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恋人になる為には?

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相変わらず、簡単に終わった積み上げた書類を見上げて

「次の視察はいつだったか?」

と部下に訊くルディウスはちゃんと王太子だ。





「当分は有りませんので、王都で執務に励むようにと陛下からの言伝です」


いつもは消費すれば仕事と、次々と舞い込む筈なのに妙に含みのある父親の意図に気付いてニヤリとする。


(あぁ成る程、早く心を手に入れろという事か)



「よし、決めた。俺はフレイヤに会いに行くぞ」

「殿下、既に暇さえあれば行っておられますが」

「まず、恋人になるにはどうしたらいい?」

「正直に申し上げても?」

「ああ、許す」

「身分、顔、スタイル、性格と何ひとつ申し分ない上に殿下は女性の憧れの的です。所謂優良物件というわけです。なのでフレイヤ様が特別なのかと……分かりません」


「……確かに彼女は特別な女性だ!」


(いやめっちゃポジティブだな)



「人間の中で一番美しいと言っても過言ではないな」

「盲目怖い」

「何か?」

「いいえ、滅相も御座いません。その通りで御座います」



でも、どう見てもルディウスはフレイヤにとって一番身近な男性だろうと彼の部下は思ったが口には出さなかった。


ご機嫌な様子で馬車に乗って出掛けて行ったルディウスを見送って仕事に戻った。





「フレイヤお嬢様、王太子殿下がいらっしゃいました」

「分かったわ、帰って貰って頂戴!」

「出来ません」

「やぁフレイヤ、誰に帰って貰うの?俺が出ようか?」

「アナタデスケド」

「もう入って来ちゃった」

「お母様ですね……」


そう言いながらも慣れた手つきで出すお茶はルディウスの好きな香りで味だ。思わず顔が綻ぶと目を細めて「何ですか」と警戒するフレイヤが少し可愛くて笑ってしまってまた睨まれた。




「いや、フレイヤが可愛くて」

「鏡を見れば分かります」

「謙虚さは忘れて来たようだね」

「貴方にだけは言われたくないわ」

「敬語……でも、それイイね。やっぱり可愛い」


そう言って手を握ったルディウスはてっきり振り払われるか手の甲をつねられると思ったが中々来ない痛みにフレイヤを見ると、頬染めて恨めしそうにする彼女の初めて見る表情にぴたりと思考が止まった。


「えっかわっ……!」

「そうやって女性達を口説いているという事はわかりました」


フレイヤは「可愛い」と言ったルディウスの表情があまりに優しく、愛おしいと伝えてくるような表情だったので思わず頬を染めたのだった。

誤魔化すようにそっぽを向いてそう言ったフレイヤに嬉しそうに「ふふ」と笑ったルディウスが「口説くのはフレイヤだけだよ」と言った所でとうとう彼女から手の甲をつねられた。


「やめて下さい」

「照れてるんだ」

「違います」

「脈があると思ってもいいかな?」

「脈なら皆ありますが?」


(なんで突然の真顔……)


「いやその脈じゃねーわ」





それでも、ルディウスはフレイヤの耳が微かに赤いことは言わないでおこうと、さっきからうるさく鳴る胸にしまっておいた。


「ディエゴ、次からはこの変な人は追い出しましょうね」

「ニャー」

「変なこと教えるな」



翌日、「王太子殿下とルディウスという名の者は出入り禁止」と貼り出された貼り紙を持って普通にフレイヤの部屋を訪れたルディウスが令嬢とは思えぬ飛び蹴りを喰らったのはまた別の話……


「フレイヤ、君は一体……」

「あらルディ様、愛の鞭ですわ」

「愛……っ、結婚……!?」

(くそう、失敗したわ)

「それだけはやめて下さい」

「フレイヤ……本気で断らないで」



そう言って出されたお茶はやっぱりルディウス好みで美味しかった。




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