬気絶してなかった?)



「まぁ、そうだったのね。手荒な真似をして御免なさいっ」


そう言って驚いたように両手で口元を覆ったフレイヤのせいでドサッと地面に落ちた護衛の男にフレイヤは「しまった」というような目で「あ」と言ってから笑って誤魔化した。



「誤魔化せてないわよフレイヤ」

「ティリー、実は掴んでいた事を忘れていたわ」



「大丈夫?」


そう言って屈んで手を差し伸べたフレイヤに皆が「お優しい!」と感動していると男がフレイヤの手をおそるおそる掴もうと手を伸ばした瞬間に、


「だ、駄目だ!!」

とやけによく通る声が響きフレイヤに向かって来る。


それと同時にフレイヤの手はその声の主のみぞおちに綺麗にヒットしており、「ぐっ」とカエルさながらの声を出してうずくまったその人の姿を確認して顔が真っ青になる令嬢達。



「「「「で、殿下っ!!」」」」


「あ……つい、反射的に」

「なんで居るのですか」



「や、やぁ……フレイヤ、ティリア嬢、冷たいな」



「だって不審者かと……」

「これは殿下の自業自得かと」



「もう、大丈夫ですか?」


そう言って同じように座り込んで、ルディウスの頬に手を添えてみぞおちを抑える手までそっと下ろすと撫でた。



「「「「きゃーっ!!」」」」


令嬢達は頬を染めて嬉しそうに黄色い声援を上げる。

頬を染めて、何か堪えるように石化したルディウスが返事をしないのを不思議そうに見てからティリアを振り返るフレイヤ。


「ティリー、彼はもうただの屍のようだ」

「なんか聞いたことあるわそれ」

「埋めましょう」

「やめなさい」



その後、復活したルディウスが騒ぎ出してフレイヤが面倒そうにするものの繋がれた手を解かないところを見る限り少なからずフレイヤもルディウスに会えて嬉しいのだろう。


「ね、ティリー」

「なに?」

「こっちは貴女と繋ぐわ」

「え……」



「私の一番はティリーよ」


「フレイヤ、俺は?」


「三番!」


「いや、二番誰だよ」


「それはね、この間亡くなったお父様よ……」

「「生きてるわ」」

「あれ、おかしいなぁ」


(あんたの頭がな)


"ほんとは順位なんてないの"とルディの方の手を恋人繋ぎにしたフレイヤと頬を染めて嬉しそうに笑ったルディウスはやっぱりバカップルだと思う。










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